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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第37話 答え無き尋問

 八賢者の情報を得るため、ジル達はリリィの提案の元、ボルスという小さな町に訪れた。

 聞き込みの方はヘイゼルとリリィに任せて、馬車には僕とエイミーが残りバルトガピオスを監視することにした。


「じゃ、私たちは聞き込みに行ってくるから。何かあったらすぐに呼びなさいよ」


「ああ、分かってる」


「やっぱりボクたちも残った方が良いんじゃないかな?」

「あんな怪物をジルとエイミー二人だけに見張らせておくなんて‥‥」


 治癒魔法で回復し、まだ不調気味なリリィが不安げな様子で呟いた。

 彼女はバルトガピオスに腹部を貫かれ、先ほどまで意識が戻らないほどのダメージを受けていたのだ。


 それ故、ヤツに対する恐怖心も僕やヘイゼルより何十倍も強いのだろう。


「一度は倒してるんだし、そんなに心配しなくても大丈夫だって」

「四肢は切断してあるから下手なことはできないはずだよ」


「そ、そうだけどさ」

「やっぱり目とかも潰した方が良いんじゃないかな‥‥?」


「(ここだけ聞けば、勇者一行のセリフというより猟奇殺人鬼のセリフですね)


「こいつが大丈夫って言ってんだから大丈夫でしょ」

「さっさと行くわよリリィ、ユフテルの歴史に詳しいとかいう人物の元まで早く案内してちょうだい」


 弱気なリリィを置いて、ヘイゼルはさっさと町の中へと進んでいった。

 何かあってもジルなら対処できるというある種の信頼を‥‥彼女はジルに対して抱いていたのだ。


「ま、待ってよ!」

「ジル!何かあったら絶対ボクたちを呼んでね?一人で無茶したら怒るから!」


 そう言って、リリィは慌ててヘイゼルの背中を追いかけた。


「って、ヘイゼルぅぅ!そっち逆!!」


 二人の姿が見えなくなると、僕とエイミーは静かにキャリッジへと戻った。


 本当は二人には馬車に残っていてほしかったけれど‥‥今から話す内容を聞かれるわけには行かない。騙しているようで気が引けるが、これも世界を救うためだ。


「この縄、キツくて仕方ないんだけど‥‥どうにかならない?」


 キャリッジには四肢を切断され、さらに縄で縛りつけられたバルトガピオスの姿があった。

 ヤツをこんな酷い姿にしたのは紛れもなく僕自身だが、可哀想だとか、罪悪感だとかいった哀れみの感情は一切こみ上げてこなかった。


 この怪物にはこのくらいの仕打ちでも生ぬるい。

 ビオニエの町だけじゃない、ヤツは恐らく今までに多くの人間を殺しているはずだ。


 遊び半分で殺された人たちのことを考えると、今すぐにでもコイツの息の根を止めた方が良い気さえするが‥‥彼女には、少し聞きたいことがある。


「バルトガピオス、お前は魔王ガイアに仕えていると言っていたな」

「であれば―――ヤツが過去に起こした、とある事件ついても知っているはずだ」


 荒廃した地球に代わる人類の楽園、電脳世界アーク。

 その全てを統括する管理エリアへの侵入、および攻撃。

 

 電脳世界に存在する無数のAIの一つでしかなかった<ユフテル・ファンタジア>という一つのゲームにおいて、魔王ガイアという役割を与えられただけの存在が150億の命の自由を一瞬にして奪い去った。


