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癒し手!聖女☆さま!

作者: まるこ
掲載日:2021/06/13

この作品に目を通していただき、ありがとうございます。気楽に読んで下さい。


異世界から召喚された大聖女さまが、滅びに向かうこの世界を救ったのは今は昔の話。

世の中には聖女があふれていた。


世界を救った後、自身を召喚した神と婚姻を結んだ大聖女さまは、

「これだけの役目をたったひとりのかよわい女の子に背負わすのはひどい。」

「そもそも異世界から呼び出すとか、かよわい女の子の人生を何だと思ってるのか?」

等々

滅びに向かっていた頃の方がマシでは?と思われるような夫婦喧嘩を繰り広げ(一方的に)

「かよわいかどうかはもかく…」と余計な一言を呟きさらに大聖女さまの怒りを買った神の力で、聖女の力について新しいルールを定められた。


その① 聖女の力は細分化、弱体化し1人につき1つの力をあたえる

その② 聖女の力は15歳になってからしか発現しない

その③ 聖女の力を使うのも使わないのも本人の意思を尊重し

    無理やり使わそうとすれば天罰がおちる

その④ 聖女の力には対価を払う、無償でなんてもっての他

その⑤ 聖女がその力に驕りをもてばその力は消滅する


最初に大聖女さまが決めたこの5つのルールは、

『大聖女さまのお言葉』として聖女協会の各拠点の事務所に大きく飾られている。

他にも細々とした取り決めは沢山あるのだか、それは聖女として協会に登録される時にもらう聖女マニュアル『トリセツ~これからも聖女をよろしくね』に書かれてあるので各自でしっかり目を通すこと、、となっている。


まとめると

「聖女に何かしてもらうのを当たり前と思うな、聖女もえらそうにするな。」

ってことらしい。

力が15歳で発現するのは「15歳までは義務教育だし…」という大聖女さまの一言で決まった、義務教育?は大聖女さまの元住んでいた世界の言葉らしくよくわからないが。なのでこの世界の女性は15歳になると協会が併設されている教会で聖女の力の有無を調べることになっている。


そうしてこの世界に聖女が生まれるようになるとともに異世界からの聖女召喚は二度と出来なくなった。


そうそう、その①「聖女の力の細分化」についてだが…



「わぁ、今日も…大行…列」

カラン、と店の扉をあけた私は、少し先にある広場の人だかりを見つめてそう呟くとスッと目を細めた。


広場で行われているのは『聖女☆51』なるグループの握手会である。

このグループは[切り傷の聖女][あざの聖女][眼の聖女]等々、病気やケガに関わる聖女の力を持った聖女51人でなるグループである。なぜ51人かと言えば「いくらなんでも48人だとパクり感が、いや誰も知らないしいいんじゃ、」という大聖女さまの葛藤があったとかなかったとか。


そんな『聖女☆51』は揃いの治療院風衣装を身にまとい、自身の前に出来る行列の一人一人と握手をしている。

『頭髪の聖女』の前には今日も年配男性の列が出来ている、平民にまじり、変装した貴族らしきお方が並んでいるのもいつものことだ。

ちょうど昼休憩の時間ともあり『骨折の聖女』の前には騎士団に所属する若い男性の列が出来ている。

骨折しながらこの広場まで来るのは大変だろうに、次の騎士団訪問日まで待てなかったのか?『骨折の聖女』であるサラはグループの中でもNo.1のかわいさであるから一目でも見たかったんだろう。

『腰痛の聖女』の前には年配の人たちの列が出来、握手の後には飴や小さなお菓子を反対に握らされている。


彼女たちはグループとしてこのような握手会や治療院等を訪れるという活動をしている。必要な時は個人での活動もあるが、基本朝9時から夕4時までホワイトな職場である。

ちなみに騎士団の若い人たちに人気があるサラだが、騎士団訪問日に人気があるのはサラよりも[水虫の聖女]であるスイである、「あれだけブーツをしっかり乾かして足の指の間まで洗えと言ったのにサボったでしょ!」とぷりぷり怒りながらも握手をするのは毎度のことらしい。

「聖女の力が手のひらから受け渡し出来て良かった~患部に触ってだと挫けてた。」とは年度末の聖女慰労会でスイが呟いた心からの言葉である。[水虫の聖女]という何とも言えない呼び名については力を授かった日にあきらめたらしい。


『聖女☆51』」とは別に、

[⚪⚪を無毒化する聖女][◻️◻️を無毒化する聖女]など解毒に関する聖女が集まった『ポイズンガールズ』や(解毒なのに毒でいいのか?)

