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5.来客

 それは突然のことだった。


「あら、オーウェン。どうしたの?」


 応接間に降りて行くと、来客は従兄妹のオーウェンだった。スペンスとはよく顔を合わせているようだったが、シャロンと会うのは晩餐会の夜、それも何年振りかの再会だった。あの夜も二、三言話したくらいだ。


「スペンスなら出掛けているわ、言伝を預かりましょうか?」


「いいや、今日はシャロンに会いにきたんだよ」


 スペンスに用があったのだろう。そう決めつけていたシャロンは面食らってしまった。


「私に?」


「ああ、これを渡したくて」


 すっと立ち上がるオーウェンはすらりと背が高い。あの夜は気が付かなかった。最後に会ったのは十歳頃だったか。顔つきも随分大人っぽくなっている。


 渡されたのは小さなカードだった。濃い紅色の地に金色で文字が書かれている。


「ありがとう。これは……?」


「祖母のスーザンが開く晩餐会に、君を招待したい」


 オーウェンの父方の祖母は晩餐会を開くことが大好きだ。シャロンも何度か誘いを受けたが、上手く理由をつけて断っていた。

 

 スーザンは昔からシャロンのことを気に入っていた。可愛がってくれるのは有難いが、どうも彼女はシャロンに幻想を抱いている。子どもも孫もみんな男の子ばかりだったから、女の子が新鮮だったのかもしれない。なかなか会うことはないが、ドレスや靴をしょっちゅう贈ってくれていた。そのどれもが、ことごとく夢見る少女が好みそうな、薔薇やリボンをふんだんにあしらったようなデザインだった。


 幻想を打ち砕いてしまうようで、彼女に会うのは気が引ける。


「お誘い頂けて光栄だわ、でも……」


「断らせないぞ」


 オーウェンは食い気味に答えた。


「シャロンに断らせないために俺が来てるんだから。……と、言うのも君に紹介したい人がいる。俺の友人のアーサー•ミーシャ。ミーシャ家を知っているだろう。貿易商の……」


「ええ、知っているわ」


 この国でミーシャ家を知らない人間はいないだろう。


「あの夜の君は注目の的だったからね。スーザンにも話したんだよ。彼女はアーサーのことをもう一人の孫のように可愛がっていてね、世話したくなったんだろう」


「世話って……」


「君たちをくっつけたいのさ。安心して、もしアーサーを気に入らないというのなら断ってもいい……そんな女はいないだろうけどな。真面目過ぎる奴なんだ。俺も友人にお転婆娘を紹介するのは気が引ける」


 オーウェンはシャロンのことをフローレアの言う"やんちゃ時代"でしか知らない。


「随分な言い方ね。でも真面目な方なら私のことをお気に召さないのではないかしら? 」


「君は黙っていれば王女だ」


「黙っていなくても王女よ」


「そうだな、すまない」


 オーウェンはふっと笑った。


「あんまり大人の女性になってしまったから驚いたよ」


「私も、生意気な所は相変わらずだけど背も伸びて……女性たちが放っておかないんじゃない?」


「まあね。スーザンも俺のことは心配してない」


「それはどうかしらね」


 スーザンのことだ。晩餐会を開いては品定めをしているに違いない。


「その時間に迎えに行く。粧し込んでくれ。スペンスによろしく」


 オーウェンはスーザンに良い報告が出来ると嬉しそうに、颯爽と出て行ってしまった。

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