表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第1章・旅の始まり
4/111

第3話 祭祀長の予知夢

 祭祀長、ソルシエという女性に連れられるまま、僕たちはおぼつかない足取りで地下牢から脱出した。牢屋の中にいたので全然気が付かなかったが、外はもう真っ暗で村には一つの人影もなかった。しかし、誰もいない方が都合がいい。また兵士に見つかって牢屋に戻されては大変だ。それに、僕たちと行動している彼女もただでは済まないだろう。


「よし、皆寝静まっているようですね。今のうちに行きましょう―――さ、お早く」

 

 なるべく物音を立てないように、深い夜の闇に包まれた村の中を進んでいく。


「あの、僕たちをどうするつもりですか?」


 助けてくれたのはありがたいが、彼女の目的は不明だ。悪い人とは思えないが、もしもに備えて行動の真意を明確にしておく必要がある。


「とりあえず私の家に来てもらいます、事情はそこで―――」


 言葉を言い終えるより早く、ソルシエは異常に気が付いた。


「お二人とも、止まってください!」


 静かながらも慌ただしい声で、彼女は後ろに続いていた僕とエイミーを制止させる。


「あの、ソルシエさん?」


 何が起こったのかもわからず、僕はあたふたとした様子で彼女へと尋ねた。


「前方から人が来ます…隠れてください――!」


「え!?」


 それはまずい。急いで周囲を見渡すが、どうやらここは村の広い十字路らしく隠れられそうな遮蔽物がない。最悪だ‥‥というか、この村思っていたより広いな!


「エイミー!何か透明になる魔法とか‥‥あれ?」


 後ろを振り返ってみるも、さっきまで付いてきていたハズのエイミーの姿は無かった。


「え?エイミー!?どこ!?」


「ちょ!?何をしているのですか!?早く隠れないと―――」


「ちょっと…ちょっと待ってください!」


 隠れろと言われても、こんなひらけた場所のどこに隠れろって言うんだよ―――!


「かくなる上は‥‥!少しこちらへ!」


 ソルシエは何かを決意したかのような表情で、僕を手招きした。僕は指示されるまま、彼女の前へと近づいてみる。


「こうですか?」


「失礼します!」


「え!?」


 僕が近づくなり、彼女は自身のローブをがばっと、僕の上へと覆いかぶせた。


「少しの間…我慢していてください…!」


 いや!これは流石にバレるだろ!いくら僕が彼女より身長が低いからって、ちょっと無理がある!というか近すぎる!僕の目の前に、彼女のたわわが‥‥!


「おや、これはこれは祭祀長…こんな夜更けにどうなされた?」


 背後から何やら聞き覚えのある声がする。この声は確か―――。


「ダラス村長――いえ、特に大したことではないのです。ただ少し寝付けなかったもので…夜風を浴びに、散歩でも――と」


「ほう、散歩」


 そうだ、この声は門番たちを仕切っていたあの偉そうな男の声だ。この村の村長だったのか‥‥それにローブの中で明らかに不自然に膨らんでいる僕には気づいていないみたいだ。

 

「まぁ寝付けないのも無理はないですな。何せ5日後には、あの森ごと…この村は滅んでしまうのですから」


 森ごと村が滅ぶだって?何て物騒な話してんだ…事情は良く分からないけど、5日以内にこの村からは出た方がよさそうだな。


「最も“彼ら”の力を借りなければ、の話ですが」


「何度も言っていますが“あれ”に頼ることは私が許しません。私の力で、必ず村を滅びから救って見せます」


「はは、それは頼もしい。しかし…いささか蛮勇が過ぎますなぁ。貴女一人の力で、どうやってこの村を救おうというのです?」


「それは‥‥」


「まぁいいでしょう。貴女が何をしようと勝手ですが、私の邪魔だけはしないでいただきたい。では、失礼―――精々、貴女の企みがうまくいくように祈っておきましょう」


 会話が途絶え、足音が遠のいていく。どうやら、ダラスは去っていったらしい。ふん、相も変わらず嫌味な雰囲気の男だった。あんな奴が村長で、よくこんな立派な村がまとまるな。


 それより‥‥。


「あの、そろそろ‥‥」


「はっ!」


 我に返ったように、ソルシエは慌ててローブを開く。


「ぷはぁっ――!」


 息苦しさから解放されてとても気持ちがいい。まぁ、もう少しいても良かったけれど、流石にあれ以上は理性が持ちそうにない。


「ああ…!私ったら見ず知らずの御仁に何てことを!申し訳ありません!緊急時とはいえ、あのような手段を取ってしまい…」


「いえ、全然大丈夫です」


 ぺこぺこと何度も頭を下げるソルシエを、何とかなだめて落ち着かせる。あの展開に、心のどこかで喜びを感じていた自分への罪悪感がすごい――頼むからもう謝らないでくれ。


「そういえば、お連れの方はどちらに?」


「あ」


 そうだ!エイミーが居なくなったんだった!こんな時にどこ行ったんだよあいつ!


