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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第1章・旅の始まり
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第11話 神の刻まれる時

 ~イルエラの森・魔女の領域・5日目・未明~


 夜がまだ完全には明けていない、暗い森。一人の少年と二人の妖精は、最後の戦いに備えていた。


「では、もう一度作戦を確認します。忌み魔女は恐らく、強大な魔法でイルエラの森を焼き尽くす。それがどのような魔法かは分かりませんが…これだけ広大な森を消滅させることが可能な威力があるとすれば、相当大規模な術式が展開されるはずです。その魔力の反応が感知され次第、私達は現場に急行し、忌み魔女と対峙します」


 丁寧かつ迅速に、エイミーは作戦の概要を最終確認した。


「一つ疑問なんだけど、忌み魔女が術式を展開してから現場に向かってたんじゃ、魔法の発動までに間に合わないんじゃない?」


「ああ、そこはご安心ください!大規模な魔法の行使には莫大な時間を要しますので、術式を展開されてから現場へ急行しても十分間に合うはずです!」


「なるほど」


 こんな朝早くに僕たちを起こしたのは、魔法の発動にかかる時間を逆算して、忌み魔女が早朝から術式を展開する準備に入ると予想してのことか。普段は馬鹿っぽいけど…こういうところは抜かりないな。


「忌み魔女の相手はジル様に、忌み魔女の使い魔らしき巨大な猫の魔物は、ベローさんに相手をしてもらいます」


「任せるゲロ!!ジル殿の戦いの邪魔は絶対にさせないゲロ!」


 力いっぱい、小さな胸を張るベロー。体は小さいが彼は本当に頼りになる。この5日間でも、ベローにはよく助けられた。彼無しではきっと、ここまで来ることすらできなかっただろう。


「ありがとう、ベロー」


 本当に、頼りにしている。


「私はこの通り戦闘に参加できませんが…ジル様の周りをふわふわしながらサポートしますので、ご安心を」


「いや、周りをふわふわされると多分すっごい邪魔なんだけど」


「ちゃんと虫サイズに姿を変化させるので大丈夫ですって」


 そういやこいつ自在に体のサイズを弄れるんだった。ダラスから隠れる時も、小さくなって上手く回避してたもんな。


「それから‥‥はい、ベローさん」


 エイミーはソルシエさんから貰った回復薬の小瓶を取り出すと、ベローに手渡した。ソルシエさんから貰った時と比べると少し量が減っているような…。


「これは何ゲロ?」


「ソルシエさんから頂いた粉末状の回復薬です。2回分入っていますので、傷を負ったら迷わず使ってください!」


「あれ?貰った時は3回分入ってなかったっけ?」


 残り1回分はどこへ?


「ああ、1回分はジル様の為にちゃんと確保してありますよ」


「ほら」


 そう言ってエイミーはこぶしを開いて、握りしめていた回復薬の粉末を満面の笑顔で僕に見せつけた。


「ご安心ください、戦闘中いつでもジル様の口に放り込めるように、右手にスタンバイさせていますので!!」


「え、それいつから!?」


「昨日からですけど?」


「そんな手汗まみれの粉末飲みたくねーわ!!」


 何でよりによって握りしめてんだよ!他の小瓶に移すとか何とかしろよ!!


「はぁ!?失礼な!!妖精は手汗なんてかきません!」


「鼻血出るんだから手汗もかくに決まってる!!」


「だから鼻血の話はNGって言ってるでしょうが!!!」


 酔っぱらいのように急に声を張り上げるエイミー。

 

 全く、このポンコツ妖精は!


「ふふっ、ジル殿とエイミー殿は、本当に仲がいいんだゲロね」


「どこが仲良しですか!」


「言い合いばっかりだよ、ほんと!」


 穏やかな笑顔を浮かべながら、僕たちを見つめているベロー。今のやりとりを見て何故そう感じたのか分からないけど‥‥何となく、悪い気はしなかった。


「でも、初めて二人に会った時は仲良くじゃれ合ってたゲロよね?」


 初めて会った時にじゃれ合ってた?


