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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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第95話 誘いの王国、牙を剥く

~サン・クシェートラ王国~


「黄金宮殿まで一気に駆け抜けるぞ!!進路はアズラーンの騎士団が切り開いてくれる!民間人には決して手を出すな!」


 デザートウルフに跨り、僕たちは遂にサン・クシェートラへと侵入した。住人たちは慌てながら自らの家に閉じこもったり、中には手を振って砂塵の牙の勝利を応援するものも居た。


 しかし、まだ状況が穏やかな郊外とは対照的に―――黄金宮殿のある王国の中心部からはいくつかの煙があがっている。恐らくはスコルピオンが起こしたクーデターの影響だろう。僕たちも早く合流し、余計な犠牲を出す前にクヌム王を見つけ出さなければ。


「思っていたより抵抗が少ないな‥‥」


「それだけスコルピオンがうまく注意を引き付けてくれているんだろう。だが、中心部に踏み込めばそうはいかない、安心するには早いぞジル」


「ああ、分かってるパーリ」


 中心部まで乗り込めばその時点で僕たちは袋のネズミだ。王の元へ辿り着かなければ、全滅は避けられない。相手の懐に入り込むとは、そういうことだ。


「・・・」


 だけど、何故だろう。


 全てが上手くいっているはずなのに―――何だか妙な胸騒ぎがする。


「どうしたんですかジル様?さっきからお顔の色が優れないようですが‥‥」


「そうか?別に何ともないよ」


 不安を悟られないように、僕はエイミーを軽くあしらった。一人の不安は複数人に伝播する。僕のせいでパーリたちの士気を下げるようなことにはなってほしくない。


「それよりエイミー、一つ頼みがあるんだ」


「何ですか?」


「この戦いで僕は原種の力を使わない。だからもし、親衛隊クラスの強敵と戦闘になったら―――その時は全力でバックアップしてほしいんだ」


 僕一人では親衛隊相手に勝ち目はない。でも、ロンガルクでシュレンと戦った時のようにエイミーのサポートがあれば話は別だ‥‥どんな化け物が相手でも、必死に喰らいついて見せるとも。


「そんな当たり前のこと、わざわざ頼みこまれなくてもやってあげますよ」


「そうかよ」


「でも、原種の力を使わないというのはとても良い判断ですね。そのうえ逃げずに戦うことを選択するなんて、偉いですよジル様!ご褒美として、エイミーポイント10点差し上げましょう!」


「え、それは要らん‥‥」


「二人とも、お喋りはそこまでよ」


 ヘイゼルがそう呟いた瞬間、勢いよく走っていたデザートウルフの足がピタリと止まった。


「急にどうしたんだ‥‥!?」


 デザートウルフの背から身を乗り出して前方を確認すると――――そこには一人の男が行く手を拒むように立ち塞がっていた。


「キハハハハ!!!会いたかったぞ神獣殺しども!!!これ以上先に進みたくば、このトトメスの首を刎ねて行くがいい!!」


「アイツは地下牢で会ったヤツか‥‥!」


 こんなに早く親衛隊と出くわすなんて最悪だ!だけど、人数的にはこちらが圧倒的に上―――全員でかかれば間違いなく勝てるはず!


「パーリ!アイツは僕たちで―――」


「待って、ジル」


 僕たちで相手をする。そう言いかけた僕の口を、ヘイゼルは細くしなやかな指で塞いだ。


「ここは私に任せて。アンタたちはさっさと宮殿に向かいなさい」


「ヘイゼル一人で‥‥!?」


 決してヘイゼルの力を疑っている訳では無い。だが、彼女だけを残して先に進むというのはどうも気が進まない。みんなここに居るのだから、力を合わせて倒せばいいじゃないか。


「ならせめて僕一人でも―――」


「ありがたいけど、時間の無駄よジル。私たちの目的は親衛隊を倒すことじゃない、王の元へ辿り着くことでしょう?」

「こんなところで足止めを喰らっている暇なんて無いわ」


 ヘイゼルは強引に会話を切り上げると、デザートウルフから華麗に飛び降りた。そして屈強なトトメスを前に、ひるむことなく立ち塞がる。その堂々とした佇まいは、まるで戦う前から勝利を確信しているかのようにも見える。


