5.婚約者
レティシアに婚約者ができたのは16歳の時だった。
お相手はバラケ子爵家の次男フラン。
フランはレティシアの一つ下だったが、学園で顔を合わせたことは無く、
婚約してからの顔合わせが初対面だった。
バラケ子爵家は爵位を授かってからまだ歴史が浅く、
商会の力で一代男爵から子爵家までになった成り上がりと呼ばれる家だった。
レティシアの家は歴史ある伯爵家ではあるが、今は力のない貧乏伯爵家である。
それでも商会にとってはバルンディ家の名は欲しいものだったらしく、
フランをバルンディ家に婿入りさせて経済的に支援してもらう形だった。
レティシアは長女であり、アリスとセシルの後に男子も産まれていない。
そのため、レティシアがフランと結婚し、バルンディ家を継ぐことになる。
義母のルリーア夫人はこのことが不満だった。
もとはコルベル伯爵家の長女だったルリーアは、侯爵家に嫁ぐはずだった。
それが王家に隣国の王女が嫁いできて、
王家に嫁ぐはずだった公爵令嬢が婚約解消になり、
ルリーアが嫁ぐはずだった侯爵家に嫁ぐことになってしまった。
王家の結婚が絡むことなので、コルベル伯爵家には文句を言うこともできない。
それなりの補償金がコルベル家に入ってきたのだが、
婚約解消されたルリーアは傷物扱いになってしまった。
なぜなら、あきらめておとなしく従えばよかったのに、
王家主催のお茶会で嫁いできた隣国の王女に嫌味を言ったのだ。
貴女のせいでこの国は迷惑したのよ、と。
何も知らないで嫁いできた隣国の王女はきょとんとしていたが、
周りの者たちは真っ青になってルリーアを取り押さえた。
王家主催のお茶会で王家に真っ向から逆らったのだから、
それを無かったことにしたら周りの者たちまで同意だと思われる。
すぐさまルリーアは貴族牢へ押し込められ、沙汰を待つことになった。
結局は事情を知った隣国の王女のとりなしでお咎めは無かったのだが、
ルリーアは誰も娶りたくない令嬢へとなってしまった。
そのため、バルンディ伯爵家の後妻しか嫁ぎ先がなくなってしまったのだ。
裕福ではないにしても、普通の伯爵家で育ったルリーア夫人。
貧乏すぎて領地に行きっぱなしになっている伯爵と自分に懐かない愚鈍な義娘。
産んだのが息子ではなく双子の娘な上に難産のせいでもう子を望めないと知って、
ルリーア夫人は不満の塊のような人になっていた。
そのイライラをぶつける先は、レティシアしかいなかった。
「レティシア、フラン殿に気に入られるようにするのよ!
問題を起こしたらただじゃおかないから!」
「わかりました、お義母様。」
そう言ったものの、顔を合わせたフランが自分を気に入ったようには見えなかった。
なんで俺の妻がこんな?と顔に書いてあった。
レティシアは前途多難な自分の人生にため息しか出なかった。