[春の花の聖女][夏の花の聖女][秋の花の聖女][冬の花の聖女]からなる『聖女☆FLOWERS』

[じゃがいもの聖女][キャベツの聖女]等、作物(野菜)に関わる聖女が集まった『カントリー☆聖女』

と言ったようなグループがたくさんある。

他にもグループに在籍せずソロで活動する聖女もたくさんだ。


とにかくそんな風に大聖女1人が持っていた数多の力は細分化され受け継がれるようになった。

また、強すぎる力は人のためにならないと、その力も大聖女さまがもっていたものよりも弱くなっている。

「1人で力を持つのは『チートだ!』なんて今まで召喚された聖女は喜んでたのになー?」

と神は首を傾げていたらしいが、『チート』って何?


そんなこんなで、今やクラスにひとりは聖女がいるってほどに聖女はこの世界にあふれている。

職業のひとつが『聖女』そう思ってもらうのがいいかな。

対価をもらい仕事をする。


そして先ほど行列を見つめていた私レナも聖女のひとりである。


「レナおはよう!今日は早いのね。」

隣の店の扉が開き「うーん!」と腕をのばしながら出てきたのは

[二日酔いの聖女]ことシュカさん。後ろに旦那さんのロカさんが続く。

「シュカさんお疲れ様、ロカさんは今から騎士団ですね、いってらっしゃい。」

[二日酔いの聖女]のお店は朝5時から正午まで。

出勤前に二日酔いをさましたい人の為に朝早くから開いている。ロカさんは午前中は聖女の護衛として働き、昼からは騎士団で仕事をしている。

お酒が苦手なロカさんがシュカさんに近づきたい為に、無理に呑んで[二日酔い]より先に[急性アルコール中毒の聖女]のもとに運び込まれ、中々近付けなかったなんて馴れ初めも…と、こちらに手を振りながら騎士団に向かって歩いて行くロカさんを見ながら懐かしく思い出していると、

「あー、今日は握手会の日か」視線を行列に向けながらシュカさんが話しかけてくる。

「相変わらずサラの人気すごいねー。おっ、若手No.1イケメンのルークまで並んでるじゃん!他には…っってえーっ!!」

ブンっ!!と音がなりそうなほどの勢いでこちらに顔を向け、私の肩に両手をかけ揺さぶりながら

「ちょっと、レナの彼氏がなんでサラの握手会に並んでるのよ!」

と問いかけてくる。

「…何で、、って骨折したからでしょうか?」

小首をかしげ答える私に、

「いや、そういう意味じゃなく…」

言葉を濁しながら眉をさげたシュカさんと一緒に視線を行列にもどす。


騎士や街の大工さんら、がたいのいい人たちの行列のなか、少し低めでほっそりした身体にぼさぼさの髪、白衣を着た彼の姿はめだっている。折り返した袖からのぞく左手の指先に巻かれた包帯をみるに、骨折したのは指なんだろう。

ひと月ぶりに見るその顔は青白く遠目でもわかる目の下の隈からここ1週間はちゃんと眠れてないんじゃないかと察せられる。

「ごめん、忙しくなるからしばらくは会えない。」

と言った彼の言葉に嘘は無いんだろうけど、そんな不健康な顔と反対にこんなまだ仕事中であろう真っ昼間、目を輝かせ遠足をまちきれない子どものようにワクワクした様子を隠しもせず行列に並ぶ彼の姿に、ズキンと心がきしむ。


本来なら私はこの時間まだ眠っていて外に出ることはあまりない、それを彼は知っているはずで、つまり私に会うことはないとわかりながら、忙しい仕事の合間にウキウキと握手会に来ているんだとしたら…

それが骨折と言う理由があったとしても面白くない訳で。


そんな私の恋愛事情を知っているシュカさんはんイライラしながら行列を睨んでいる。


「レナがあんなに毎日寂しい思いをしてるのに、あの男はニヤニヤしながら何並んでるのよ!そんな暇あるなら顔みせに来たらいいのに!」

よく恋愛の相談にのってくれるシュカさんは、私の気持ちを代弁してくれる。

…でも、、ぎゅっと手を握りしめ決心した、彼があの行列から抜けたら私から話しに行こう。なんにしろ彼がいるなら少しでも話がしたい。


そう思っている間に彼の番が来た。

ぼさぼさの頭に右手を置いてペコペコしながら何か一生懸命サラに話しかけている、そして色んな道具が入った相棒とも呼べる斜めがけの古びたバッグからきれいな袋を大事そうに出して渡している…


「何渡してるんだろ? 