「おい、いいのか?ソイツ―――アンタとは相性悪いと思うぜ」


「問題ないわ」


「そうか、じゃ頼んだぜ」


 カインは大きなあくびをかましながら、ヘイゼルに全てを委ねた。ならば僕も、彼女の意志を尊重しなければ。


「行こうパーリ!!ヘイゼル!絶対無茶するんじゃないぞ!」


「分かってるっての」


 ヘイゼルとトトメスを残し、僕たちは再び進軍を開始した。王を見つけ出せば全てが終わる、今はそれだけを胸に走り続けるんだ。


「キハハハハ!!これは予想外だ、俺と戦うのはあの棍使いの男だと思っていたのだがな」


「そう?ご期待に沿えなくて申し訳なかったわね」


「お前の魔法は地下牢で一度喰らったが‥‥アレでは俺は殺せない。もしまたあの炎で俺をどうにかしようと思っているのなら、お前に勝ち目はないぞ!!」


 ギラギラと光るククリ型の短剣を両手にチラつかせながら、トトメスは嘲るように言い放った。そしてそれが開戦の合図となり―――市街地にて両者は激突した。



 ~サン・クシェートラ王国・黄金宮殿付近~


「民間人の避難を急ぎな!!教会なら魔物除けの結界も強い!負傷者から先に運び出すんだ!!溢れた者は宮殿の中で治療する!」


「ネチェレト様!!各地の居住区で蜥蜴型の魔物が出現している模様です!現在対応に当たっていますが、あまりにも数が多く―――」


「負傷兵は下がらせろ!あの蜥蜴は生半可な腕では太刀打ちできない、必ず複数人で対処するんだよ!」


 くそ、いったい何だってんだ!どこからともなく蜥蜴の魔物が街中で大量発生するなんて―――何が起こっている?!他の親衛隊とも連絡がつかないし‥‥まさか、これがイリホルの言っていた“滅び”なのか‥‥?


「ネチェレト様!!」


「今度は何だ!?」


「我が王国の混乱に乗じて、砂塵の牙の一派が攻め込んできたとのこと!現在、トトメス様と近くに居た王国兵で応戦中です‥‥!!」


「クッ!何とタイミングの悪い‥‥!いや、あの蜥蜴どもは連中の仕業と考えるのが自然か‥‥」


「如何いたしますか!?」


「お前達は砂塵の牙たちを迎え討て、蜥蜴の相手は私の悪霊共で何とかしよう!」


 そう言って、ネチェレトは黄金宮殿へと足早に駆けて行った。


「あの、どちらへ‥‥?!」


「太陽石を使う、王とイリホルが不在な今―――アレを行使する権限は親衛隊にある!各員、巻き込まれないよう周知しておけ!」



 ~サン・クシェートラ王国・大通り~


「何か、守りが薄いですねぇ」


「・・・」


 エイミーの言うことは尤もだ。そろそろ中心部も近いというのに、立ち塞がる王国兵の数があまりにも少ない。先にアズラーンの騎士団が進路を確保してくれていることを考慮しても、やはり違和感を感じる。それだけスコルピオンが上手くやっている、ということなのだろうか‥‥?


「他の同胞たちが露払いに専念してくれているおかげだろう、彼らが余計な雑魚を蹴散らしてくれているから―――我らは前に進めるのだ」


「ああ‥‥そうだな」


「た、助けてくれえええ!!」


 市街地の脇から―――突如として助けを求める叫び声が聞こえた。そうして、何かに怯えるように一人の王国兵が目の前に飛び出してきた。


「わッ!?」


 僕は咄嗟にデザートウルフの手綱を引き、急ブレーキをかける。王国兵は僕たちの存在に気が付くと、祈るような仕草で助けを請うてきた。


「お、お願いだ!助けてくれ‥‥蜥蜴の魔物が―――!」


「蜥蜴の魔物だって?」


「罠かもしれない、注意するんだジル!」


 パーリはそう言うが、この王国兵はとても嘘をついているようには見えない。でも彼の言葉を鵜呑みにするなら、街の中に魔物が侵入したということになるけど‥‥。


「嘘じゃねえ!アイツら急に現れて‥‥ひぃっ!!」


「あ、おい!どこ行くんだよ!?」


 話が通じないと諦めたのか、王国兵は一目散にその場から立ち去った。そうして、そんな彼の後を追うように―――物陰から一匹の蜥蜴の魔物が飛び出した。


「あれは!」


「ジルはここに居て!」


 最初に動いたのはリリィだった。目にもとまらぬ速さでデザートウルフから飛び上がると、勢いそのまま蜥蜴の頭へ戦槌を振り下ろした。


「ギシャア!」


 悲痛な断末魔と共に、蜥蜴の頭がスイカのようにグシャリと割れる。一切の容赦ない正確無比な一撃は、2mを優に超える怪物の命を瞬く間に奪い去った。


「早くここから去るんだ」


「あ、ありがとう、助かった‥‥!」


 リリィに見逃され、王国兵は命からがら走り去った。しかし、今はそれよりも気になることがある。


「今の蜥蜴―――」


 祭祀場で神獣と呼ばれていたヤツにそっくりだった。サイズやスケールは比べるまでも無いが、造形や特徴が驚くほどに一致している。神獣と崇められていた蜥蜴の魔物に近い存在なのは間違いない。


