表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
43/111

第39話 軽薄なる八賢者の男

「何だこいつ‥‥」


 斬っても切っても、裂けた断面からまた肉体が再生してくる。

 このままじゃ埒が明かないぞ――!


「終わりか?バルトガピオス様と戦った時は、その程度ではなかっただろう」

「さぁ、私にも原種の力を見せてみろ!」


「くっ!」


 ゾンビ女は自らの腸を鞭のように振り回し、ジルの動きを牽制した。

 不意に近づけば大鎌で切り裂かれ、距離を取れば鞭の餌食になってしまう。つかず離れずの距離を保って戦うのも体力的にそろそろ加減限界だ。


「厄介だな‥‥!」


 相手の思うつぼのようで気が進まないが、こうなったらいつも通りあの姿で…。


「アグニル!!」


 突如として響き渡った轟音とともに怪物は爆炎に包まれた。


「!?」


 間違いない、この炎は―――。


「ヘイゼル!!」


 なんていいタイミングで来てくれたんだ!


「全く、馬車は任せたはずだけど?」

 

 呆れた表情で、颯爽と現れたヘイゼルはジルを睨みつけた。


「ごめん、でも助かった」


 一人で大丈夫などと言っておきながらこの始末。我ながら本当に情けない。

 しかし、ヘイゼルがいれば百人力だ。彼女の加勢によって形勢は完全に逆転するだろう。


「さっさと決めるわよ、ジル」


「もちろんだ…!」


 ヘイゼルの前で、これ以上無様を晒すわけにはいかない。

 僕は剣を力強く握り直し、再び怪物の方へと向き直る。


「忌み魔女ヘイゼルか―――フン、厄介だな」


「あら?私のこと知ってたのね」

「それなら、アンタ如きが私に敵わないってことも分かるでしょ?」


 余裕綽綽と相手を見下すヘイゼル。

 挑発のように聞こえるが、決してハッタリではない。


 イルエラの森で戦った時のヘイゼルの実力から考察するに、この怪物はヘイゼルよりも格下だ。恐ろしい不死性を持ってはいるが、ヘイゼルの炎の前には一たまりもないだろう。


「ああ、私では敵わない」


「あら?やけに素直じゃ‥‥」


「だから、こうするのさ!!」


 こちらが反応するよりも速く、女は馬車の窓から自らの腸をロープのように投げ入れ、バルトガピオスを強引にキャリッジから引きずり出した。


「うっはあ!豪快だねぇ!ゲラルフちゃん!」


 馬車から飛び出し、地面に突っ伏しながらバルトガピオスは嗤う。

 四肢をもがれ、絶望的な状況にありながらも‥‥この化け物は笑みを絶やさない。


「失礼」


 そして、ゲラルフは手に持った鎌をバルトガピオスの喉元に突き付けた。


「うそ、本気!?」


「まずい!止めないと!!」


 バルトガピオスが死ねば四肢が再生し、また完全復活を遂げてしまう!

 またあんな怪物を相手にするなんて御免だぞ!


 急いで斬りかかろうと、剣を手に走り出したが―――間に合わない。


 ゲラルフの大鎌は、バルトガピオスの首を何の躊躇いもなく切り落とした。


「!!」


 間欠泉のように、バルトガピオスの首からどす黒い血が噴き出す。

 彼女の肉体はビクビクと痙攣しながら地面をのたうち回り、次第に四肢が再生し始めた。


 あまりの絵面に胸が気持ち悪くなる。


 これは、あんまりだ。

 人間が直視していいようなものじゃない。まるで一種の呪いのようじゃないか。


「ジル‥‥」


 右足、左足、右腕、左腕。破損した四肢が全て再生し、首無しの怪物は再び立ち上がる。


「ゥゥゥゥゥゥ―――」


 そうして最後に、最もおぞましい頭部が再生した。


「これで、元通り―――と」


「・・・」


 こんなの‥‥こんなのまるで‥‥悪夢じゃないか。


「う、ぷぷぷ」

「うっぷぷぷ―――あっははははははは!!!!!」


 自らの再誕を祝福するかのように、歓喜に咽ぶバルトガピオス。


 狂気の怪物は、今ここに復活を果たしたのだ。



「さーてと、これで2対2だね」


 不気味に微笑みながらバルトガピオスは二人を見つめている。


 とてもまずい状況だ。

 こんな町の近くで戦えば、間違いなく住民たちに被害が出る‥‥!


