思いがけない話を聞きました
「ふふ、戯れだ。リズ自身も乗り気ではないようだしな」
そう女王陛下が水を向けてくれたので、私は必死にうなずく。
王妃なんてとんでもない。
目立つとアリアが何をしてくるかわからないのに、未来の王妃になんて、恐ろしくて想像もできない。
ほっとしていた私だったが、女王陛下はさらなる爆弾を落として来た。
「では、ディアーシュの婚約者などどうだ?」
「…………え?」
素で驚いてしまう。
そして、すぐに「そんなそんな」とあいまいに否定しておけばよかったのに、私は思わず想像してしまったのだ。
婚約した自分とディアーシュ様の姿を。
もちろん、想像図は十七歳の私なんだけど。それでもディアーシュ様は背丈が高くて見上げるんだろうなとか、婚約の発表をするなら盛装をするだろうけど、どんな服装も素晴らしく映えるのだろうなとか。色々考えてしまった。
そして私は、どんな服装なら見劣りしすぎない状態になるのか、考えそうになってしまって……。
「年齢差がありすぎでは?」
ディアーシュ様の言葉に、ハッと我に返った。
次いで、猛烈に恥ずかしくなる。
(どうして私、婚約した状態を想像しちゃったんだろう)
なんか、自分だけその気がある人みたいでいたたまれない。ディアーシュ様は考えもしなかっただろうに。
「あと五年もすれば、さしてひどい年齢差には見えないだろう?」
「婚約時点で幼いのでは、どう考えてもおかしいでしょうに」
楽し気な女王陛下の言葉に、ディアーシュ様は渋い表情になる。
「しかし、どういう形ででも公爵家の縁とするか王家の縁にしなくては、どこかに取られてしまうやもしれんが?」
ディアーシュ様は黙り込み、女王陛下が笑う。
私は誰かにほいほいついて行く気はないし、恩を忘れてディアーシュ様達に不利なことはしないつもりだ。けど、女王陛下が言っているのは、そういうことじゃないんだろう。
権力者との縁がないと、足元をすくわれるかもしれない、と心配しているのだ。
そこで女王陛下が話を変えてくれた。
「さて流炎石か。ツォルンも度々我が国から取り寄せていた品ではある。量が確保できれば、十分に取引材料になるであろう。よくやった」
褒めてもらえて、私も嬉しい。
頑張った甲斐があった。
「これで取引をしたら、ラーフェン王国の方も我が国が窮しておると認識するだろう。その間に……」
「食料を問題なくひそかに生産し、各地に行き渡るようにしつつ、問題の聖女の力を削ぐ方法を模索します」
ディアーシュ様の回答に、女王陛下は眉をひそめた。
「大丈夫なのか?」
そう問いかけるのだから、女王陛下はディアーシュ様がどうやってアリアの持つ力を削ぐつもりなのか、わかっているのだと思う。
心配するような、危険なやり方なのかな?
「できる限りのことをしなくては。さもなければ、いかに錬金術があったとしても、王国を維持し続けられるかわかりません」
ディアーシュ様の懸念はわかる。
「水も風も、ゆっくりとですが精霊不在の影響を受けて、滞り、減ることが予想されています。影響を受けにくい鉱石は、それを目的とした他国からの侵略を招く可能性もあります。今年と来年を乗り越えられても、あの聖女以外にも国に害を成しそうな人間は多いのですから」
そう。
精霊の影響力は、植物が一番強く受けている。
他の物は、アインヴェイル王国以外からの影響もあるので、精霊の援助を失ったとしても、一気に悪くなるものではないのだ。
(ディアーシュ様は、現状を維持できている間に、どうにかしたいんだと思う)
ただ私には、どういう手段があるのかわからない。
黙って聞いていると、女王陛下がため息をついた。
「そなたが言い出したということは、魔王が関係していると、そう思っているのだな?」
私は目を見開いた。
――魔王!?
ディアーシュ様はうなずく。
「唐突に、人に精霊を操れる力を与えられる存在など、魔王しかいません」
「……どうする気なのだ?」
女王陛下ではなくとも、疑問に思うだろう。魔王が関与しているとして、どうやってそれを止めるのかなんて。
「交渉は試すつもりです」
(アインヴェイル王国にとって、魔王は交渉できる相手なのかしら?)
レド様だって錬金術の師匠になってくれている。話を聞いてくれる人かもしれないけど。
(もしかしたら、アリアに騙されて力を与えてしまった可能性だってあるし……)
人の良い(?)魔王だとしたら、お願いのしようもある。
そう思い込もうとした私だったけれど、どこか不安のようなものが心の中に湧きあがって、王宮から帰るまでの間も消えてくれなかった。