「何で魔物が街の中に‥‥?」


「今は悠長に考えている時間はないぞジル!魔物によって王国兵の動きが乱れているのならむしろ好機だ‥‥とにかく黄金宮殿へ急ごう!」


 パーリに促されるまま、僕たちは再びデザートウルフの背に跨り走り出した。だが、どれほど進もうと襲い来る王国兵の数はあまりに少ない。アズラーンの騎士団や、砂塵の牙たちが必死に抑えてくれている‥‥それなら、まだいい。


 問題は、これが全て罠であった場合。そして―――僕たち以外の第三勢力の介入があった場合だ。


「ようやく見つけたわ、侵入者さん」


「!?」


 突如として、妖艶な女の声が鼓膜を震わせる。そして声が聞こえたと同時に―――どこからともなく現れた巨大な鎖が僕たちの乗るデザートウルフの体を締め付けた。


「ガウッ!!」


 何とか鎖から逃れようと、デザートウルフは必死に体を動かした。しかし、苦しげな呻き声を漏らすだけで鎖が一向にほどける気配は無い。


「鎖!?でもどこから!?」


「普通の鎖じゃねぇ、これは魔法で生み出されたモンだ」


 そう言って、カインは一切の躊躇なくデザートウルフに絡みつく鎖を全て破壊した。


「わざわざ声を上げるなんざ、奇襲としては生ぬるいんじゃねーのか?」


「フフ、わざと気が付きやすいようにサービスしてあげたのよ」


 路地からふらりと姿を現したシスター服の女―――ヤツが鎖を放った術者と見て間違いない。女は手をゆっくりと空にかざし、魔方陣のようなものを空中に展開させた。


「その命ごと―――絡めとってあげるわ!」


 魔方陣から巨大な魔力の鎖が飛び出し、再び僕たちへと襲い掛かる。先端の尖った鋭利な鎖は、まるで意志を持っているかのように僕たちの首元へと狙いを定めていた。


「うそだろ!?」


「ジルとエイミーはボクの後ろに隠れて!簡易的だけど、結界を―――」


「ハッ!そんなオモチャが通じるかよ!!」


 踊り風の戦士を相手に、小細工は通用しない。女の繰り出した大蛇の如き魔力の鎖を、カインは暴風を纏った一撃で消し飛ばした。その圧倒的な風圧は、背後にいた僕すら軽々と吹き飛ばしかねないほどの力であった。


「涼しげな風ね、この暑苦しい大砂漠には丁度いいじゃない」


 しかし、女は無傷であった。カインの反撃すら計算の内と言わんばかりに不気味な笑みを浮かべている。


「ま、一筋縄ではいかねーよな」


 カインは小さな溜息をつくと、勢いよくデザートウルフから飛び降りた。


「お前達は先に行け、黄金宮殿までそう距離は無ぇ。邪魔さえなけりゃあものの数分でつくだろうよ」


「一切心配はしていないけど―――無茶はしないでくれよ、カイン」


「おう、直ぐに追いつくから安心して突っ走れ」


「それと‥‥もし早くケリがついたら、ヘイゼルの様子を見に行ってやって欲しい」


 ヘイゼルの強さなら、並大抵の敵には勝てる。でも、あのトトメスとかいう親衛隊の男とはかなり相性が悪そうだ。地下牢で会った時、ヤツはヘイゼルの魔法を至近距離で受けても平然な顔をしていたし―――遺跡の森でカインと戦ったらしいが、その時も倒されること無く生き延びている。


 ヘイゼルの覚悟に水を差すようで悪いが、できることなら彼女一人で戦わせたくない。


「‥‥しゃあねぇな。分ぁったよ、この俺がまとめて面倒見てやる」


 不満を漏らすでもなく、余計な問いを投げるでもなく、カインはただ僕の気持ちを汲んでくれた。男が惚れる男、というのはきっと彼のような人物のことを言うのだろう。本当に頼りになるヤツだ。


「行こう!パーリ!」


「ああ、言われるまでもない!!」


 パーリに手綱を引かれ、デザートウルフは再び黄金宮殿へと走り去った。静まり返った大通りに残されたのはカインとシスター服の女、二人だけである。


「アンタ、酒場に居た殺し屋の女だな?」


「あら‥‥覚えてくれていたのね」


「王国の兵士って訳でも無ぇだろうに、どうして俺らの邪魔をする?」


「貴方に答える理由は無いわ。でも強いて言うなら―――あの時恥をかかされたお礼ってところかしらね!」


 その言葉が開戦の合図であった。女は袖から蛇のように鎖を伸ばし、カインへと襲い掛かる‥‥!


