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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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第104話 太陽が落ちる時

「エイミー、急いでこの場から離れろ。お前なら魔力を追ってヘイゼル達の元へ辿り着けるはずだ」


 遥かに強大になったロアから目を離さずに、僕はエイミーへ言い放った。


「何言ってんですか!あのロアってバケモン今のジル様より魔力は上ですよ!?原種のゴリ押しでも倒しきれる保証はありません!そもそも今のジル様の消耗具合から考えて、アイツとラル・スとかいう取り巻きを相手にするのは自殺行為です!」


「だからお前にヘイゼルたちを呼んできてもらうんだろ。僕だってわざわざ負け戦をするほど馬鹿じゃないっての。増援が来るまでは適当に時間を稼いで見せるさ」


「‥‥」


 エイミーは何といえない表情で僕を見つめた後、小さくため息をついた。


「絶対、死なないでくださいよ」


「原種の体は頑丈だからな、心配すんな。お前こそ道中トカゲに喰われないように気をつけろよ」


「分かってますよ!」


 エイミーは若干不機嫌な様子で返事をすると、小型化して黄金宮殿の方角へ飛び去っていく。僕はそれを見届けると、大太刀にありったけの魔力を込めてロアとラル・スの前に立ち塞がった。


 エイミーには悪いが、時間稼ぎなどに甘んじるつもりは毛頭ない。増援なんて以ての外だ。皆必死で戦っているのに、こんな未知数の化け物の相手までさせる訳にはいかない。こいつは、僕が倒すんだ。

                     

「いい眼ですネェ―――ジルフィーネ。いいでしょう、貴方には新たなる王国の最初の人柱となる名誉を与えてあげますヨ」


「これ以上お前の好きにさせるかよ」


 僕はロアの言葉を聞き終える前に、特大の魔力を斬撃と共に斬り放つ。しかし、ロアはより強大な魔力の波動を手の平から繰り出して、斬撃をいとも簡単にかき消してしまった。


「‥‥!」


「何を驚いているのでス?貴方の原種の力と、太陽石に蓄えた無尽蔵のエネルギー‥‥その全てを手にした私は、文字通り完璧な存在となっタ。もはや何人たりとも、私に傷一つ付けることはできなイ!!」


「っ‥‥!」


 ロアの身体中から、凄まじい衝撃波が吹き荒れる。少しでも気を抜けば原種の力を解放している今でも軽々と吹き飛ばれてしまうだろう。僕は大太刀を杖代わりに何とか耐え凌ぐと、すぐさま反撃へと打って出た。


 最大最速のスピードで、ヤツの首を獲る。不意を突く一撃でなければ、魔力、体力、実力―――ロアと比べて全てが劣っている今の僕に勝ち目はない。


「はッ!」


 全てを穿つ弾丸の如く、僕は全身の筋肉を思いっきり稼働させてロアの首元へ大太刀を斬り放つ。


「!?」


 常軌を逸したスピードに、ロアは反応できない。宙を舞う生首と、溢れ出す血生臭い液体。1秒以下の刹那の出来事であったが、僕の脳内ではロアの死のイメージがくっきりと思い描かれていた。


 ――――しかし。


「止まって見えますよ、ジルフィーネ」


 現実は、そうはならなかった。


 ロアは僕の一撃をいとも容易く片手で受け止めると、もう片方の腕で僕の腹部を貫いた。


「‥‥がッ」


 訳も分からぬまま、僕は膝をつく。体に開いた穴から大量に流れ出るドス黒い血が“敗北”という二文字を連想させた。身のこなし、力の流し方、狙い、全てが完璧だったはず。決して希望的観測をしたつもりではない。だけど変化を遂げたロアの力は、僕の想像を遥かに上回っていたのだ。


「では―――別れの時です、ジルフィーネ」


 大地を蹴り、ロアは天へと舞い上がった。サン・クシェートラ全体を見渡せるほどの高度まで達するとロアは大地へと手をかざし―――尋常では無いほどの魔力を結集させ始めた。魔力の塊は実体を帯びてどんどん膨大に増強し、地上にいても肌がピリつくほどの圧倒的なオーラを纏い始めている。


 きっとヤツは、あの一撃で全てを終わらせるつもりなのだろう。


「はぁ‥‥クソ、あんなのどうしろってんだよ」


 思考が思わず口からこぼれ出る。僕はやたら風通しの良くなった腹部を気遣いながら立ち上がり、遥か上空に居るロアを見上げた。悔しいが、僕の実力ではロアを倒すことはできない。だが‥‥たとえ敗北は揺らがないのだとしても、僕にやるべきことはまだ残っている。


「もう少しだけ耐えるんだぞ―――スピカ」


 意思無き炎の化身と化した少女に、僕はそう告げた。彼女を助けるのはきっと僕じゃない。あの“たすけて”は彼女がもっとも強く想う“彼”へのメッセージだった。スピカを太陽の呪縛から解放してやれるのは―――あの弓使いをおいて他に居ないのだから。



 ~サン・クシェートラ王国・居住区イスタ~


「何なのよ‥‥アレ」


 サン・クシェートラの上空を見つめ、ヘイゼルは不機嫌そうに吐き捨てた。空に浮かぶ太陽石が砕けたかと思えば、今度は馬鹿みたいに強大な魔力が渦を巻いている。恐らく、敵の親玉の仕業なのだろうけど―――。


