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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第2章・純白の騎士
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第26話 未曾有との対峙

 ~ビオニエの町・町長の屋敷~



「町長!モース町長!!」


 だだっ広い屋敷の中を、フォーマルな衣装に身を包んだ男がなりふり構わず走り回る。


 落ち着いた町の役人達が屋敷内を走り回るという、普段からは想像もできないような光景から見て取れるように‥‥今、ビオニエにはかつてない程の危機が降りかかっていた。


「こらこら、屋敷を走り回っちゃいかんよ」


 二枝に分かれたチョビ髭が特徴的な背の高い男が、執務室から姿を現した。


「いったいどうしたというのかね?」


 彼こそがモース町長、このビオニエを治めている男だ。


「タイタンワームが、タイタンワームがこの町に向かっています!!」


「なんと!?距離は?!いつこの町に到達する!?」


 町長は血相を変えて、部下へ問いただした。


「数十分ほどかと‥‥!」


「数十分‥‥」

「よその町に助けを求めるのは絶望的か―――!」


「い、いかがいたしましょう?」


「町に滞在する全ての冒険者に号令をかけたまえ!」

「彼ら全員の力を結集して、タイタンワームを迎え撃つ!」


 少しでも時間を稼ぐことが出来れば、勝機はある。


「しかし、相手がタイタンワームともなると、流石に彼らも戦意を喪失してしまうのでは‥‥?」

「タイタンワームを倒すだけの人数が集まらない場合も―――」


「報奨金はいくらでも出す」

「それに‥‥今この町には戦槌の騎士が居る」


「彼が戦場に出るとなれば、冒険者たちの士気も上がるだろう」



~ビオニエの町~


 町を呑み込む巨大な魔物“タイタンワーム”。

 破格の魔物の襲来は、町長によって瞬く間に町中へと知らされた。


「おい聞いたか!?」

「タイタンワームがこの町に向かって真っすぐ進んできているらしいぞ!」


「あと数十分で町に到着するみたい‥‥」


「ああ、早く逃げないと!」


 ビオニエには腕の立つ冒険者が溢れるほどに居る。彼ら全員が一堂に会し、力を合わせれば‥‥僅かに勝機はあったかもしれない。


 しかし、彼らも命ある存在。圧倒的な恐怖を前にして、立ち上がれるはずもなかった。


「なんだ、逃げるのか?」

「町長の号令によれば、タイタンワームを退けた冒険者には2000万ユピルの報奨金が支払われるそうだぞ」


「そりゃあ金は欲しいが‥‥流石に今回の相手は悪すぎる」

「どれほどの大金であろうと、命には代えられねえよ!」


「せっかく自分の店を持てたっていうのに、こんなの残酷すぎる‥‥」

「ああ、サマリの神々よ――どうか哀れな我らをお救いください――」


 タイタンワーム襲来の報せは、恐怖と共に町中へと広がっていく。


 災害級の魔物の襲来‥‥ビオニエを生活の拠点としている者達にとっては、あまりに無慈悲な現実であった。


 持てるだけの資産を持って逃げだす人々、今が好機と盗みを働く人々、勇気を振り絞りタイタンワームと戦う決意をする人々、ただ絶望する人々―――多くの思惑が入り混じり、町は混乱の最中にあった。


 しかし、混乱する民衆の中でも…盗賊狩りのリーダー、ボゴスだけはことの真実を理解していた。


「なんてこった‥‥」


 間違いない。


 この状況は、タイタンワームの巣の近くである北の洞穴にヘイゼルたちを仕向けたせいだ。連中が戦闘の際に発した魔力に刺激されて、タイタンワームが目覚めたのだ。


「ど、どうしやす兄貴!?」

「このままじゃ、町が―――!」


「どうするったって‥‥」


 こんなの、どうしようもねェだろ…。


「貴方は‥‥!ボゴス様!盗賊狩りのボゴス様ですね!?」


 立ち尽くすボゴスに、痩せた一人の男が声をかけた。


「私です!以前盗賊に襲われていたところを助けて頂いた者です!」

「どうかこれを――!」


 男は震える手で大量の金貨をボゴスに手渡した。


「!?」


「エルディア金貨がこんなにも!」

「ものすごい大金ですぜ兄貴!」


「おい、これは‥‥!?」


「どうか、これでビオニエを救ってはくれせんか!?」


 何だと‥‥!?