「効くかよ、そんな攻撃」


「そうかしら?」


「!?」


 カインの背後に、突如として気配が現れた。反射的に背後を振り返ると、そこには恐ろしい顔をした蜥蜴の魔物が今にも飛び掛からんと牙を剥いていた。


「コイツ‥‥!」


 大きく身を翻し、宙を舞うカイン。その隙だらけの行動を――彼女は見逃さない。


「よそ見は厳禁、よ」


「!」


 ガシリ、と冷たい鉄の鎖がカインの足首に絡みついた。


「ハッ!!」


 そうして勢いそのまま、女は身動きの取れないカインを石畳の地面へ凄まじい勢いで叩きつけた。着地点は衝撃で抉れ、粉々に砕けた瓦礫がゴミのように爆散する。たとえ強壮な戦士であろうと、今の一撃は打ちどころ次第では即死もありうる威力であった。


「あら?もうお終いかしら?」


「んな訳ねーだろ」


 立ち込める土煙を踊り風の加護で一瞬でかき消すと、カインは再び堂々と女の前に姿を現した。彼は額から流れる血を雑に拭うと、棍をまるで投擲するかのように大きく身体をのけぞらせた。さながらスポーツ選手の槍投げの体勢そのもののようである。


「あらあら‥‥いろいろ芸があるのね。まぁ、そんな棒切れを投げたところで当たるハズもないけれど」


 むしろ、ピンチになるのはヤツの方だと女は嗤った。自力で棍を手元に戻す手段がなければ、ヤツは丸腰になるだけ。先ほどのダメージを考慮すると、少し戦いを引き延ばせば体力にもすぐ限界が来るはず‥‥どう転ぼうと私の有利は揺るがない。


 そう、高を括っていた。


「なら存分に味わうと良いさ、踊り風の戦士の真髄を」

「刈りて貫け!“鼬風牙(イタチカゼ)”!」


 腕を大きく振りかぶり、カインは棍を力いっぱい投擲した―――ように、見えた。


「ッ!?」


 カインは確かに棍を投げる仕草を終えた、しかし棍はまだ彼の手に握られている。


「空振り‥‥?」


 そう呟こうとした瞬間、女の全身に生暖かい風と共に鋭い激痛が走った。


「な、に―――!?」


 両手両足、腹部に背部まで―――まるで何かに斬り裂かれたように衣服ごと肉が裂け、出血している。傷はそれほど深い訳では無いが、鋭い痛みがいたずらに脳を刺激する。自身の身に何が起こったのか、女はまるで理解できずにいた。


「今の一瞬で‥‥一体何をしたというの‥‥?」


「投擲の勢いに乗せて斬撃を纏った風を飛ばした。威力を上げれば、アンタをミンチにだって出来るぜ」


「風を飛ばした―――?」

「そう、じゃあ今のは手加減してくれたってワケね‥‥本当にムカつくわ」


 不機嫌な様子を隠そうともせず、女は思い切り鎖を地面に叩きつけた。その衝撃音が鳴りやまぬうちに、再び路地の暗闇から蜥蜴の魔物が飛び出してきたのだった。


「まるで蜥蜴使いだな」


 1匹、2匹、3匹――今度は数が多いな。1匹当たりの戦闘力はそれほど脅威じゃねぇが‥‥さて、どうするか。


「失礼ね。魔物使い(モンスターマスター)と呼んでくれるかしら?」


「どっちも変わんねーよ」


「その調子のいい減らず口もここまでよ‥‥!このデネボラ様の本当の恐ろしさを嫌と言うほど教えてあげる!」



~サン・クシェートラ王国・正門付近~


「キハハハハハ!!中々に良い攻撃だ、姿が変わっただけのことはあるなァ!!」


「ありがとう、全然嬉しくないわ」


「さァどんどん来いィ!!このトトメスの心臓はそう簡単には燃やせんぞ!!」


「灼き切れ―――アギーラ」


 イルヴィナス・ヴェルノーラ―――魔力を極限まで解放した強化形態に移行したヘイゼルの指から、扇状に灼熱の炎が吹き荒れる。常人であれば触れるだけで致命傷は免れないだろう。