「もう一度、あの力を使うしか‥‥」


「ぷぷ、それはやめた方が良いね」


「ふん!また僕に負けるのが怖いのか?」


 僕は精一杯バルトガピオスに強がって見せた。

 こんなくだらない脅しが彼女に通用するとは思わないが、何も言わずに怯えているよりは幾分かマシだ。


「茶化すなよ、こっちは親切心で言ってやってるんだ」


「親切心だと?」


「おかしいとは思わないのかい?」

「キミは原種としてはまだまだ不完全のひよっこだ。それなのに、あれだけの力を行使して平然としていられている」


「確かに‥‥通常、強力なスキルや攻撃であるほど、より多くの魔力を消費し疲弊する」

「でも、一般人程度の魔力しかもたないジルが、あれだけの力を振るって全く消耗していないのは明らかにおかしい―――」


 バルトガピオスの言うことにも一理あると言わんばかりに、ヘイゼルが独り言のようにぶつぶつと呟いた。


「うぷぷっ、その通り」

「恐らくキミは魔力の代わりに“別の何か”を消耗している」


「別の何か‥‥だって?」


 確かに、あんなチートまがいの力を何のデメリットも無く使えるなんて都合の良い話すぎる。

 でも‥‥代償として、僕はいったい何を失っているんだ?


「寿命とか五感とか、ひょっとしたら人間性まで失っているのかもしれないねぇ」


「なっ!!?」


 寿命!?さらっとえげつないことを聞いてしまった気がするんだが!

 というか、五感と人間性が無くなるとか‥‥もうそれ生きていけなくないか!?


「お、脅しに決まってる!」

「僕を騙そうったってそうはいかないぞ!」


 そうだ、コイツは僕に揺さぶりをかけるためにデタラメなことを好き放題言っているんだ。


 落ち着け、相手のペースに呑まれるんじゃない。


「さっさと力を解放して、ケリをつける‥‥!」

 

 僕の肉体(アバター)に眠る、超常の力。

 

 バルトガピオスが原種の力と呼ぶ、あの強力無比な力を引き出すため僕は再び目を閉じた。気が高まり、腹の底から力が湧いてくる。

 

 僕が力を解放しようとした、その時‥‥。


「待ちなさい」


 ガシリ、とヘイゼルが僕の肩を掴んだ。


「ヘイゼル?」


「癪だけど、彼女の言うことは正しいわ」

「考え無しにその力を使い続ければ、アンタ自身を滅ぼすことになるかもしれない」


 (はや)る気持ちを落ち着かせるように、ヘイゼルは僕を制止した。


「でもあの力が無いと、バルトガピオスを倒すことなんて‥‥!」


 ヘイゼルやリリィでも敵わないのに、生身の僕が原種の力抜きでやり合える訳がない。たとえ大きなツケが回って来るのだとしても、今あの力を使うべきだ。


「うぷぷ、さァどうする原種クン?」

「大人しくついて来れば、命までは取らないであげるけどねぇ?」


「まぁでも助けるのは原種クンだけで、そこの小賢しい魔女は生かしてはおかないけどね!うぷぷぷっ!」


 勝ち誇った笑みを浮かべながら決断を迫るバルトガピオス。

 この絶体絶命の状況を、彼女は心の底から愉しんでいるようであった。


「ジル、駄目よ―――落ち着いて」


「く…!」

 

 僕は一体、どうすれば。





「おや、どうやら助けが必要なようですね」


「僭越ながらこの私が助太刀しましょう」


 どこからともなく声が響き渡り、若い男がジル達の前に姿を現した。


「クラック…!」


「誰だ…!?」

 