 あっ、サラが袋から出したっ、、んーあれは手袋かな?

 ん?サラ今はめるんだ、で手袋したまま握手して? 脱いだ手袋を、、

 回収?回収して、、、

 えーーっ!自分の頬にすりすり!?」


実況乙。

それにしても、、


「「ドン引き!!」」


いや、話しに行こうって気持ちも吹っ飛んだよ。

何してるんだろうあの男は。


放心状態の私には気づかず、彼は下手なスキップをしながら、自分の職場方向へと消えていった。


「レッレナ、、」

シュカさんが気まずそうに声をかけてくる、

「あそこ、騎士団の男どもも多かったし、ロカが帰って来たら知ってることないか聞いとくよ~。」

そう言うシュカさんと別れ、私はさっき開けた扉からまた自分の家に入ったのだ。


聖女活動をしていたら、先ほどの彼のようなファン?のような人にもよく会う。

好きな聖女を前に先ほどの彼のようなテンションになっている人もよく見る。

一部過激になって、問題を起こす輩もいるが。

そんな人たちに嫌悪感があるわけじゃないし、応援してくれるのは励みになる。

でも、私以外の聖女のファン活動をしているのを見るのはつらい、彼が肩書き抜きで私と付き合ってくれてるのは知っているけど。


自分も聖女の仕事で忙しいし、

「私と仕事どっちが大事?」

とは思わない。ないけど

「私とファン活動どっちが大事?」

ぐらいは思ってもいいだろう?


「あー辛い」

そう呟きソファーに腰かけた。



◇◇◇




[眠りの聖女]は、不眠や、悪夢にうなされる、寝つきが悪い、と言うような人たちに『よい眠り』を与える力をもっている。

無理やり眠らすとか、そういうのとはちょっと違う。

あくまでよい眠りのお助けだ。

そのまま眠ってもらえるように、店を構え宿屋のように営業している。


お店に直接来れないような貴族さまや、赤ちゃんの寝つきが悪く限界を迎えたお母さんなんかの所には出張サービスもしている。

遠足のたびに興奮しすぎて朝まで眠れない男の子の家に行ったこともある。


[眠りの聖女]の力の使い方は他の聖女とちょっと違ったりもする。

一瞬で眠りに落ちると言うのは案外危険らしく、対象者の手を15分ほど握りゆっくりと眠りに誘う。


濃い紫色の髪に月の光のような瞳、異国の血が入った肌をした女神のようなレナにベッドサイドで手を握られ、心地よい子守唄を聴ける(サービス)このお店、本人の知らないところで実はものすごく人気なのだが、なんせ聖女システムで、症状の嘘をついて近づいたり、無理させたり、危害を加えようとすると天罰が起きるし、常に騎士団の団員が警備しているので、(お隣のシュカの所は旦那さまのロカがその役割を担っている)人気も、噂もあれど、実際にレナの姿を見る機会は少ないのだ。


