妹と仲が悪いなんて、誰が言ったのかしら
「マリア・ウィンディ。お前とは婚約を破棄させてもらう。そして今から私の婚約者は、お前の妹のシエラ・ウィンディだ。わかったならこの会場から去れ。」
学園の卒業パーティーのエスコートがないと思っていたら。やはりそういうことだったのかと思った。
ここは私が前世で呼んでいた小説の世界。
しかし私は生まれたときから記憶を持っており、転生したと初めは喜んでいたが自分の名前が聞き覚えのあるものだと理解し、婚約破棄される運命の令嬢だと知ったのは5歳の時だった。
そのころには妹はまだ3歳。仲良くなるには時間は十分だった。
そのおかげで妹とは小説と間反対でものすごく仲良しのはずなのに。
小説の通りになってしまったのだろうか?
そう思いながらわたくしは悲しみをたたえる目をしてその場から去ろうとした。
だが、その場にいた妹のシエラは殿下に声をかけた。
「なぜお姉さまが婚約を破棄されなければならないのでしょうか?私は納得がいきません、ロンウォード殿下。そしてなぜ姉との婚約を破棄した直後に私との婚約を発表なさるのか。理解できるように教えていただいてもよろしいでしょうか。」
「なぜシエラが庇う。私は君が姉にひどいことをされていると聞いていたから裏を取り、事実確認もしっかりした。その結果私との婚約は破棄となった。」
「事実確認ですか?私には一言も何も聞いてくださらなかったのに?それに、どのような事実をどのような手段で確認したのでしょうか?」
前言撤回、妹はしっかりと私を擁護してくれた。
それに少しだけ嬉しく思いながら私も言い返した。
「殿下。私は殿下の仰るようなことは何一つやっていませんよ。シエラの言うとおり、どのような事実確認をしたのか教えていただいてもよろしいでしょうか。」
「なに、マリア・ウィンディの周辺の友人に話を聞いた。すると各々口をそろえて、マリア・ウィンディはシエラに厳しすぎる。もう少し優しくしてあげられないのかといったことを言われた。内容も聞いたぞ。それでも言い逃れするというのか?」
それは、私がシエラより2歳上で、彼女に教育を施しているときの言葉だろうとすぐに気が付いた。
確かに普段は姉妹仲が良い。しかし教育となると手を抜くわけにもいかない。特に私は第2王子であるロンウォード殿下と婚約しており、第3王子であるフェンディ殿下と妹のシエラも近々婚約すると内密に話が出ていた。そのため最近はシエラが苦手なことを重点的に教えていたし、おそらくものすごく厳しかっただろうと思う。
しかし、妹もそれは理解していたので、きっちりと私が出す課題などもこなしていたところだった。
「それは私の教育面での話ですわ。ロンウォード殿下。私は姉よりも年齢が低いですが、もうすぐ誰かと婚約話が出てもおかしくない年ごろです。それがもし王族であってもいいようにと厳しく教育してくださっていただけですわ。」
「しかし、別にやらなくてもシエラは優秀だ。どうしてそこまできつく厳しくする必要がある。それにもし王族との婚約話が出たのなら、その時点から少し教育をきつくすればいい。それでも十分間に合うだろう?」
何を言ってるのこの人。王太子妃教育よりマシとは言え、王族になる可能性があるのに教育をさぼれって?
パーティーに来ているほかの女子たちが怪訝な顔をしながらロンウォード殿下をみていた。
「殿下?この国では貴族が12になれば学園に入りますわね?そして卒業は16。そして結婚していい年齢も16です。婚約発表していいのはこの国の規則では14。つまり極端に言えば2年しかないのですよ、殿下。この意味がお分かりになりますか?」
「普通の淑女教育だけしていたものが、王族に急に婚約されたった2年で王子妃にされると極端に考えてみれば、お分かりになりますわよね?ねえお姉さま。」
私たちウィンディ家は4大侯爵家のうちの一家で、ほかにファイラ侯爵、ウォーラ侯爵、ソイル侯爵がいる。その侯爵家の一員である私たちが王族と婚約する可能性を鑑みて普通の淑女教育よりも厳しく教育することの何が悪いのか。
流石に分が悪いと思ったのかロンウォード殿下は顔色が少しずつ悪くなっていっている。
「し、しかし、厳しくして教育の間だけでもいじめていたのではないのか?」
「シエラのことを見てもまだそのようなことを申しますか?・・・悪いのですが、事実確認といっても裏もとらず表面上のことだけにとらわれていらっしゃる殿下とはお付き合いできませんわね。婚約破棄を受け入れます。私のほうから願い下げですわ。」
「私も、今までは仕事のできる方と思っていましたが、このようなことがあるのならば婚約も考えなければですわね。そして殿下の婚約を拒否いたします。では失礼します。行きましょう、お姉さま。」
「妹と仲が悪いなんて、だれが言ったのかしらね?シエラ。」「ほんとだわ。」
シエラはとてもニコニコ顔で私のことを呼ぶと、女性が男性の腕に捕まるように私の腕に捕まり、疑問を吐き出しながら一緒に退場した。
その後は私の父がその話を聞き大激怒。
娘二人をなんだと思っているのかと問い詰めに問い詰め、私とロンウォード殿下の婚約は破棄。
妹のシエラのほうもフェンディ殿下との婚約話は一時的に保留となった。
ロンウォード殿下はその後、第一王子であるコンラード殿下が私の身辺を調査し、結果は真っ白でむしろ姉妹の仲が良いという結論をコンラード殿下にたたきつけられ、意気消沈していたそう。
小説では妹と仲が悪く、親とも仲が悪いため見捨てられたマリア・ウィンディという少女は、転生者によって見事ハッピーエンドを迎えたのだった。
こういう、妹に取られる系ではなく、妹も一緒に糾弾してくれる感じの小説が読みたくて作りました。
気に入ってくれる方がいたら幸いです。