 そして、男は目にもとまらぬスピードでゲラルフ、バルトガピオスの元へと詰め寄って行き…。


「てめェ‥‥生きて…!」


「よいしょっ、と」


 瞬きの間に、二人の首を素手で切り落とした。


「うそ!!?」


「いやぁ、私の手刀もまだまだ捨てたものではありませんねぇ」


 両手に鮮血を滴らせながら、男はぼんやりと呟く。


 何て強さだ。

 一瞬にして、あの怪物たちの首を一撃で‥‥しかも素手で刎ねてしまうなんて。


「おっといけない、彼女たちは不死身なんだった」


 男は慌てた様子でその場にしゃがみ込み、横たわる二体に触れた。


「!」


 その瞬間、クラックの指先が触れた部分からバルトガピオス達の体が灰色に変色していく。

 あまりにも不気味なその光景に、僕とヘイゼルは思わず釘付けになってしまう。


 やがて、彼女たちの体は余すところなく灰色に染まり切ってしまった。

 まるで…永遠に砕けない石になったみたいだ。


「これでよし」


 よっこらせ…と、けだるげそうに男は立ち上がると、呆然と立ち尽くす僕たちの前へと向き直った。


「キミがジル君だね?」


 な!?僕の名前を知っているだと?!


「貴方は…!?」


「ジルーーー!」

 

 息を切らし、こちらに手を振りながら、僕の言葉を遮るようにリリィが走って来た。


「はぁ…はぁ…よかった!無事だったんだね‥‥!」


「うん、何とか」


 いや、今は僕の安否などどうでもいい。それよりも僕の前に立つこの男だ。


 バルトガピオス達を一瞬にして制圧するほどの力を持ち、尚且つ僕の名前を知っているなんてどう考えてもタダものじゃない。


「タダものじゃない、ですか‥‥ふふ」

「いえいえ、私はそんなに大した人間ではありませんよ」


「貴方の名前を存じ上げていたのは、先ほどヘイゼル殿とリリィ殿からお伺いしたからであってですね‥‥」


「!?」


 心を読まれた!?


「ええ、読みましたよバッチリと」


「ああ…申し遅れました」

「私の名はクラック。蚕食のクラックとも呼ばれている、八賢者の一人です」


「え」


 八賢者!?八賢者の一人って言ったか今!?