「足りないのであれば、不足分は後からお支払いします!」

「どうかタイタンワームから町を、私たちのビオニエを‥‥!」


 真っ直ぐ、まるで神にでも縋るかのように、男はボゴスを見つめる。そのあまりにも純粋な瞳に抗えず、ボゴスは大きな声で叫んだ。


「だーーーっ!」

「いらねえよこんな金!!」


「兄貴!?」


「そんなこと、頼まれなくてもこのオレがやってやる!!」


「なんと‥‥!」


「いいからアンタはさっさと町はずれにでも避難してろ!」


 ボゴスはそう怒鳴り散らすと、金貨を強引に男へ突き返した。


「ありがとう―――!」


 心から安堵した表情になりながら、男は逃げ惑う町の人間達の人ごみの中へと姿を消していった。


「よ、よかったんですかい兄貴」

「カネだけ受け取って、俺たちだけトンズラこくって手もあったんじゃ…」


「こんな事態になっちまったのはオレが原因だ‥‥尻尾巻いて逃げる訳にはいかねえ」


 そうだ、ここで逃げちまえば――俺はただのクズに成り下がっちまう。


「兄貴‥‥」


「タイタンワームの討伐か…ボゴス一味の発足以来一番の大仕事になりそうだぜ!」

「気合入れてくぞ、お前ら!」


「おう!!」


「分かったぜ兄貴!!」


~ビオニエの町・町長の屋敷~



「お呼びでしょうか、モース町長」


「ああ、よく来てくれた戦槌の騎士よ」

「現在の状況は理解しているかな?」


「ええ」

「タイタンワームが目を覚まし、ビオニエに向かっていると聞きました」


 ボクが呼ばれた理由も、なんとなく予想はついている。


「そうだ、いま腕の立つ冒険者たちに号令をかけ、町の入り口に集まってもらっている」

「君には彼らをまとめ、タイタンワーム撃退の指揮をとってもらいたい」


「私が指揮を?」


 指揮だって?それは予想していなかったな。僕はただ、最後まで町に残って戦えと‥‥そう命令されるのだと思っていた。


「一枚岩ではない冒険者を纏め上げるには、キミのような存在が必要なんだ」

「ギルド推薦の冒険者という、特別な存在がね」


「しかし、私は先日のトーナメントで一般の参加者相手に大敗を喫しました」

「もはや私にギルド推薦の名は重すぎる、戦場で指揮をとる資格など私には‥‥」


 そもそも寄せ集めの冒険者でタイタンワームに太刀打ちなんてできるのか?

 災害級の魔物なんて、どう考えても外征騎士の管轄じゃないか。


「もちろん、タダでとは言わん」

「無事タイタンワームを退けた暁には、キミが“聖都の騎士”になれるように‥‥聖都の連中に掛け合ってあげようじゃないか」


「!!」


 ボクが、聖都の騎士に?!


「聞けばキミは聖都の騎士になるために町を渡り歩き、鍛練を積んでいるそうじゃないか」

「であれば、これはまさに夢のような提案じゃないかね?」


「二言は‥‥ありませんね」


「もちろんだとも」


「ならば断わる理由はありません」

「タイタンワームの討伐、必ずや果たして見せましょう」


 これはまたとない大チャンスだ。


 夢にまで見た聖都の騎士。そこいらの騎士とは違う、本物の騎士達!

 今までの苦労が報われる時が来たんだ―――必ず、必ず成し遂げて見せる!



「頼んだよ、戦槌の騎士!」




~ビオニエの町・正門~



「ほう、腕の立つ指揮官を向かわせると町長が言っていたが‥‥」

「よもや貴公のことだったとはな」


 正門でボクを待ち構えていたのは、大斧を持った強大な騎士ゾルグだった。


「ゾルグ殿!」


 元聖都の騎士にして、血斧のゾルグと恐れられる紛れもない強者だ。その上前回のビオニエ・トーナメントの優勝者でもある。


 こんなに頼もしい味方はそうはいない!


「戦槌の騎士が味方とは心強い、頼りにしているぞ」


「こっ!こちらこそ‥‥足を引っ張らないよう一生懸命頑張ります!!」


 しまった…緊張のあまり、何だか変な挨拶になってしまった。


「はっはっは」

「そう緊張せずともよい、ビオニエの町を守護するため――互いに全力を尽くそうぞ」


 そう言って彼は、張り詰めたボクの肩を優しくたたいた。


「え、ええ」

「よろしくお願いします―――!」


 やばい。


 聖都の騎士カッコよすぎ‥‥!



「それで‥‥冒険者はどのくらい集まりましたか?」


「うむ」

「私を入れてざっと150人といったところだな」


「そんなに沢山?!」


 正直なところ、150人も冒険者が集まるなんて思ってもみなかった。なにせ相手はあのタイタンワームだ、誰だって逃げ出したいに決まっている。


 だが、150人という数字も、ビオニエの町の規模から考えると決して多くはない。ほとんどの冒険者は逃げてしまったと考えるのが妥当だろう。


 それでも、一握りの150人は戦うことを選んだ。その事実が‥‥ボクにとってはたまらなく心強いのだ。


「すでに半数の冒険者には簡易なエンチャントを施した魔装銃を装備させ、タイタンワームの進路付近に待機させている」

「ヤツが近くを通ろうとした瞬間、一斉射撃を行う」


「そこでヤツが退いてくれれば我々の勝利、構わず町へと進んできたら、第二の策に移る」


「第二の策とは?」


「それを考えるのが指揮官である貴公の仕事であろう?」

「我々は皆、貴公の指示一つで命をも投げ出す覚悟だ」


「精々、上手く使ってくれよ」


 そう言い残すと、ゾルグは正門前に集まった冒険者たちの中に消えていった。


「―――――――」


 ボクの指示一つに、ここに集まってくれた皆の命がかかってる‥‥か。

 

 彼の期待を裏切るようなことは絶対にできない。


「諸君!!聞いてくれ!」

「私の名はゼルマン!!タイタンワーム討伐の指揮を任された者だ!!」


「戦槌の騎士が指揮をとってくれるのか!」


「ゾルグもいるんだ、勝てるぞ‥‥これは!」


 ゼルマンの掛け声に反応し、正門前に集まっていた冒険者たちの士気が上昇する。半ば諦めかけていた者にすら希望を持たせる力が、ゼルマンの声にはあった。


「タイタンワームなど、我らにとっては巨大なミミズのようなもの」

「見事討ち果たし、再び暗き地の底へ送り返してやろう――――!」


「おおおおおおおおお!!!!!」

「俺たちの町を守るんだ!!!!!!」


 勇士たちは力の限り叫ぶ。必ずや、この愛する町を護る為に!



「―――」



 この戦いに勝てば、ボクは晴れて聖都の騎士だ。何があろうと絶対に負けられない。


 そう心の中で誓うと…彼女は誰にも気づかれないように、虚力の丸薬を大量に飲み干した。


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