「おい!蜥蜴がそっちに行ったぞ!」


「っ!」


 隙だらけになっていたヘイゼルの首元に飛び掛かろうとした蜥蜴を、ギリギリのところでネチェレト操る死霊が叩き伏せた。


「ごめん、助かった」


「気にしなくていい、それより‥‥」


 そう言って、ネチェレトも空へと視線を移した。


「大丈夫よ―――アイツなら、きっと何とかしてくれる」



~サン・クシェートラ王国・黄金宮殿前~



「ちょこまかと逃げ回りやがって―――めんどくせえ奴らだ!」


 巨大な尾を振り回し、トルロコイは全てを破壊しながら大声で叫んだ。


「キハハハハ!!!気づいているか棍使い!!」


「たりめーだ!あんなの落とされたら王国まるごとぶっ飛んじまうぞ!?」


 トルロコイの攻撃を受け流しながら、カインはトトメスの問いかけに応答する。


「今すぐジルの様子を見に行ってやりたいが―――」


 今カインが戦線を離れれば、戦況は間違いなく悪化する。トトメス一人で手負いのリリィとヨミ、そしてクヌム王を守りながら戦うのは、どう考えても不可能であった。


「あれこれ考えても無駄だ。我らが王の力には何人たりとも抗うことはできん、大人しく死を受け入れた方が楽だぞ?」


「チッ、鬱陶しい蜥蜴野郎だ‥‥!」



 ~サン・クシェートラ王国・北郊外~


「さて―――」


 ここからが最大の踏ん張りどころだ。ヤツの攻撃を食い止める―――今はただそれだけしか考えない。その後のことは全部、終わってから考えればいいんだ。


 まぁ、それも僕がまだ生きていればの話だけど。


「弱者の王国へと成り下がったサン・クシェートラよ、今こそ滅びヨ。これより来るは真の太陽が支配せし強者の世界―――かつての繁栄と栄華を、この私が蘇らせて見せよウ!!」


 サン・クシェートラの上空から発せられるロアの魔力が、爆発的に上昇した。真っ赤な空に不気味な雲が渦を巻き、ロアの周囲を妖しく囲む―――その有様はまるで、大自然そのものがロアを新たなる支配者として歓迎しているようであった。


 コイツが本当にかつてデンデラ大砂漠の全てを支配していたというのなら、まさに今この瞬間こそが王の復活の時。ここで食い止められなければ、全てが終わってしまう!


「崩落せヨ――!暗黒太陽(ソル・ドルーム)!!!」


 ロアの詠唱と共に、強力無比な魔法が放たれた。漆黒の炎を纏った黒き太陽とも言うべき巨大な炎球は、圧倒的な魔力と熱量をギラギラと放ちながらサン・クシェートラへと接近する。


「後は任せたぞ‥‥エイミー!」


 空を覆いつくす巨大な太陽に、僕は大地を蹴って真正面から突貫した。体中のありとあらゆる魔力を刀身に込め、全身全霊で大太刀を振り下ろす!一刀両断なんてできる訳がない。だが、押し留めるくらいのことはできるはずだ!!


「はあああああああああ!!!!!!」


 耳をつんざく轟音と衝撃を撒き散らしながら、僕はひたすらに魔力を放ち続けた。しかし、太陽の落下の勢いはまるで弱まる気配はない。凄まじい熱量のせいで、皮膚という皮膚が火傷を負って爛れていく。原種の治癒能力を上回るスピードで、僕の命は着実に侵食されていった。


「あああああッ!!!」


 熱い。痛い。熱い。痛い。


 壮絶な苦痛と共に思考が絶望に汚染されていく。だが、原種の肉体であればそう簡単に死ぬことは無い―――僕がこの手を離さない限り、いつまでだって抗い続けることができる!


「見苦しいですヨ。大人しくサン・クシェートラと共に滅びなさイ」


「ハァ‥‥ハァ‥‥やなこった‥‥!お前を‥‥止めるまで・‥‥死ねるか‥‥!」


 声にならない声で、僕は精一杯の強がりを口にする。無駄に口を開いたせいで喉の奥が焼けてしまったが、もはやその程度の痛みなどいちいち気にするレベルでもない。体全身の感覚が消え去りかけても尚、僕は絶対に大太刀を握る手を離さなかった。


「間違いなイ。取るに足りないほどに僅かだが‥‥我が暗黒太陽を押し返し始めていル」


「あああああああああ!!!!!」


「ジルフィーネは既に虫の息のハズ。ヤツの力の源はいったイ―――?」


 ロアは一人でに何かを呟いた後、暗黒太陽にそっと手を添えた。


「興味深いですガ、災いの芽は早めに摘んでおきましょウ」


「!?」


 ロアに呼応するように、暗黒太陽は爆発した。いや、爆発などという言葉で表現できるほど生易しいものではない―――高度数百mでありながら、地上にはおぞましい余波と熱風が吹き荒れ、王国のありとあらゆる建築物を損傷させた。


 もし地上に暗黒太陽が落ちていれば、デンデラ大砂漠は二度と生命の住めぬ不毛の大地と化していたであろうことは想像に難くない。サン・クシェートラの住民の誰もが、その超爆発の閃光こそが神話に名高い“滅びの光”であると確信し、恐怖に慄いた。


 だが、問題はそこではない。


 結果としてロアの放った太陽は地上に落ちず、サン・クシェートラは直撃を免れた。誰一人として、暗黒太陽の犠牲になった者はいない。


 何故か?


 それは―――その破壊的な超爆発を、たった一人で受け止めた男が居たからだ。


「ジル様―――?」


 完全に姿の消えてしまった主の名を、妖精は縋るように口にした。


「そんな‥‥ジル様あああああああああああ!!!!」


 その問いかけに答える者はいない―――上空に浮かぶは、たった一つの影。勝者である地底の太陽の化身ロアだけであった。


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