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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第2章・純白の騎士
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第28話 立ち塞ぐ絶望、芽吹く希望

 体が鉛のようになって動かない。


 薬の効果もそろそろ切れる頃合いだろう‥‥丸薬の力無しでは、ボクはこの重い鎧を着たまま立ち上がることすらできない。


 ああ、意識がおぼろげになっていく。


 まぁ‥‥それもそうか。


 ただでさえ強力な副作用をもつ丸薬を、あれだけ大量に服用したんだ。心臓が止まったっておかしくはない。


 ああ―――クソ。


 完全に、詰みじゃないか。



「‥‥皆の者」


 万策が付き、絶体絶命の状況でこの場に居る全員が混乱する中で、騎士は皆を諭すように―――淡々と呟いた。


「町に残った人々を誘導し、即刻避難せよ」


「避難ったって!」

「もう町のすぐ近くまでタイタンワームが迫ってるってのに、どうやって町の人間を避難させるんだよ!」


「どう考えても時間が足りないわ‥‥!」


「皆が逃げるまでの時間は、私が稼いで見せる」


 堂々たる佇まいで、血斧の騎士は言った。


「あんた一人でか…?」


「他に誰が居る?」

「グズグズしている時間は無いぞ、さぁ―――早く行け!」


「‥‥すまない」


 ゾルグの号令を聞き、冒険者たちはいっせいに町へと退散した。

 勇敢なる騎士の覚悟を無駄にしないため、町の人々の命を救うため‥‥彼らはがむしゃらに駆け出した。


「ホルーラ」


 ゾルグはゼルマンの元へと駆け寄ると、回復の魔法を唱えた。


「‥‥ゾルグ殿」


 意識が徐々に回復し、全身から体の痛みが消えていく‥‥ボロボロの体にむち打ちながら、ゼルマンは立ち上がった。


「貴公の痛覚をシャットアウトした」

「傷が癒えたわけではないが、今の状態ならこの場から逃げ切れるはずだ」


「何を言っているのですか‥‥私も戦います!」


 逃げるなんて冗談じゃない!

 ボクは150人の命を預かる指揮官だ、命が尽きるまで―――最後まで戦う!


「私の回復魔法無しでは立つことすらできない、その体でか?」


 ゼルマンの震える手足を見つめながら、ゾルグは言い放った。


「確かに私は手負いですが、それはゾルグ殿も同じこと!」

「貴方を置いて私だけ逃げることなど‥‥」


「二度は言わぬ」

「早く―――ここから立ち去れ」


「!」


 ゾルグ殿―――。


「この60年間、騎士である以上は、いつ、どこで死のうと悔いはないよう生きて来た」

「死ぬ覚悟など、とうの昔に出来ている‥‥老兵は後進に道を示し、ただ去るのみだ」


 そんな――死ぬ覚悟なんて―――。


「だが貴公は違う‥‥次世代を担う若人として、民草を守護する騎士として、生きなければならない」


「‥‥ふ」


「達者でな、戦槌の騎士よ」

「貴公と共に肩を並べられたこと、心から誇らしく思うぞ」


「ゾルグ殿‥‥待ってくれ!!」


 ゼルマンの制止に聞く耳など持たず―――ゾルグは荒れ狂いながら町へ進行するタイタンワームへ最後の戦いを挑むため、ゆっくりと歩き始めた。


「ゾルグ殿・・・・!」


 結局、ボクは誰も守ることができないのか。


 故郷を離れ、鍛練を積み重ね、魔物を倒し―――どれほど努力しても、理想の騎士になんてなれやしなかった‥‥。


 それも全部、ボクが非力なエルフなんかに生まれたせいだ。


 エルフなんかに生まれなければ、ボクは今頃もっと強くなって、聖都の騎士にだってなれていたはずなのに‥‥ボクの望む全てを、守ることができたはずなのに。


 遠くなっていくゾルグの背を見つめながら、ゼルマンの心は葛藤の海に呑まれていた。


「・・・・」


 薬の効果が続いているうちに、さっさとここから立ち去るか‥‥ゾルグと共に、ビオニエのために玉砕するか。


 ボクは‥‥ボクはいったいどうすればいい?






「キミは、キミのままでいいと思うよ」




「!」


 たった一言。

 

 唐突に、頭の中にたった一言のフレーズが浮かび上がる。


 ああ、知っている。この言葉は―――あのジルとかいう少年に無責任に投げかけられた言葉だ。


 取るに足らない安い同情とは違う。誰でも言ってくれそうな言葉だが、誰も言ってくれなかった言葉。


 ボクが‥‥心の奥底で、最も欲していた言葉。



「ふふ‥‥」

「ボクの今までの苦労もしらないで、よく言ってくれるよ」


 でも、お陰で吹っ切れた。

  

 ボクは―――ありのままのボクで戦う。


「もう、自分を隠すことなんてするものか‥‥!!」


 決意を新たに、純白の騎士は立ち上がる。


 重いだけの鎧は、もう必要ない。


 自らの姿を隠す兜も、もう必要ない。


 女であることを隠すための偽名も―――もう、要らない!


 エルフの騎士は、身にまとっていたしがらみ全てを脱ぎ捨てる。


 彼女の心に迷いはない。戦槌を捨て―――ただ、皆を守るための装備。


 “大盾”を手に、少女は歩き出す。



「ガァァァァ!!!!」


 怒涛の勢いで進撃するタイタンワーム。町との距離はもう数十mしか残っていない。


 ゾルグが止めなければ、この一撃で―――確実に町は滅び去るだろう。


「サマリの神々よ――どうか私に、悪を滅する力を授けたまえ」

「さぁ、受けてみるがいい我が最終奥義‥‥超・血斧斬を!!」


 ゾルグはタイタンワームの進路に立ちふさがり、最後の一撃を放とうとしていた。


「・・・」


 あと十数秒で、ヤツと私は接触する。その頃――もう私の命は‥‥。


「ふっ、今になって怖気づくとは‥‥私もまだまだ若人であったということか」





 しかし―――突如として、ゾルグの視界に人影がよぎった。



「!!」



 その人物は堂々とゾルグの前に立ちふさがると、迫りくるタイタンワームをただ真っ直ぐと見据えていた。



「だ、誰だ!?」

「こんなところで何をしている!?」


「下がっていてください、ゾルグさん」


「ここはボクが受け持ちます」


「?!」


 女郎花色の髪に、尖った耳―――透き通るほど美しい肌に、深い藍の瞳。

 そして、人間とは比較にならないほど強大な魔力。


 間違いない、この少女は‥‥!


「―――エルフなのか」


「はい、エルフです」


 照れくさそうにしながら、エルフの少女は頷いた。


「もう、自分を隠すのは止めたんです」

「たとえ馬鹿にされようと、ボクは―――ボクのままでいい」


「まさか貴公は‥‥!」


「ええ、ボクは戦槌の騎士ゼルマンと名乗っていたものです」


「ゼルマンが‥‥エルフだと!?」


 目にする全てに驚きを隠せず、ゾルグは狼狽える。


「ボクの本当の名はリリィ―――リリィ・フロエリーゼ」


「世界樹の元より生まれた、純血のエルフです」

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