「ふう、何とかバレずに済みましたね」


「!」


 今、確かに耳元でエイミーの声が聞こえた。


「エイミー?!」


 慌てて周囲を見回すが、夜の闇が広がるばかりでどこにもエイミーの姿はない。まさか空耳か?


「もう!ジル様ここですよ!こーこ!右肩を見てください!」


「右肩?」


 どこからともなく聞こえる彼女の指示通り、右肩へ目をやると…そこには身長5cmくらいのエイミーが手を振って立っていた。


「エイミー?なんか小さッ!」


 これじゃ本当に妖精というより虫じゃないか。うん、何だか右肩がすごくぞわぞわしてきたぞ‥‥!


「ふっふー!驚きましたかジル様!私、実は身長を自在に変化させることができるんです!見直しました?」


「いや、正直虫みたいで気持ち悪いから早く元の大きさに戻ってほしい」


「もう、仕方ないですね」


 ポンッと、かわいらしい音とともにエイミーの身長はもとの大きさへ変化した。


「わわっ!そ、そちらにいらしたのですか――!」


 彼女は人目も憚らず、大きな声で驚いた。小さなエイミーの声が聞こえていなかった彼女からすれば、エイミーが突然現れたように見えたのだろう。


「こほん、では参りましょう。安心してください、ここまで来れば私の家まではもうすぐですから」




  ~ソルシエの家~


 彼女の言葉通り、ダラスと遭遇してから数分で彼女の家に着くことができた。村の外からも見えていたレンガ造りの大きな建物…そこが祭祀長である彼女の自宅であったようだ。僕たちは案内されるまま大きな扉を開いて家の中へと入る。内装にはいくつもステンドグラスがあしらわれており、なんだか自宅というより教会のようだった。


「では―――まず最初に、疲弊している体を癒しましょうか」


 彼女はそう言うと、美しい紋様が施された大きなソファへと僕たちを案内した。


「こちらに座って、軽く目を閉じてください」


 僕たちは彼女の指示通りにソファへとゆっくり腰かけ、静かに目を閉じた。フカフカに沈み込んだソファは最高の座り心地で、疲弊しきったボロボロの体も相まってそのまま眠りについてしまいそうになるほどであった。


「はい、もういいですよ」


 彼女がそう呟いた瞬間、あれほど疲れ切っていた体が嘘のように軽くなった。


「おお!」


 それだけじゃない、三日間も飲まず食わずだったのに体から空腹感が消えている。まるで今までの疲労が全て吹き飛んでいったみたいだ!


「凄いです!ほら、見てくださいジル様!私の羽のツヤも元通りに!」


 キラキラとした表情で羽をバタつかせるエイミー。確かに、彼女の羽は先ほどとは見違えるほどに色艶を増している。一体何が起こったというのか。僕は事態を呑み込めないまま、ソルシエさんに問いかけた。


「ソルシエさん、これは一体!?」


「おや、癒しの魔法をかけられるのは初めてでしたか?」


 子どものように驚く僕とエイミーに優しく微笑みかけた後、ソルシエさんはキッチンへと向かった。


「癒しの魔法‥‥!?ソルシエさん、魔法使いだったんですか!?」


「そ、そんなに凄いことでもないですよ?昔にちょっとかじっていただけですので……私なんか、最近の若い魔法使いの足元にも及びません」


 彼女は少し気恥ずかしそうに謙遜しているが―――三日間飲まず食わずだった僕たちの疲労を何の準備もなく、一瞬にして二人同時に回復させるなんて並大抵の魔法使いができるものではない。パーティメンバーに彼女クラスの魔法使いが一人いれば、それだけでチームが安定するほどのレベルだ。そこまでYFに詳しくない僕でも断言できるほど、彼女の実力は一級品だった。


「お二人とも、良ければどうぞ」


 キッチンから戻ってきた彼女は、僕とエイミーの前に湯気の立ったマグカップを並べた。中には緑茶のような色をした高温の液体が入っているようだ。


「これは?」


「癒しの効果が高い三種のハーブをブレンドした、私特製のハーブティーです。味はそこそこですが、効果は折り紙付きですよ?」


「へぇ」


 僕は薬草の良い香りがするカップをそっと手に取り、2、3回息を吹きかけてから一息に飲み干した。


「なにこれうまっ!!」


 決して甘くは無いが、さらりとした舌ざわりとほのかな酸味のバランス、そしてしつこくないあっさりとした後味!何だこの絶妙な味の均衡は!?うますぎる!