ちなみに、天罰とは大聖女さまいわく、

「雷がビリビリーってなって、体が大の字で骨格みえて震える」やつだ。どこからともなく

「ぽちっとな」と聞こえてくるのも、天罰の仕様のひとつだ。

そのビリビリのあと、額に「meat」と言うもじが浮かび上がり1週間消えないので、聖女に無理やりなことをさせようとしたら一目瞭然である。



◇◇◇



そんなレナが営むお店『アン・ミーン』に王室おかかえの魔道具研究所に働くソウシが、運ばれて来たのは半年ほど前のことだった。


世の中に聖女があふれているとは言え、やはり地方にはなかなか手が届かないことも多い。

しかも自然をコントロールなど大きすぎる力は人には与えられない。

[雨乞いがたまに成功する聖女][遠足の行き先だけ晴れに出来る聖女]なんかはいるらしいが。


そんなわけで、ここ何年も地方で起こる水害は、常に国が対処している問題だった。


その水害に対処する魔道具の研究は、最優先案件として研究されており、ソウシは若くしてその研究プロジェクトに入り、その躍進に一役かっていた。


今年の水害の時期まであと2ヶ月ぐらいというその日、『水害対処の魔道具完成!』というめでたいニュースが王都に流れた。

そして、その夜ソウシがレナの店に同僚と上司に両側から支えられ運ばれてきたのだった。

髪の毛はボサボサ、服もヨレヨレ、週単位でお風呂に入ってないんじゃないかと言う様子に、レナは(明日は寝具そう取っ替えだなー)なんて心の中で思っていた。

本人は濃い隈を目の下に作り青白くやつれた顔をしながら、虚ろな目で「抵抗値が、、」とか数字を延々と呟いている。

今、自分がどこにいて、目の前に誰がいるのかもわかってないのではないか、そんな感じもする。


聞けば、彼は年単位でほぼ不眠不休の生活を送っていたらしい。

「魔道具研究所が忙しいのは聞いたことありますが、こんなになるまで働くものなんですか?」

ソウシが眠りについたあと、彼の上司たちにレナはそう問いかけた。

ブラックにもほどがある。


「いや、俺たちも同じ研究をしていたけど、そこはきちんと管理されて、無理な残業もたまにしかないし、休みもきちんと取れるよ。」

「でも、こいつはなー。」

「あんまり、他人が話すものじゃないけど、、」

と、前置きをしながら彼らは話はじめた。

「15年ほど前にカンド地方で起こった水害覚えているか?」

レナはその記憶を思いだし、頷く。

「確か、学校にいた子どもたち以外、、」

その水害は短時間で山あいの小さな村をのみ込み、隣町の学校に行っていた子どもたち以外の村民が犠牲になったのだ。

「そう、その水害、こいつは当時学校にいて難を逃れた子どもの1人なんだ。」

「研究をはじめる前から度々、夢にみてうなされていたんだけど、研究のチームに入ってからとりつかれたように没頭してな。もともと、研究はじめると寝食おろそかになるタイプなんだけど。」

「何度か、ここにも連れてこようとしたんだけど、拒否されて、『研究所から出されるなら舌を噛む』とか言い出して、そんなことしたら研究続けられなくなるのに、正常な判断も出来なくなってたんだろうな。」

「そうなんですね。」

そう呟き、『最上級の健やかな眠りが訪れますように。』

の願いをこめ、もう一度手を握ると、(そう言えば)と、昔母に教えてもらったカンド地方の子守唄を口ずさんだのだった。


次の朝、自分の置かれている状況にパニックになっている、幾分顔色の良くなった彼に、数週間は通ってもらった方がいいと説明した。

彼は「いやっ、その、そんな」と慌てた様子だったが別室に泊まり一緒に説明を聞いていた同僚から、

「しばらく急ぎの研究もないですし、本人が嫌がっても引きずって連れてきますよ。」と背中を叩かれ帰って行った。


そこから、週に3~4回、ソウシはレナの店に通うようになった。

研究で身体をこわしたのだからと、費用は研究所が出してくれるそうだ。

最初は店に来るだけでしどろもどろだった彼も、一月ほどたつとベッドに入る前に安眠のハーブティーを一緒に飲みながら雑談も出来るようになっていた。

少しずつなついてくる動物みたいな所も、相変わらずボサボサの髪型も、長めの前髪のすきまからチラリとこちらを覗いている瞳も、猫舌でハーブティーを「フーフー」と言いながら冷ましてる様子も、いちいち可愛く感じていたレナは、つまり、そう、落ちるべくして恋に落ちていたのだった。


恋心を自覚したレナは、ソウシが来る日は浮かれ気味で、その日ハーブティーを用意しながら、普段は入眠前にしか歌わないカンド地方の子守唄を無意識に口ずさんでいた。

「あぁやっぱり。」

後ろからソウシの声が聞こえて「何か?」と振り向くと。

「やっぱり、その歌、レナさんが歌っていたんですね、夢うつつで聞こえていたので、夢の中で母が歌っているのか本当に聞こえているのかわからなくて。」

「あっ、もしかして辛いこととか思いだしたりしますか?」

「いや、違うんです、その歌カンド地方でも僕が住んでた村にしか伝わってない歌で、もう二度と聞く機会なんてないと思ってたもので、、レナさんはなんで知っていたんですか?」

