なんかヒロインがつけてるネックレスに憑依したけど気に入らなかったから首を貫いてやった
「エリザベート、お前との婚約を破棄する!」
自分の葬儀が終わってふらふらしてたらいつの間にかここにいたんだけど
もしかしてこれって今、大流行の悪役令嬢に憑依しちゃった系のやつじゃない?私、イケメン公爵かイケメン騎士団長捕まえるんだ
にしては打ちひしがれる美少女が見えるけど。あれが悪役令嬢かな
隣にいるのは身分の高そうな婚約破棄した男だし、もしかしてヒロイン?それにしては胸が近い。自分の周りに小さな宝石が見える。もしかしてネックレスかな。晴れて私も付喪神か。なんか付喪神の意味違う気がするけどまあいいや。というかこの胸、見た目はちゃんと大きいよ?うん。でもこれは確実に盛ってる。もうちょっと上手に盛りなさいよ、こんなんじゃ騙せないわ
まるでほかの人のために作られたような……
ハッ!私気づいちゃった、気づいちゃったわよ奥さん
きっとあそこで打ちひしがれてるナイスバディな悪役令嬢さんのものだったに違いないわ
それで、どうしてもヒロインさんをパートナーとして連れてきたくて悪役令嬢さんのドレスを使ったってところかしら。ははーん?
「お前はリヴィア嬢と私の仲に嫉妬して彼女を階段から突き落として殺そうとした。殺人未遂だ」
にやりと笑う私の着用者。おおー恐ろし
「わたくしはそんなこと、しておりません、わ」
そんなに弱々しく言っても誰も信じないわよ。もっと毅然とした態度取らなきゃ
「殿下ぁわたし怖かったぁ」
なんなんだよこの猫なで声。この女狐の方が恐ろしいわ
「よって、エリザベート・ミシュトランテは公爵令嬢としての地位をはく奪し、国外追放とする」
その宣言の間に着用者がしれっと婚約破棄男の腕に私と盛り胸を押し付けて勝ち誇ったような笑みを浮かべている
そして婚約破棄男は鼻の下を伸ばしている
私を押し付けられて鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!ネックレスの私を押し付けられて興奮するなんて対物性愛者?なかなかやるわね。え?私じゃなくて盛り胸?なわけあるか。そんなんで鼻伸ばしてくれるならとっくの昔にイケメンたちにやってるわ!
告白したら「君は女として見れない」って言われて振られて一か月後くらいにそいつの隣にでっかい胸が座ってたわ!キスしてたわ!
どうせ世の中おっぱいだろ!でっかいほうがいいんだろ!
いや、待てよ?こいつが小っちゃい派だったら?それはあり得る。世の中には慎ましいほうがいいと言う人種もいるらしいからな。私は会ったことなかったけど。ちくしょう
なんか虚しくなってきた
この二人、なんかの拍子で死なないかな。私が死んだのにこいつらが生きてるってすごく腹立たしい
付喪神パワー!付喪神パワー!パワー!ヤー!すいませんちょっと調子乗りました非常に反省しています許してください
ふんっ!ふんっ!なんかトイレで踏ん張ってる人みたいだな
おらっ!
でた!なんかでた!でもこれだけ聞いたらトイレでスッキリしたした人だけど私は今、美しきネックレス。出るはずがない
急激に下がる視界と同時になんか生暖かいものが私にかかる。見ると突如として肥大化して殺意高めに首に刺さるわたくし。なんか宝石部分が鋭利になってる。ちょっと古代エジプトの首飾りを延長したみたいだな
周囲で悲鳴が上がる
まって、今、さらっと私人殺した?というか倫理観を私どこにやったんだ。なんか何とも思わないんだけど。物だから?きっとそうだよ。それか付喪神になったからさ、ほら、矮小な人間の生死なんて気にしなくなったんだよ。神罰、神罰。みんなはマネしないでね。というかあの悪役令嬢さんより上じゃん。あの悪役令嬢さん未遂だもんね。やってるかも怪しいけど
「おのれ!エリザベーーーーェト!元々はこのネックレスはお前がつける予定だっただろう!それがリヴィア嬢がつけることになって嫉妬したお前は何か仕込んだんだろう!」
エリザベーーーーーェト!じゃないわよ、私だよ
ごめんね、私のせいでやってもないことの罪を着せられて。この婚約破棄男は私が殺しておくからさ、安心して私の代わりにイケメン公爵とかイケメン騎士団長との恋を育んでよ
「おやおや、私の妹がどうかしましたか?」
こ、これは!優しそうな顔をしているけどおなか真っ黒そうなイケメンッッ!そしてこの一言を発しただけでこの場を掌握するその手腕!きっとこれはエリザベートさんのラブラブ新生活でまだ見ぬお相手のイケメンに「私は認めてませんからね。もし、妹を泣かせたら容赦しませんよ」って圧かける役の人に違いない!ぐへへぇ想像しただけでもにやにやが止まらないぜ
「妹、だと?ハッ!笑わせてくれる。貴様は分家からの養子だろう。血のつながりなんてないに等しいじゃないか」
なんと!これはもしかして圧をかける人じゃなくて、お相手役かもしれない
幼いころから君は僕の憧れだった。義兄になって君に近づくことが出来たのは良かったが君と結ばれることなんてない、そう思っていたところでこの事件って感じのストーリーかしら!