 ベローと初めて会った時は―――。




~~~~~~~~~~~~~~~




「勇者命令だ!オカリナを吹けエイミー!」


「いーやーでーすー!」

「というか!こんなしょうもないことで勇者命令とか使わないでください――!!」


「は?何だよ勇者命令って!?」


「ジル様が言ったんでしょうが!!!」


「ちょ、やめ――ちょ、待ってやめてください――!」

「というか、私本当に吹けないんで!!」


「はぁ?なんでだよ?!」


「潔癖症!潔癖症なんです!誰かが吹いたかもしれない笛とか吹けないんで――!!」


「そんな取って付けたような言い訳はいらねーんだよ!!」

「だいたいさっき、四つん這いになって川の水ガブガブ飲んでただろうが――!!」




~~~~~~~~~~~~~~~




 ああ‥‥どちらがソルシエさんの笛を吹くかで取っ組み合いの押し付け合いをしていた時のことか。思えば、あそこで僕たちが騒いだせいで、笛を吹かずにベローが目覚めたんだっけ。


「あの時はじゃれ合ってたというか、ただの取っ組み合いだね」


「そう、喧嘩ですよ喧嘩。殺意にまみれた血生臭い喧嘩です」


 いや、そこまで酷くはなかったと思うけど…。


「喧嘩だって相手がいないとできないゲロ。ベローにはトモダチがいないから、ちょっとだけ羨ましいゲロ」

 

 ベローはそう言って、羨望の眼差しを二人へと向けた。


「え?」


「はい?」


「ゲロ?」


 不思議そうな顔をするジルとエイミーを前に、ベローは困惑の表情を浮かべた。どうやらベローと僕たちの間に、少しばかりの認識の差があるみたいだ。


「僕たちとっくに友達じゃないの?」


「・・・そうなのゲロ!?」


 いや、この5日間一緒に過ごしてきたんだしそんなに驚かなくても。


「ここまで来て、流石に他人は無理があるでしょう!バッチリ友達です!」


「そ、そうゲロか。ベロー達、とっくに友達だったゲロか‥‥」


 満面の笑みを浮かべながら、ベローは震える声でそう呟いた。その瞳には、大粒の涙が輝きを放ちながら溢れている。今まで壮絶な孤独を味わってきたのか、それとも過去に何かあったのか。僕なんかがベローの心中を察することはできないけれど‥‥。


 少なくとも彼にとって“友達”というのは、どうしようもなくかけがえのない存在で、ずっと昔からの憧れだったのだろう。


「ジル殿、エイミー殿…本当に、ありがとうゲロ」


「べ、別にいいってそういうの!」


「そうですよ、ジルさんも私以外友達の居ない寂しい方ですし…ベローさんと友達になれて内心すっごく喜んでるんですから!!」


「寂しい方とか言うな」


 相変わらずこいつは一言多い。


「でも事実でしょう?」


「否定はしない」


「ふふっ、ジル様はやっぱり面白いゲロ!」


 ケラケラと心の底から楽しそうに美しい少年の妖精は笑う。

 

 その姿はまるで蛙の妖精というより、可憐な妖精達の王子のようであった。


「――――ふふ」



 そして、幸せな時間に終わりを告げるように‥‥ついに、その時がやってくる。



 ―――ズキン―――


「!!」


 何だ、この感覚――!頭が痛い…!まるで大音量のスピーカーが脳内で鳴り響いているみたいだ!


「これは!約200m先から大規模な魔法の反応あり!」


「間違いありません!!忌み魔女です!!!!」


「……来たゲロか」


 和やかな空気は消え、周囲に緊張が走る。待ちに待った運命の瞬間が、ついに訪れたのだ。



「行こう、エイミー、ベロー」


 ――――いよいよ、僕たちは忌み魔女との決戦を迎える。


 ユフテルを救う勇者として戦う、初めての強敵。僕たちがここで敗れれば、森は焼失し、ルエル村に未来はないだろう。ソルシエさんの決意に応える為にも、絶対に負けるわけにはいかない。僕は剣を取り、馬鹿みたいに膨大な魔力の元へと走り出す。