「ふふ。声にこそ出ててはいませんが、いいリアクションです」


「クラック、ジルを揶揄うのはそのくらいにしてちょうだい」


「おや、これは失敬」


「どうやら言葉以上に、ヘイゼル殿の心はフツフツと燃え上がっているご様子」

「私も命が惜しいので、ジル殿への挨拶はこのくらいにするとしましょう」


「ッ!?」

「か、勝手に人の心読むんじゃないわよ!!」


「えっと‥‥展開が急すぎて頭が付いて行かないんだけど」


 八賢者の情報を得る為に、リリィの知人を訪ねに来たはずが、八賢者本人と遭遇してしまっている。それはそれで嬉しい誤算だが‥‥。


「まず、事の成り行きを説明するね」


 リリィは困惑する僕に対して、現状を丁寧に説明してくれた。



 そして僕はようやく、状況に追いついた。


「つまり八賢者は聖都の策略によって力を奪われ、かつての威厳を失ってしまっているという訳か」


 聖都グランエルディア‥‥外征騎士といい、ロクでもない連中ばかりだな。


「でも、力を奪われている割には結構強かったような」


 僕たちがあれほど苦戦した相手を、たった一撃で仕留めてしまうほどの戦闘力だ。

 力を奪われる前の状態がどれだけ強力であったかなど、容易に想像できる。


「腐っても八賢者ですからね、そう易々とはやられませんよ」


 はっはっは、とクラックは陽気に笑い飛ばした。

 あまりのフランクさに、本当に賢者なのかと疑ってしまいたくなる。


「じゃあ次の目的地は“神威のヨムル”が居るロンガルクって町でいいのかな?」


「そうね、他の八賢者が力を失っている以上。私達にはヨムルを頼るしか他に手が無い訳だし」


「旅の方針は固まりましたか?」

「では、先を急ぐと良いでしょう。私の仮説が正しければ、貴方たちに残された猶予は残り少ない」


 少し曇った表情で、クラックは僕たちへと忠告した。


「どういうことですか?」


 悪い知らせなんて聞きたくはなかったけど、聞かずに居るのはもっと怖い。

 僕は勇気を振り絞り、クラックの言葉の真意を問う。


「キミを襲ったバルトガピオスという魔物。ヤツはかつて世界を混沌の渦に巻き込んだ史上最悪の災厄“魔王ガイア”に仕えていた魔王軍の幹部なのです」


「魔王ガイア‥‥」


 やはり、八賢者の口からもヤツの名がでるか。


「300年前、魔王ガイアの軍勢は魔王もろとも勇者によって倒された後、永遠に目覚めぬように八賢者たちの手で封印された」

「しかし、バルトガピオスだけは我らの封印の手を逃れ、歴史の表舞台から姿を消したのです」


「けれど‥‥300年間一度も姿を現さなかった彼女が、再びこうして我々の前に現れた」

「そして、キミという勇者を名乗る存在の出現」


 この二つの事実が導く答えは一つ。


「魔王ガイアはじきに目を覚まし、勇者無き世界は再び混沌の渦に呑み込まれる」


「――――」


 魔王ガイアの復活。

 エイミーから何度も聞いてはいたが、八賢者の口から改めて告げられると思わず身震いしてしまう。


 世界を滅ぼすほどの災厄、そんな怪物相手に―――僕はどこまで戦えるのだろうか。


「‥‥とは言ったものの、焦って冷静さを欠いてしまっては元も子もありません」

「ひたすら着実に、一歩一歩を大切に進むと良いでしょう」


 さきほどまでの重苦しい雰囲気とは打って変わり、クラックは僕たちへ向けてニッコリと微笑んでみせた。


「一つ聞いてもいいですか?」


 彼が知っているかは分からないが、ものは試しだ。


「おや、何でしょう」


「魔王ガイアがアークの管理エリアを襲撃した。そんな話を聞いたことはありませんか?」


「管理エリア?なんです?それ」


「あ、いや知らなければ結構です」


 ダメもとで聞いてみたけどやっぱり無駄か。

 八賢者といえど、所詮はこの電脳世界の住人。


 プログラムで構成された彼らが、管理エリアの存在などしっているはずも無かったのだ。


「良く分かりませんが、ユフテルの歴史についてはヨムルの方が詳しい。疑問点があれば、彼女に聞いてみると良いでしょう」


「はい、そうしま‥‥」


「あれ!?」


 突如、リリィの大きな叫び声が僕の背中を突き刺した。


「ど、どうしたんだよリリィ」


 らしくない。急に大きな声を出すなんて、まるでエイミーみたいじゃないか。


「ねぇジル、馬車ってそこにずっと停めてあったよね?」


「当たり前だろ?中にエイミーも居るんだし、動かす訳‥‥」


 まったく、リリィは何を騒いでいるんだ。

 

 僕は停留する馬車を確認しようと、後ろを振り返る。


 すると‥‥。


「・・・あれ?」


 無い。

 さっきまでそこに停めておいたはずの馬車が、影も形も無くなっている…!


「馬車ねええ!!?」


「何言ってんのよ、あんなデカいモノがそう簡単に…」

「影も形も無くなってる!?」


「え!?何で!?」


 確かにここに停めておいたはず!まさか、エイミーが移動させたのか?

 いや、馬車を引いたなら車輪の音が聞こえるはずだし…。


「どどど、どうするのさジル!!」


「僕に聞かれても!!」


「落ち着きなさいよ二人とも!焦っては敵の思うつぼよ!」


「敵!?敵がいるのか!!?」


「敵!?何それ、敵って誰よ!?」


「いやヘイゼルが言ったんだろうが!!!」


「あっはははは」

「いやぁ、賑やかで見ていて飽きないねぇキミたちは」


 混乱する僕たちをぼんやり眺めながら、クラックはのんきに笑っている。


「なにヘラヘラしてんのよ、こっちは大金と馬車が誰かに盗まれたかもしれないってのに‥‥!」


「ふふ。そんなに慌てなくてもいい、これは恐らく“踊り風の精霊”の仕業ですよ」


 パニック状態の僕たちをなだめるように、クラックは優しく呟いた。


「踊り風の精霊?」


「ここら一帯では有名な存在でね」

「高価な物品を見つけると、瞬きの間にどこかへ運び去ってしまうというイタズラ好きな精霊さ。まぁ、誰も姿は見たことがないんだけれどね」


「精霊じゃなくて泥棒か何かでしょそれ!」


 誰も姿を見たことないとか怪しすぎだろ!