「あ、私の母が異国の流浪の踊り子だったんです、この国でも色んな所をまわってその地方の歌や踊りを覚えたそうです。」

「そうだったんですね、異国の、、レナさんって少しオリエンタルな所がキレイだと思ってたんですよねー。」

レナはぼっと顔が赤くなるのがわかった。

「いや、キレイだなんて、そんな。」

と慌てる様子のレナに、はっとしたソウシが口を覆いながら、

「えっ、僕今口に出してました?いや、その、」と慌てて、二人してうつむき気まずい空気が流れた。

その様子をみていた、護衛騎士(28歳、趣味こっそり恋愛小説を読むこと)が、心の中で、「く~、両片思い、ジレジレ尊い、俺の死因は騎士なのに、とおとし!尊死なのか!?」

と悶えていたのは、別の話だ。


気を取り直したレナが、

「平気でしたら、カンド地方の歌、他にも知ってますから歌いましょうか?」

と提案し、その夜からレナの歌を聴くことも2人のルーティンになったのだった。


◇◇◇


本格的に水害のシーズンになったその日、先日完成した魔道具のおかげで水害を防ぐことができ、被害がほとんどなかったと言う一報が魔道具研究所に伝えられた。

いつものように店を訪れたソウシは、その話をレナにし、半刻ほど泣くとレナの癒しの力なしで眠りにつき、うなされることなく穏やかに朝を迎えたのだった。


その様子を見ながら、

「ソウシさんがお店に来るのももう終わりですね~、これからは忙しくなっても睡眠障害になるまでほっといたらダメですよ~。」

と言ったレナに、

「えっ、なんでもう来たらダメなんですか?! えっ実は迷惑でした? 研究所がお金を出してくれなくても、自分で出して来ます、いや今までも、自分で出したかったんですけど、いや、来るなとか言わないで下さい!毎日でも来たいです!」

とパニックになりながら真っ青な顔でソウシが慌てふためく。


その気持ちが嬉しいなー。と思いながら、

「ほら、こんなでも私一応聖女だから、症状が無いのにソウシさんが来たら、天罰があるじゃない?」

と説明するレナに、

「自分のことを、こんなとか言わないで下さい、レナさんは素敵です、って僕何言ってって、えっ?せっ聖女?聖女?ってなんですか?天罰って?」

顔を赤くしたり、青くしたりしながらポカンとした彼にびっくりしながらレナが固まっていると、ソウシは、

「ここは、私にお任せを」と言った護衛騎士さん(28歳、趣味こっそり恋愛小説を読むこと)に別室に小一時間ほど連れていかれ、放心したようにフラフラと帰って来た。

そして、ガバッと頭を下げると、

「すいませんでした、僕、村がなくなってからずっと研究所に入るために勉強しかしてなくて、研究所でも研究以外の話もせず、小さいころも村から聖女さまが出ることもなかったし、ばぁちゃんが話す聖女さまの話は昔の大聖女さまのことだし、だから、だから。」


つまり、地方のさらに田舎出身のソウシは、聖女の存在を知らなかったのだ。


「研究所のみんなが『今日も聖女さまのところか~うらやまし~』って言うのも、レナさんが聖女のようにキレイだからみんなが僕をからかうためにそう呼んでるのかと、思ってて。」

かなり恥ずかしいことを言われて、レナは先ほどから動けなくなっている。

そこに「お話の途中ですが、ちょっと聞きたいんですが?」と、先ほど別室でソウシに聖女の説明をしてくれた護衛騎士さんがこれだけは、という感じで質問をしてくる。

「そもそもソウシ殿は、この店をなんだと思って通っていたのですか?」

「いやっ、僕田舎ものだから、都会には変わった親切な店があるな~って、あっ、でもこんなに素敵な店なのに、あまりお客さんがいないので、みんな知らないなら内緒にしないととか、、」