「そ、そうですか――!その…喜んでもらえて何よりです!」


 少し恥ずかし気な様子彼女は僕から眼を逸らした。全く、何を恥ずかしがっているのか、これほど美味しいお茶を僕は一度も飲んだことがない。もっと胸を張るべきだ―――と褒めちぎりたかったが、残念ながら僕にそんなことを言う勇気は無い。


 僕はもやもやした気持ちのまま、カップをテーブルの上へと置いた。


「あーウマかった」


 妖精とは思えない言葉遣いと共に、エイミーもカップをテーブルへと置く。ほんと、ビジュアルは完璧なのに中身は相当残念だよな――こいつ。



「こ、こほん!では…一息ついたところで、本題に入らせていただきます」


 彼女の眼差しが、真剣なものへと変わる。先ほどとは打って変わって、場の雰囲気もどことなく重く感じられた。地下牢から僕たちを連れ出すというリスクを背負ってまで、伝えたい事とは一体何なのだろう。彼女の口からどのような言葉が飛び出すのか、僕たちは緊張した様子で、彼女の次の言葉を待つ。



「単刀直入に言います。貴方たちには―――この村を救ってほしい」


 僕たちを力強く見据えたまま、彼女ははっきりと己が真意を口にした。


「ルエル村はいま、滅亡の危機に瀕しているのです」


「村を救う?」


 うーむ…何だか面倒ごとに巻き込まれそうで嫌な感じだ。牢屋から助けてもらった手前、できる限り彼女の助けになりたいと思ってはいるが――果たして僕に解決できる問題なのだろうか。


「このルエル村を囲むように巨大な森が広がっているのは、お二人もご存じですよね?」


「はい、村に入る前に見ました」


「あの森は“イルエラの森”と呼ばれる、この村とは切っても切り離せない…つながりの深い森なのです」


「イルエラ―――確か古い女神の名前でしたっけ?」


「ええ、よくご存じですね」


「何で知ってんだよ」


 唐突に口を挟んだエイミーに、僕は思わず反応してしまっていた。


「そりゃあ、一万年もユフテルにいれば嫌でも色々詳しくなるってもんですよ」


「あ、そっか」


 そう言えばエイミーは僕を待ちながら一万年の時をユフテルで過ごしてるのか。いま改めて考えると、彼女は長い時の中で色々な歴史をその目で見て来ただろうし、この世界を攻略するに当たっては、かなり破格の存在だよな‥‥。



「伝承によると、このルエル村は偉大なる女神イルエラが虐げられた人間達の為に森を切り開いて作ったと言われています。それ以来、村人はイルエラとイルエラの森に感謝を捧げながら生きてきた」


 まるで神話だな。まぁ、ファンタジーの世界だから何で有りみたいなものだけど。


「しかしいつからか…森には悪しき“忌み魔女”が住みつき、村の生活を脅かすようになったのです」


 僕たちが村を訪れた時、門番が森には魔女が出るだとか何だとか言っていたけど、彼女の言う忌み魔女とも何やら関係があるのだろうか。


「忌み魔女が住み着いてから森には魔物がはびこり、迂闊に森に入った人間は二度と森から出てこられない、そんなおぞましい魔の森へと変わってしまった。村の兵士達が何度も果敢に戦いを挑みましたが、ことごとく返り討ちに会い、負傷者が増え続ける始末―――さらには森から溢れ出てくる魔物の対処にも追われる毎日で‥‥村人たちの中には村を捨てようとする者まで出始めました。しかし…村中が恐怖に怯える中、私は――とある夢を見たのです」


「夢‥‥ですか」


「ええ!!妖精に連れられた少年が忌み魔女を打ち倒し、村に平和をもたらす――そんな素敵な夢を!」


 キラキラと眼を輝かせ、大きな声で興奮気味に彼女は叫んだ。妖精に連れられた少年―――だって?