「!」

「言われてみれば確かに‥‥!」


「アホなんですか!?」


 大丈夫かこの八賢者!


「まぁでもご安心を。もし踊り風の精霊が盗賊の類いなら…次は必ずロンガルクに向かうはずです」

 

 ロンガルク?ロンガルクって、僕たちの次の目的地だよな?


「そんな都合のいいことがあるんですか」


 半信半疑の、疑い深い目でリリィはクラックを睨みつけるように言った。


「ええ、ロンガルクはどこのファミリアにも属していない無法地帯、盗品を売るのならそこしかないでしょう」


「え」


 ロンガルクってそんな感じの街なの?そんなところに賢者が居るのか?


「他に探すアテも無いし…とにかくロンガルクに急ぎましょう」


「ここからロンガルクへはどのくらいかかるんですか?」


 馬車が無い以上、徒歩での移動になる。数時間ほどなら頑張るが、それ以上は…。


「徒歩で山を越えるとなると、だいたい三日ほどでしょうか」


 涼しげな顔で、クラックは断言した。


「三日!?」


 三日もかけていたら、中に居るエイミーごと売られてしまう。


「と、とにかく走ってみる?」


 腰に手を当て、今にも走り出しそうな勢いでリリィが尋ねて来た。

 何で一番体力に自信のないキミがやる気満々なんだよ―――。


「ふむ」

「仕方ありませんね、あまり魔力は消費したく無かったのですが」


 そう言って、クラックは見かねた様子でジル達へと両手をかざした。


「今から皆さんをロンガルクへ転送させます。噛み砕いて言うと、瞬間移動やワープのようなものですね」


「おお!」


 さすが八賢者!そんなズルみたいなことができるなんて!


「ありがとうございます!」


「とはいっても、私もこの魔法を人に使うのは初めてなので‥‥成功の保証は全くありませんが」


「失敗したらどうなるんですか?」


「負荷に耐えきれず、体が爆散します」


「こわっ!!」


 そんなリスク孕んでるなら、歩いたほうがマシかもしれない…!

 

 僕たちは不安を覚えながらも、クラックの展開した魔方陣の上へと並んだ。

 目が覚めたら天国でした、みたいな展開だけは勘弁してほしい。


「あ、そうそう‥‥ジル君」


 クラックは自然な足運びで僕の元へと近づき、静かに耳打ちした。


「はい?」


「キミが切り札としている“原種”の力」

「あれはキミ本来の力ではない。キミはキミだけの力を目覚めさせなければいけないよ」


「さもなければ、いつかキミは‥‥キミじゃ無くなってしまうからね」


「?」

「それってどういう‥‥」


「さぁ!準備完了!!」

「ではお別れだ愉快な諸君!!キミたちが魔王を倒す日を、心の底から楽しみにしているよ!!」


 僕の言葉に聞く耳を持たず、クラックは強引に魔法を発動させた。


「うわ!?」


「っ!」


「ひゃっ!!」


 

 途轍もない轟音が響き渡った後、僕たちの視界は暗く深く暗転した。









「ふぅ、転送完了っと」


「やれやれ。ジル君ってば私が心の中を読めることを途中から忘れていたみたいですね」

「隠したい事は心の中でベラベラと思い浮かべるものではないですよ」


 電脳世界の住人。プログラムされた存在。

 そして、アークの管理エリア‥‥とも言っていましたね。


「全て師匠の言っていた通りという訳ですか」


「はぁ‥‥全く、心の中を読む魔法なんて教わるんじゃなかったなぁ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