と恥ずかしそうに答えるソウシ。


部屋になんともいえない空気が流れるが、


拳を握り、気合いを入れたソウシに、

「聖女とかそんなの関係なくレナさんにほっほれました、お店に来れなくなっても、普通に逢いたいです。僕と付き合って下さい。」

とまっすぐな告白をされ、2人はめでたく付き合うことになったのだ。

部屋の隅では、護衛騎士が心の中で拍手喝采をし、彼は帰ったあと、自分の出身地である東方の赤飯という料理を作ったのだった。


そうしてはじまった二人のお付き合いはおおむね順調だった。

本当に研究しかしてこなかったソウシは王都のことを何も知らず、中々時間が合わない中、少しでも時間があれば2人であちこち出かけた。


付き合いは順調なのだが、


「ねー、シュカさん、どうすればいいんですかねー。」

「2人とも初心者だからねー。」


半年前に出会い、2ヶ月後に付き合いはじめ、そこから順調に3ヶ月、順調に清らかなお付き合いをしている。


「まぁでも、今どき10代の学生でももっともうちょいすすんでるね。」

「ですよね~。」


恋愛初心者同士だか、25歳と21歳、そろそろキスの一つもしたいものだ、とレナはやきもきしている。


「あのソウシくんだしねー。恋愛の進め方知らない可能性もあるかな~、ロカから探り入れてみようか?」

「うーん。」

シュカ夫婦とレナカップル、顔をあわせることも多く、レナが仕事で夜会えない時はロカさんがソウシを誘ってご飯に連れ出してくれている。そこで色んな相談にものってもらってるらしいし。


「それかレナからガブリと行ってもいいんじゃない?」

「そうだね~、それもありか。」


それから、シュカさんに色んな技を教えてもらい、レナは決めたのだ、今夜自分は狼になると! 今夜はお店も休みだし、出張の予約も入ってない。今夜はレナの手料理を食べるために家に来る。チャンスだ!


そして迎えた決戦の時! 3日ほど研究所に缶詰めだったそうでソウシは少しフラフラしているが、夕食を食べソファーに2人で座る頃にはいい雰囲気になってきた、夕食の時に出したワインで少しフワフワしてるのもいい感じだ。

クイッと横に座るソウシの袖口をひっぱり、こちらを向いた時に下から覗きこむ。そこで手をとり両手で握り混み目を合わせそらさず10秒、真っ赤になったソウシの顔が近づくのをみて、瞼をとじ、そのまま、そのまま、、、、、


そのまま気付けば15分、ソウシは夢の世界に旅立っていた。

[聖女の力が発動しました]


(ちょっと不眠ぎみっぽかったもんね。)


ベッドに移動させるのは無理っぽいので、ソファーにソウシの身体をがんばって横たえると、毛布をかけ、ソファーの横に座るとソウシの髪をワシャワシャとなでながら、レナもいつの間にか眠ってしまった。


「わーっっ!」


翌朝、久々に取り乱した様子のソウシに何度も謝られ、

「今度はちゃんとして下さいね。」

と言ったレナに真っ赤な顔で、

「はっはい!」と返事をしたソウシと別れたのだが、

そのすぐ後に、

「ごめん、忙しくなるからしばらくは会えない。」

と言われ、、


それから1ヶ月ほどたち、今日の握手会である。


(自分からガツガツ行ったのがダメだったのかな~?)


レナと会えない時も、

「近くを通るだけで嬉しくて、ついつい家の方を見てしまう。」

と言っていたのに、今日はサラと握手をした後、こちらを一瞥もせず、スキップで帰って行ったのだ。


「はぁ~」


悲しくても、仕事の時間はやってくる、今日は子守唄に悲壮感をのせてしまい、お客さんに悪いことをしてしまった。

実際、そのお客さんたちは、憂いをおびたレアレナに『眼福!』と思っていたのだが、、


翌昼、お店を閉めたシュカが訪ねて来た、

「お疲れ~って、すごい顔、かわいい顔が台無しじゃん。」

全身に悲壮感をおびたレナを見て、シュカは気の毒そうにそう言うと、

「どうせ、何も食べてないんでしょ。」

と近所で評判のパン屋の袋を渡してくれた。

久しぶりに現れた[小麦の聖女]のおかげで、ここ数年国全体の小麦の質があがり、美味しいパン屋のパンはさらに美味しくなっている。


「食欲~な~い。でも食べる~。」

美味しい匂いに誘われ、ムシャムシャ食べ始めたレナの前に座り、シュカが話を続ける。

「ロカはなんか知ってるぽいのよね、騎士団でも噂になってるらしいし、でも男同士だから言えないとか、なんとか、、レナが心配することは絶体ない!って言っているんだけど、嘘ついてる感じはなかったんだけどね。」