いいねいいね私全力でサポートしちゃう。まあできることなんてほとんどないんだけど
「それでも大切な……家族です」
今、大切な女性とでも言おうとしたんじゃない?あああ、いと美しき愛よ結婚式には私をつけてね。あ、人を殺すネックレスなんてつけてもらえないよね。しまった
「大切な家族?こっちは愛する女性を殺されてるんだぞ」
シャキーンっとかっこつけて剣を抜く婚約破棄男。いくらその姿がイケメンでもな、今までの行動でダサく見えるよ。
というかそのわりにはご遺体放置されてますけどいくらなんでもひどいんじゃないですかね。え?ブーメラン?知らんがな
「その認識自体間違っているとしか言えませんね。あなたとそこの令嬢との仲に嫉妬して何かを仕掛ける?ああ、面白い。
そもそもそのネックレスは王妃様のネックレス。第三王子であるあなたが持っていること自体がおかしいのですがとりあえずそれはおいておきましょう。
そのネックレスは王妃になることのできる資格のあるものしかつけることはできません。資格がなかった、ただそれだけの話でしょう?」
え、なに私ってもしかしてすごいネックレスだった?というか婚約破棄男、第三王子かよ。災難だったな、エリザベートさん
「それは、ただのおとぎ話で!」
「実際に起きていることを信じないと?まさかそんなに愚かな真似をするのですか?妾腹の第三王子殿下」
なんかこの義兄さんすごい煽ってるな
「うるさい!黙れ!」
切りかかる婚約破棄男。その先は……エリザベートさん
この流れって義兄さんに切りかかるんじゃないの?もしかして義兄さんに勝てなさそうだから弱そうなエリザベートさん狙ってるの?クズじゃん
義兄さんがかばうように立ってるけどまずくない?え、義兄さん帯剣してないよ
うなれ!私の付喪神パワー!行け!私のネックレス宝石番号16番!さっきみたいに肥大化して王子の胸か首を貫くのだ!エリザベートさんを助けるわけじゃないよ。うん。イケメン義兄さんが腕の一本くらい惜しくないぜって顔してるからだよ、ふん!
別にエリザベートさんが前世での私の推しキャラの顔面に似てるなんてそんなことじゃないんだから
イケメンもいいけど美少女もいいわ……ゲフンゲフン
そんなことを考えているうちに宝石番号16番はしっかりと仕事をこなしてくれた偉いね。でも胸か首って指定してどっちかわからなかったからか丁度中間を見事に貫いてるね
「ああ、貴方も王の器ではなかったようですね。そのネックレスにはこんな逸話があります。
美女にうつつを抜かした王とその美女をまとめて串刺しにした、というね」
あー、イケメンの黒い笑顔って素敵ね
というかさっきから人がバンバン死んでるのにずいぶん冷静ね皆さん。こんな時って出入り口から我先にと出ていくもんじゃないのか
もしかして、この程度の騒ぎって日常茶飯事……なわけないか。さすがにね
義兄さんが付き人っぽい人の方へ向いて
「おい、死なせるなよ。こいつは私が……いやエルザのいるところで話すべきじゃないな連れていけ」
「かしこまりました」
ずるずると引きずられて治療される婚約破棄男。え、ヒロインさんは?死んだから治療できないってことかな
そのとき頭上から
「まちな、さいよ。わたしはおうひに、なるの」
え、もしかしてヒロインさん生きてるの?生命力えぐくない?台所によくいるあいつらみたいじゃん。あいつらって頭がなくなっても一週間くらいは生きられるらしい
「そうだった。そういえばさ、リヴィア嬢ってデビル族だったね。すさまじい生命力だ」
「なぜ、それ、を」
さすがに息も絶え絶えである。だがなんか回復してるように見える
「企業秘密さ。それと危険の芽は摘み取っておかないと」
「なにを、するつもりだ」
「さあ、それは君次第ってところかな」
おそろしい、おそろしいよこのイケメン
「いこうか、エルザ。こんなことになってしまって申し訳ないね。でももう大丈夫だからさ、安心して家に帰ろう?」
なんかこの一連の義兄さんの言動を見てるとエリザベートさんが監禁されそうだなあ
「はい、お兄様!」
はにかむエリザベートさん。純粋なのかなそれともおバカなだけなのかなこの子。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私はというとこの国の王妃様の胸にいる。そしてあのエリザベートさんとその義兄さんの結婚式だそうだ。くそううエリザベートさんのお胸に居たかった。そしてあのイケメンの顔を間近で観察したかった
殺人を犯しそうになったネックレスにしては寛大な措置よね。ちなみに婚約破棄男とヒロインさんは二人仲良くお国の実験施設行きらしい。義兄さんが管理している施設らしい。どう使われるかはお察しの通りだろう。というか王妃様それでいいのか。妾腹とはいえ一応は息子だろとも思ったけど夫の浮気で生まれた子だもんな。どうなろうが知ったこっちゃないってところか
まあそんなことより結婚式を見ることが出来るだけでも運がいい
幸せになれよ!