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戻らない気がするんだが

「目を覚ました……」


「お前の、おかげでな」


 まだ声を出すのは少し辛いみたいだ。かすれている。だけど意識ははっきりしている。

 ほっとした私は、余計に眠くなってしまう。


 ディアーシュ様が復活してくれたなら、魔物のこともなんとかなる。大丈夫だから。

 しかし、ディアーシュ様の手を離したところで腕をぐいと引っ張られる。


「わ!」


 勢いが強くて、私はディアーシュ様の上に倒れ込んだ。


「ちょっ、ディアーシュ様危ないです!」


 子供の姿じゃないから重いはずなのに、ディアーシュ様は離してくれない。

 私の髪がディアーシュ様の胸の上を流れる。


 間近に迫ったディアーシュ様の顔。

 そして掴まれた手首に感じる、戻り始めたディアーシュ様の熱。

 気づくと、妙に意識してしまう。他の人から見られたらどうしよう。男女が寄り添い合っているようにしか見れない。


(違う、寄り添うどころじゃない。これ)


 くっついて気持ちを確かめているみたいな状態だ。

 思わず離れようとしたけれど、その前に、ディアーシュ様が掴んでいた私の手に、いつかのように唇をあてる。


「ひゃっ」


「魔力を戻す。そのままでは不都合だろう」


 説明してくれたけど、口が動く度にくすぐったい! あと、魔力を戻すだけならこの体勢じゃなくてもいいのでは!?


「あの! 私子供じゃないので、ちょっと体勢のことも考えてください!」


 まず一度、直させてほしくて言うと、ディアーシュ様はようやく手から口を離してくれたのだけど。


「お前の正体を知ってから、それほど子供とは思っていないが」


「は?」


「正真正銘の子供相手だったら、こんな真似をするものか。方便でも婚約などしないし、魔王に関わることも知らせなかった」


「え……」


 それはまるで、私が子供じゃないとわかっているからこそ、こんなことをしたと言っているようで。


(まさか、わかっててやったの?)


 私に、自分が異性だと意識させたいような行動を?

 ディアーシュ様は私を、一体どう思っているの。

 驚く私だったが、ディアーシュ様の方は気になることがあるようだった。


「……戻らない気がするんだが」


「あっ」


 魔力が不足している感じはしない。なのに子供の姿に戻らない。

 なんで、なんでと心の中で焦っていると、ディアーシュ様がいぶかしげな表情になった。


「私の見間違いで、少しは縮んでいるのか?」


「いえ全く」


 そう答えて、おかしいなと気づいた。

 指一本分も小さくなっていないのに、疑うなんて。

 引っかかりを感じた私の肩や腕を、ディアーシュ様手がなぞっていく。触れる度にぞくぞくして身をよじりたくなった。


「あのっ」


「やはり寸法が変わっていない」


 その言葉で、私は引っかかりを感じた原因に気づいた。


「まさか、目が?」


 ディアーシュ様は今、目がよく見えていない?


「魔王の魔力に浸食された後は、よくあることだ」


「浸食……」


「塗り替えられてしまえば、魔王の魂に染まる。そして今の器の最後の恨みまでを引き継いで、この国を壊したくなるだろう」


 どういうこと?

 あのディアーシュ様とそっくりな姿の人は、自分の国を恨んでた?

 疑問のせいで、一瞬だけディアーシュ様とくっついていることを忘れそうになった。


「誰もが納得ずくで、他人に乗っ取られるわけではない」


「あ……」


 たしかにそうだ。誰だって、自分の人生を奪われたくない。

 しかも相手は逆らい難い相手。

 絶望してしまったら、世の中の全てを呪いたくなるはず。全てほろんでしまえと思っても仕方ない。

 そんなことを考えて、ディアーシュ様も辛い思いをしているのかもしれないと思っていたのに。


「しかし、本当に戻らないな」


 ディアーシュ様は私の姿が元に戻らない方が気になったらしい。


「このままでは、不審人物がいつの間にかいることになってしまうような」


 私が心配を口にしたら、ディアーシュ様が珍しく小さな笑い声を漏らした。


「その顔を見れば大丈夫だ。アガサもまだ知らないことだが、対処するだろう。魔物も、もうすぐ消えるはずだ。……しばらく任せた」


 そんなことを言ったかと思うと、ディアーシュ様は目を閉じてしまう。

 腕に触れていた手が離れ、私の手首を掴んでいた手からも力が抜けた。

 まさかと思ったけど、呼吸は大丈夫だ。

 ディアーシュ様の上からどいて、ベッドの横に立って深く息を吐く。


「眠っただけ……今度は顔色も悪くない」


 自分の魔力が役に立ったのは確かだけど、腕や手の大きさを確認して、またため息をついてしまった。


「どうしようこれ」


 魔力が回復しても戻らないってなんで?


「……レド様に聞きたくても、夜じゃないと呼び出せないし」


 おろおろとしていたら、バン! と扉が勢いよく開いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気になるーー! 更新まってます!
[気になる点] ディアーシュさま『80話 幕間」で責任を取れないからリズとの婚約を辞退する。ということだったけど、なにか吹っ切れた?
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