「それって―――!」


 同じく眼を輝かせた様子で、少し驚きながらもエイミーが聞き返した。


「はい!夢に出てきた人物は、きっと貴方たちのことで間違いありません!貴方たちこそがルエル村を救う救世主!なのです!」


 いやいやいや。


「でも、結局はただの夢――ですよね」


 興奮する二人に水を差すように、僕はぶっきらぼうに言い放った。“夢でみたから”。たったそれだけの理由で見ず知らずの人間を、村の救世主だって信じられるか普通。流石に早計過ぎはしないか?


「ふふ、私は祭祀長ですよ?祭祀長とは即ち巫女、巫女とは神の声を聴くもの―――つまり、私が見たあの夢は神からのお告げなのです!」


「なるほど…?」


 勢いだけで言っているようにも聞こえるが、ただの夢にしては、内容がかなり具体的な気もする。確かに彼女の言う通り、それは正夢かもしれない。だが…例えそれが神のお告げだとしても、やはり大きな問題がある。彼女の話を聞く限り、忌み魔女との戦闘は避けられそうにないだろう。


 しかし、残念なことに僕は戦いに関しては全くの素人だ。村の兵士が束になっても敵わないような相手を、僕一人でどうこうできるはずが無い。


「事情は何となく分かったんですけど‥‥」


 助けてもらっておいて悪いけれど、今回は縁が無かったということで早々に村から立ち去ろう。そういう強キャラと戦うのは、もっと仲間を集めてから―――。


「事情は分かりました!引き受けましょう!!!」


「は?ちょ、エイミー?!」


「本当ですか!?」


「いや!待って!今の無し!」


 何勝手に話進めてんだこの馬鹿妖精は!!


「エイミー、ちょっとこっち来て!」


「え?ふぐッ――!」


「すいませんちょっと相談してきます」


 僕は口早にそう言うと、エイミーの首根っこを掴んでソルシエから距離をとる。

 

 …作戦会議だ。

 

「なに二つ返事でやばい案件にオッケーだしてんだよ!!脳ミソまでメルヘンかてめえ!」


「だって、もし忌み魔女を倒すことができれば、ジル様の知名度は間違いなく跳ね上がります!勇者として箔がつきますよ!」


「うっ‥‥確かにそれは魅力的だけど、そもそも忌み魔女に勝つだけの実力がなければ意味がないじゃないか!」


「大丈夫です!」


「はあ!?」


 大丈夫!?大丈夫って言ったか今!?僕が全くの戦いの素人とということを知ってて言ってるのか!?僕のことを芋虫程度の魔力とか言ってたくせに、いったいどこからそんな自信が―――。


「ジル様には、私がついています」


 エイミーは真っ直ぐと、僕の瞳を見つめる。適当な思い付きで言っているのではない、確実に勝てる確信があるという自信に満ちた眼をしていた。


「――――」


 ジル様には私がついている―――か。全く、弱虫でへっぽこな僕に、覚悟を決めてここまで期待するなんて本当にこの妖精は大馬鹿だ。


 これじゃまるで‥‥言い訳を並べて逃げようとしている僕が、本当の弱虫みたいじゃないか。


「はぁ…分かったよ」


「本当ですかジル様!!」


 何てチョロいんだ…僕は。自分の甘さがほとほと嫌になる。だけど、悪い気はしない。エイミーと一緒ならもしかして、と微かに思っている自分が心のどこかに居るのは事実だからな‥‥くそ。


「決意は決まったようですね」


 微笑みながらソルシエさんは呟いた。確かに、心底気は進まないが僕の決意は固まった。けれどまだ―――彼女に確認したいことが残っている。


「ソルシエさん、一つ質問があります」


「はい、何でしょう?」


「ダラス―――この村の村長は忌み魔女を倒すために“彼ら”を頼るべきだと言っていましたね。それを貴女は拒んで、僕達に村の命運を委ねた」


「―――はい」


「“彼ら”とは一体、誰のことなのですか?」


「それは‥‥」


 苦虫を噛み潰したような顔をして、ソルシエさんは目を伏せた。彼女にとって、よほど触れられたくない話題だったのだろうか。しかし、こちらも引き下がる気は無い。ダラスが忌み魔女を倒すために、一体“何”を頼ろうとしていたのかを一つの目安として知っておきたいのだ。


「‥‥」


 しばらくの沈黙を破り、彼女はついに重い口を開いた。


「―――外征騎士」


「がいせいきし?」


「誉れある聖都グランエルディアの英雄たち。二十一の刃を持つ最強の騎士集団です」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