 人類に作られたAIの身でありながら、創造主に何故歯向かったのか。

 この電脳世界を人類の手から取り上げて、一体何を企んでいるのか。


 その全てを、僕は知らなければならない。


 150億の中から選ばれた、たった一人の人類代表として‥‥この世界の本来の姿を取り戻すために。


「過去の事件?」


「アークの管理エリアを襲撃した事件だ、知らないとは言わせない」

「お前達のせいで、僕たち人類はめちゃくちゃだ」


「アークの管理エリア‥‥?」

「何それ、どこの話?」


 悪びれもせずに、彼女は間抜けな表情で質問を返す。


「とぼけるな」


「ジル様、落ち着いてください」

「魔王ガイアが管理エリアを襲撃したのは、電脳世界の時間では遥か過去の話」

「バルトガピオスが知らないのも、無理が無いのでは‥‥」


 突如として横から口を挟みこむエイミー。

 確かに、彼女の言うことにも一理ある。


 バルトガピオスがいつから魔王ガイアに仕えていたのか分からないし、管理エリアを襲撃したことを知らされていない可能性もある。


 分かってはいるけど‥‥。


「うーん…。ぼくは魔王ガイアがまだガキんちょの時から知っているけどさ」

「その、管理エリア?とかいう場所を襲撃したってのは聞いたことが無いねぇ」


「‥‥本当か」


「ああ、本当だとも」

「もし嘘だったら、この首を切り落としてくれても構わないよ、ぷぷっ!」


 くだらない冗談を吐きながら、バルトガピオスは不気味にほほ笑んだ。


「それより、キミたちこそどうしてそんなことを知っているんだい?」

「この時代の人間が、魔王ガイアの名を知っているだけでも珍しいのに‥‥ぼくが知らない事実を知っているという点も不可解だ」


 静かに僕たちを見つめるバルトガピオス。

 猟奇的な言動と相反して、目の付け所は鋭いようであった。


「ま、まぁ‥‥これでも一応勇者だからな、戦う相手の下調べくらいしているさ」


 苦し紛れの言い訳を吐き捨てると、僕は彼女から眼を逸らした。


「ふーん‥‥やっぱりキミ、面白いねぇ。少し興味がわいた」

「この際、勇者とか原種とかどうでもいいからさぁ、ぼく専属の助手になってよ」


「お断りだ。お前みたいな人でなしの助手になんて、誰がなるか」


「人でなし?ひどいなぁ、キミだってぼくの四肢を切り裂いて、生殺し状態で縛り付けているじゃないか」


「そうでもしないとお前が暴れるからだろうが」


「暴れないよ、嘘だと思うならこの首を切り落としてくれても‥‥」


「はいはい、分かった分かった」


 首なんて斬り落としたら、手足が再生してまた完全復活するに決まってるじゃないか。


「ぷぷっ、連れないなぁ」


「ジル様、彼女との歓談タイムはそこまでに」


「歓談じゃねえっての」


 こんな狂った殺人鬼と歓談なんて、寒気がする。


「私たちには情報が足りません、少しでも魔王ガイアの情報を彼女から聞き出してください」


 僕の背に隠れたまま、エイミーは早口で呟いた。


「・・・」


 情報ねぇ‥‥。


「おいバルトガピオス」

「魔王ガイアは今どこで何をしているんだ」


「うぷぷぷっ!」

「そんなの答える訳ないよねぇ?!」


 やっぱりダメか。

 口の軽そうなこいつならもしかして、と思ったが‥‥やはり精鋭を自称するだけのことはあるな。


「勘違いしているようなら、忠告しておくよ」

「ぼくは四肢を裂かれてキミたちに拘束されているけれど、この状況はぼくにとって別に窮地でもピンチでも何でもない」


「だって僕は不死身だからね。キミたちがどれだけ策を練ろうと、ぼくは殺せない」

「むしろ試されているのはキミたちのほうだと自覚した方がいい」


 不気味な微笑みを浮かべたまま、バルトガピオスは告げた。


「―――」


 確かに僕たちではこいつは殺せない。

 変に暴れだす前に、今のうちに海にでも捨てておくか。


「うぷぷっ」

「でも今日は気分がいいから、特別にキミには教えてあげよう」


「マジで?!」


「一度しか言わないからしっかりと心に刻み込むんだよ?」


「わ、分かった」


 何だか良く分からないが、教えてくれるならこの機会を逃す手は無い。僕は固唾を飲んで彼女の次の言葉を待った。


「魔王ガイアはまだ目覚めてはいない」

「だけどそれも時間の問題だ。日がたつにつれ、既に世界のあちこちで魔王の配下の魔物達が目を覚まし始めている」


「お前もその一人という訳か?」


「うぷぷっ、惜しいねぇ。まぁ‥‥そういうことにしておこう」


「?」


「とにかく、あまり悠長にはしていられないよぉ?」

「魔王が目覚めれば…いや“他の精鋭たち”が目覚めればそこで君の旅は終わる」


「‥‥」


「それまでに精々、強力な仲間を探すなり、外征騎士と手を組むなり策を考えた方が良い」

「うぷぷっ、それでもやっぱりキミたちに勝算は無さそうだけどねぇ」


「精鋭たち‥‥」


 また厄介そうなのが出て来たな。どのくらいの数がいるのかは分からないが、バルトガピオス級の怪物がいると想像するだけで吐き気がする。

 僕の持つ魔族の力がそいつらに通用すればいいが、もし通用しなければ詰みだ。これは一刻も早く、八賢者を見つけ出して聖都の連中に勇者として認めてもらわないと‥‥。


「!」

「この反応は‥‥!」

「ジル様!何かが近づいてきています!!」


「え!?」


 エイミーが慌てて叫んだ瞬間、馬車へ大きな振動が響き渡った。


「うわわ!!?」


「お、来たねぇ」


 ニタリと笑うバルトガピオス。こいつから眼を離すのは怖いが、今は外の状況を確認しなければ。


「エイミーはバルトガピオスを頼む。僕は外を‥‥!」


 扉を跳ねのけ、破竹の勢いで外へ飛び出すジル。

 そこに居たのは―――。


「お迎えに上がりました、バルトガピオス様」


「何だコイツ…」


 腐った肌に、裂けた腹から爛れ落ちた臓器。


 身の丈を超える大鎌を持ったゾンビのような女が、僕の前に立ち塞がっていた。




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