 二人の妖精と共に、この森を救うのだ。




 ~イルエラの森・魔女の領域・最終日~


 生命に溢れていたはずの森からは一切の活気が消え、虫の鳴き声ひとつ聞こえてはこなかった。


「ここまで森が静かなんて‥‥おかしいゲロ!」


 走り始めて数分。忌み魔女との距離はたったの200mだが、それはあくまで直線距離…実際の森の中ではそうはいかない。倒木や巨大な岩、毒キノコなどを避けながら進むので、なかなか思うようにたどり着けないのだ。


「くっそ!ここもダメだな…迂回しよう!」


 エイミーみたいに飛べたら楽なんだろうけどな…!残念ながら僕には彼女のような便利な羽は無い。こうしてがむしゃらに走るのが精一杯だ。


「…ジル様」


「なに?」


 必死に走る僕の肩にちょこんとへばりついているエイミーが、話しかける。その身長は5cmほどまでに縮んでいた。


「<神刻>についてですが…」


 走りながら会話するのは僕の体力ではきつい。彼女は僕の無言を肯定の証として捉え、話をつづけた。


「限界まで能力を調整するといっても、やはりジル様のお体には相当な負担がかかります。最悪、忌み魔女との戦闘中にジル様が力尽きるという展開も十分に考えられる‥‥ですので、<神刻>にはタイムリミットを設けさせてもらいます。そのタイムリミットを過ぎると、<神刻>は強制的に解除されるのでご注意を」


「・・・」


 いろいろ思うところはあるが……今更文句を言っても仕方ないな。


「で、そのタイムリミットは?」


「‥‥10分です」


「それだけあれば‥‥充分だ」


「居たゲロ!!!」


 先頭を走っていたベローが、大きな叫び声と共に立ち止まる。真っ直ぐに前を見据える彼の視線の先には、巨大な魔方陣の上に佇む忌み魔女の姿があった。彼女のすぐ横にはあのデカい猫の魔物が、こちらを睨んだまま控えている。


「忌み魔女ヘイゼル!!」


「‥‥呆れた」


「まだこの森に残っていたなんて」


 忌み魔女はうつむいた視線を、ゆっくりと僕の方へ向ける。目と目が合うだけで背筋が凍り、今にも逃げ出したくなってしまいそうだった。


「よっぽどの死にたがり屋なのね、貴方たち」


 ため息交じりに呟く彼女の瞳には、やはり――どこか陰りが見えるような気がした。


「死ぬ気なんてさらさら無い、僕たちはお前をぶっ飛ばして…無事にルエル村へ帰るんだ!」


 忌み魔女へと高らかに宣言し、僕は剣を抜く。僕も、いつまでも迷ってばかりはいられない!


「ギニャア!」


 僕の剣を見た途端、あの巨大な化け猫が恐ろしい形相で飛びついてきた――!



「吹き飛ばせ、打水!」


 しかし、襲われそうになった僕を庇うかのように、ベローのステッキの先から途轍もない勢いで柱状の水が噴出される。ベローの水柱は見事に化け猫へと命中し、そのまま遠くへと吹き飛ばした。


「あのニャンコの世話は請け負ったゲロ!忌み魔女のことは任せたゲロよ!!!」


「ああ、任された!!!」


 そう言い残すと、ベローは吹き飛んだ化け猫を追って、森の奥へ姿を消した。

 

 どうか―――無事でいてくれよ。



「はぁ……ほんっと面倒くさい」


 現状を見かねた魔女は、けだるげに――手に持った杖を僕たちの方へかざす。


「――アグニル」


 そう唱えた魔女の杖先には、燃え盛る炎の玉が浮かんでいた。


「ジル様避けてください!!」


「ッ!」


 とっさにその場から下がり、魔女から距離を取る―――!


 刹那、魔女の放った炎の魔法の衝突により、さっきまで僕が立っていた場所は地面がえぐり取られ、燃え盛る炎の柱が噴き上がった。あの炎の玉が当たっていたら、僕は……。ネガティブな思考を強制停止させ、忌み魔女の方へもう一度剣を構え直す。


「エイミー、頼む」


 早々に<神刻>を発動しなければ、こちらがやられる。早く次の一手を打たなければ…!