そして、ムシャムシャ食べながら話を聞くレナに、

「とりあえず、ちゃんと話し合えって、帰りソウシを引きずってでも連れて来るからってロカからの伝言。」

と爆弾を落とした。

「どうせ今日は仕事休みの日でしょ、ゆっくり話し合って、また何かあったら聞くからね。」

そう言ってシュカは帰って行った。



そして、夕方、ソウシはロカに引きずられることなく、騎士団所属のロカよりも速く走ってレナの家にかけこんで来た。


「レナさんが別れたがってるって聞いて、いてもたってもいられず!!」

汗だくのソウシは膝に手を置き、肩で息をしながらそう叫ぶ。


(そんなこと言ってないけど、ロカさんどんな伝え方したんだろう。)


玄関ではなんだからと、いつものソファーに座ってもらい話の続きを待つ。話しにくそうにしながらソウシはポツポツ話し始めた。


「僕が、魔道具を作りはじめると、寝食忘れて没頭してしまうってのは知ってると思うんだけど、、」

レナは小さくうなずく。

「その前に、僕、悪夢はもう見ないんだ。あれからは村のみんなが『ソウシ頑張れ』って言ってくれる夢をよくみて。」

はじめて聞くその話にレナは嬉しくなって微笑む。

「あっもちろん、レナさんの夢を一番多くみるよ。ってそうじゃなくて、悪夢はみないんだけど、悪夢を見ていた期間が長かった影響で、いまだにしっかり眠れないってか、少し不眠ぎみなんだ。」

そうだったんだと悲しくなる。

「悲しそうな顔しないで。それもだんだん良くはなってるから。それで、えっと、そんな状態でレナさんと手を繋ぐとだんだん幸せな眠りに誘われて、、だからデートの時ももっと手を繋ぎたかったんだけどそれもガマンシテマシテ。」

レナは知らず聖女の力を出していた自分の手をみる。誰かと付き合うのがはじめてで、そんなことが起こってるのもはじめて知った。

「そっそれで!レナさんと、きっキスが出来るチャンスの時も眠ってしまって、あの翌朝僕がどんなに残念だと思ったか、もうどんなにっっ。」

だんだんソウシの声が大きくなってくる。

「あのあと家に帰って、考えたんです。聖女の力は手のひらからでる。それならその力を遮断出来る手袋を作れば、レナと思う存分キスが出来るんじゃないかと、出来るんじゃないかと!」

興奮して、レナのことをはじめて呼び捨てでよんでいる。

「そこから、仕事以外の時間はその研究ばかりしてて、一昨日完成して、思わず万歳して跳びはねたら、寝不足もあり転けて指を骨折して、、」

「うっうん。」

「それと別にレナさんに渡す前に効果がちゃんと出るか試したくて、だって本人目の前にして手袋の効果なくて無理とか、そんなん我慢出来るわけないじゃないですか?わかりますよね?」

ソウシの目が寝不足以外の血走りをしている。

「そしたら、昨日、ちょうど[骨折の聖女さま]が来てるって聞いて、いてもたってもいられなくて。で、説明して実験台になってもらって、そうしたら手袋してたら僕の骨折治らなくて、もう大成功だと思ったら嬉しくて、そのままうかれて帰ったので、骨折治してもらうの忘れました。」

照れたように頭をかいている、照れるとこそこ?


「1ヶ月、会えなくてごめんなさい、誤解させてごめんなさい、レナさんとキスすることばかり考えてて周りが見えていませんでした。頼むから別れるなんて言わないで下さい。そしてキスさせて欲しいです!!」

ガバッと頭をさげて、手袋を差し出される。

それを見て一瞬“スンッ“って顔になったレナはそれでも微笑んで、

「ねえソウシさん、別に手を握らなくてもキスは出来るよ。」

と言いながらその手袋を受け取った。

そのまま手袋をはめたレナを嬉しそうに見つめたソウシは、レナと手のひらをあわせ、ゆびをぎゅっとからませ握ると、瞳をみつめ、

「そんなの!キスだけで止まれるわけないじゃないですか!」

と叫んだ。

そしてレナはそのままパクっと、ファーストキス以上も食べられてしまった。我慢をしていただけでレナよりもずっと前からソウシは狼だったみたいだ。


ベッドの上、ソウシの腕の中で、

(あの広場にいた人たちに、キスしたいがためにソウシさんが手袋作ってたのバレバレか~。ロカさんの口ぶりから騎士団でも噂広がってるか。明日から顔あわせにくいなー。)

でも、、

(幸せだからいいか!)

そう思い、眠りについたのであった。

                         おしまい。




     


































次の営業日、いつもの護衛騎士さんが「お赤飯」という食べ物を差し入れてくれました。

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