「ぐッ!!!ウアアアアアア!!!!!!」


「‥‥アグニル」


「ギアアアアアア!!!!」


 ヘイゼルは一切の躊躇なく、悶え苦しむトトメスへ追撃の魔法を放った。灼熱の業火に焼かれ、恐ろしい叫び声を発する彼の姿―――それが、たまらないのだ。


「地下牢では本気を出せなくて悪かったわね。あの時は変な石室のせいで魔力を吸われて、大した力が出せなかったの」


「グゥ‥‥」


「とは言っても、アンタの方もまだ余裕そうね。どうやら魔法に対して恐ろしいまでに耐性があるみたいだけど―――それは生まれつきの特性なのかしら?」


 苦しみで膝をついているとは言っても、この男はまだ倒れそうにない。流石は親衛隊、恐るべき生命力だ。魔力が底を尽きれば、蹂躙されるのはこちらの方だろう。先に心が折れてくれれば良いのだけれど‥‥。


「キハハハ!!そうとも!!俺は不滅だ!!たとえ貴様の太陽の如き炎でも、このトトメスの魂を焼き尽くすことなど出来はしない!!」


「そう―――もう少し遊んでいたかったけれど、生憎と時間が無くてね。悪いけど、勝負つけさせてもらうわ」


「キハハハハ!!望むところだァ!!その有頂天な頭蓋を砕き、我らが王の前に晒してやるとしよう!!」


 さっきまであれほど苦しんでいたのに、今はもうケロッとしている‥‥コイツは厄介だ。こちらが有利なうちに、一気に殲滅するしかないわね。


「―――時に女、死にゆく前に一つ聞かせろ」


「‥‥?」


「王国の中心に蜥蜴の魔物を放ったのは貴様らか?」


「蜥蜴の魔物?何の話よ、それ」


 先ほどまでと違う真剣な表情で問い詰めるトトメスを前に若干気圧されながらも、ヘイゼルははっきりと答えを返した。


「ふむ、やはりそうか」


「一人で納得していないでどういう意味か教えなさいよ」


「キハハハハ!断るッ!!」


「こいつ‥‥」


 もういい、会話しているだけでこっちが疲れてくる。雑魚の相手はさっさと終わらせて早くジルに合流しましょう。


「多重展開―――アグニーラ」


 無数に展開された巨大な炎の槍―――その数は実に、50を超えていた。1本だけでも軽々と家屋を吹き飛ばす威力を誇る彼女の槍が雨のように降れば‥‥流石のトトメスも無事では済まないだろう。


「おお!!何とも壮観な景色だ‥‥!!いいだろう!!やれるものならやってみるがいいィ!!」


 双剣を力強く構えたまま、トトメスは空へと目をやっている。一切の防御を捨て、全て正面から受けきって見せるつもりだ―――ほんと、舐められたものね。


「いくわよ‥‥!」


 炎の槍は完全にトトメスを捉え、凄まじい炎熱と共に周囲を灼熱地獄へと塗り替える―――はずであった。


「この気配は――!」


 しかし、ヘイゼルは展開した全ての炎の槍を引き下げた。視線をトトメスから黄金宮殿へと移し、突如として感じ取った異変に意識を集中させる。今は戦闘を行っている場合ではないと、彼女の本能がそう判断したのだ。


「尋常じゃないほどの魔力が宮殿に集中してる‥‥これって、あの時の‥‥!」


 太陽石だ。


 ハビンの町に放たれた破滅の光が、再び放たれようとしている―――?!


「キハハハハ!!ネチェレトめ‥‥思い切ったコトをするではないか!!」


「笑ってる場合!?アレを使ったら、王国ごと全部消し飛ぶわよ!?」


「案ずるな、消し飛ぶのは貴様らだけだ!太陽石は純粋な魔力の結晶体―――使う者の裁量次第でどのような破壊兵器にも転ずることができる!!」

「例えば―――そう、貴様ら反逆者共だけを狙い撃つ魔法の矢なんてのも可能だろうなァ!」


「アグニル!!」


「グアアアアアア!!!!」


「冗談キツいわよ、全く」


 巨大な王国を支えるだけのエネルギーに、町一つ消し飛ばす破壊力。そして、術者によってどのような魔法にも姿を変える可変性。もし本当にその全てを太陽石が兼ね備えているというのなら―――それはもう、ただの魔力の結晶体では済まされない。


 いつの時代、誰が、どのように、何のために作り出されたのか調べつくし―――必ず破壊しなければならない。


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