「分かりました!詠唱を始めますので…もう少し時間を稼いでください!」


「詠唱!?」


 そんな面倒な手順を踏まなきゃいけないのかよ!


「偉大なる主の使徒として、ここに新たなる…」


 長ったらしい詠唱を唱え始めるエイミー。耳元でブツブツと何か呟いているが‥‥僕にはよく聞こえない。


「くそ!」


 とにかくエイミーの詠唱が終わるまで、ヘイゼルから離れるしかない。幸い森には大きな木がたくさんあるし、それに身を隠しながら走り続ければ……。


「どこへ行くつもり?」


 ヘイゼルが何かを囁くと、今度は無数の炎の玉が空へ舞い上がった。


「げ!?」


 何て数だ…正確な数までは分からないが、最低でも20以上はあるぞ!?一発でも馬鹿みたいな火力なのに、あれだけの数を撃ち込まれたらひとたまりもない!


「焼き尽くせ」


 魔女の号令を受け、空に浮かぶ無数の火の玉がマシンガンのように降り注いだ―――!


「ッ…!」


 太い木の裏へと姿を隠し、転々と移動をしながら何とか魔女の攻撃をやり過ごす。森の木々は次々に吹き飛ばされ、焦げ臭い匂いが周囲に漂い始めた。


「はぁ、はぁ……」


「逃げてるだけ?殺し合いを御所望ではなかったのかしら?」


 挑発するように、忌み魔女は嘲笑う。


「エイミー!詠唱は!?」


「破壊の理を授かりし両翼は……」


 まだブツブツいってやがる!もっと早口で喋れないのか?!


「もう飽きたし、そろそろ終わらせるわ」


 指先を天へ向け、ヘイゼルは何やら魔力を集中させている。さっきの火の玉とは比べ物にならないほどの、途轍もない魔力だ…!


「―――あれは」


 終結した魔力が、10mはあろう巨大な炎の槍へと姿を変える。

 

 そのあまりにも強力な魔力の結晶に‥‥僕は思わず目を奪われていた。


「消し飛べ……アグニーラ!!」


 膨大な熱を発しながら、炎槍は一直線に僕の心臓へと飛び掛かる。


 ああ、流石にこれは…。



「今こそ刻め」



 ―――――かわせないな。



「―――神刻!!」



 槍が落下した衝撃で、耳をつんざくような轟音がイルエラの森に響き渡った。周囲には砂ぼこりが舞い、燃え盛る熱風が吹き荒れた。まさに地獄とよぶにふさわしい光景が、忌み魔女の魔法によって作り出される。


 自然の地形と環境すら変えかねない規格外の一撃は、的確に獲物を打ち抜いた。




 ……はずであった。



「――—っ?!」



 燃え盛る爆炎の中から、一人の人影が立ち上がる。



「おっせぇよ、エイミー」


「えへへ…すいません」


 あと少し、エイミーの詠唱が遅ければ…僕は間違いなく丸焦げになっていただろう。本当に間一髪、というヤツだ。


「あの一撃をまともに受けて無傷なんて…面倒ね、あなた」


「まともに受てなんかいない、(これ)で叩き落しただけだ」


「―――へぇ」


 ニタリ、と不敵に笑う忌み魔女。ようやく僕を“戦うべき相手”と認識したようだ。


「制限時間は今から10分きっかりです。どうか、お気をつけて」


「ああ、分かってるよ」


 まるで自分の体じゃないかのように、力が湧き上がってくる。大猿を倒した力と違って、外見に特に大きな変化は無かった。体の数カ所には、変な紋様が浮かび上がっているけど……気にするほどでは無い。


 これなら、ヤツとも充分に戦えるはずだ。


「急激な魔力の上昇に、戦闘能力の向上、術者は近くに居るあの妖精か。しかし、あの少年の紋様‥‥どこかで…」


「はぁッ!」


 剣を大きく薙ぎ払い、魔力を斬撃に変え相手へ飛ばす!!


 ハムさんがよく使っていた、名前も知らない見よう見まねの技だが、今の僕には使いこなすことができるようだ――!


「ちっ…!」


 魔女はギリギリのところで身を翻し、杖から無数の炎の玉を繰り出す!さっきは速すぎて目で追うことも困難だったが今は違う。全ての玉の軌道が、手に取るように分かるのだ。


「――—遅い」


 迫りくる火の玉を一つ一つ、丁寧に回避し…全てかわし切ったところで、剣に溜めた魔力を再びぶっ放す!


「なっ!?」


 予想外のカウンターに隙だらけとなった忌み魔女。放出された魔力は全てを切り裂く魔法の斬撃となって、彼女の体へと直撃した。


「小賢しい真似を‥‥!ツヴァイ・アグニーラ!」


「!?」


 あの馬鹿でかい炎の槍が今度は2つも?!押し切れるか‥‥?


 存在するだけで周囲の気温をサウナのごとく変えてしまう、巨大な炎槍。そんな破格の殺戮兵器の切っ先が今、僕の命をしっかりと捉えた。


「燃え尽きろ!」


 流星の如く降り注ぐ2つの巨大な炎槍。忌み魔女の切り札ともいえる怒涛の連撃はしかし、矮小な少年の一撃によって―――。


「はあっ!」


 跡形もなく、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 ジルの魔力に後押しされ、強大な向かい風となった爆風が、忌み魔女へと襲い掛かる‥‥!


「がはッ…!」


 壮絶な爆風に吹き飛ばされ、目にもとまらぬスピードでヘイゼルは大木に撃ちつけられた。その威力は凄まじく…あまりの衝撃に、ぶつかられた大木は、大きく傾いてしまうほどであった。


 常人であれば、今の一撃で即死だろう。


「‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」


 苦しそうに呼吸を整える魔女の姿には、一種の哀れみさえ覚えるほどであった。


「意識を保ったまま、ここまで戦えるなんて…」


 自らがかけた魔法の効果にエイミー自身も驚きを隠せないように見える。僕も正直予想外だ。まさか、ここまでの力を発揮できるとは思わなかった。だけど、この力があれば…ヘイゼルから彼女の思惑を聞き出せるはず。


「勝負はついた、ヘイゼル」


 僕はゆっくりとヘイゼルの元へと歩み寄る。


「はい、これ」


 僕は、エイミーから奪い取った回復薬を差し出した。もちろん、素手ではない。きちんと小瓶につめて、いつでも使える状態にしてある。


「君がこの森を焼こうとしている―――本当の理由を聞かせてほしい」


「・・・ふっ。まだ勝負はついていないわ」


「ジル様!忌み魔女から離れてください!」


 肩の上から僕の耳をグイグイ引っ張りながらエイミーが叫ぶ。


「え!?」


「魔力解放――<イルヴィナス・ヴェルノーラ>!!」


 ヘイゼルがその言葉を呟いた刹那、嵐のような風が彼女の周りに吹き荒れる―――!凄まじい風に覆われ、ヘイゼルの姿は途端に見えなくなってしまった。


「‥‥!!」


 弱り切っていたはずのヘイゼルの魔力が、どんどん上昇していく!立っているのがやっとなくらいの強風に耐えながら…僕は再び、ヘイゼルへと剣を向けた。そして今、嵐の壁を突き破り―――忌み魔女が再びその姿を現す。


 しかしようやく現れたその姿は…さきほどの彼女のものとは大きくかけ離れていた。


「なんだよ、これ…」


 真紅の瞳は黄金の瞳へと変化し…対照的に、白銀の髪は真紅に染まりきっている。トレードマークとも言える大きな三角帽は何処にも無く――ジルとの戦闘で傷ついた体も、服も、全てが何事もなかったかのように回復していた。おまけに先ほどの何倍も魔力が増幅している。


 まるで別の生命体へと進化を遂げたようだ。



「―――さぁ、続きを始めましょうか」


 魔女は不敵に、ニタリと笑った。



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