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今日も魔王様を召喚します

「うう、なんであんなこと……」


 自分の行動が信じられない。

 素直にほめられて受け取れないのは、私もひねくれているからなのに。その気恥ずかしさをディアーシュ様に打ち返してしまうだなんて。


 しかも、やり返す形で。

 なんか、あそこまでいくと引くに引けない気がしてしまったのだ。自分でもどうかしてると思うのだけど。


「でもディアーシュ様の方も、ちょっと褒められ慣れてないというか、褒められてもよくわかっていないような感じ?」


 自分が褒められているのはわかっているようだけど……何か違う感じがする。まるで、自分じゃない誰かが褒められているようなあっさりした反応。

 過去にも沢山褒められてきたはずだから、飽きてしまったんだろうか?


 首をかしげつつ、私は部屋に戻った。

 そうして寝支度をしつつ、ディアーシュ様から出された課題について考える。

 農作物については心当たりのアイテムについて、レド様にも意見を聞いてから作り出そうと思う。

 問題は、輸入の対価だ。


「魔力石以外の、貴重で、あまりたくさんの量が無くてもいい……。でも他の国が、精霊がいなくなるリスクを冒してでも欲しがるもの」


 それぐらいじゃなければ、アリアに目をつけられても、アインヴェイル王国に協力するリスクを冒してくれない。精霊の力がなくなって、食料生産の危機に陥りそうな状況が待っている可能性があるのだから。


「アインヴェイル王国で、精霊がいなくても食料生産には問題ないって証明できれば、多少は緩和されるわよね」


 それまでのつなぎだから、一年間だけどうにかできる品であればいい。

 ほどほどに希少な物って何かあるだろうか?


 寝間着に着替え、ベットの毛布や羽毛がたっぷりと入った上掛けの中に潜り込む。

 ややあって、ノックの音がしてナディアさんが入って来た。


「ちゃんと寝る準備をしたのね」


 ナディアさんは微笑む。


「明日は部屋のお引越しをするけれど、私達の方でしてしまうから、リズは作業場の方にいていいわ。夕方までには終わらせるから」


「夕方までかかるなら、ちょっと大がかりですね?」


 私物だけ動かして終わりだと思っていた。


「新しい部屋の方の、家具も入れ替える必要があるみたいなの。浴室も広くなるから、色々楽になると思うわ」


「広いお風呂ですか、いいですね」


 お風呂は好きだ。特に寒くなってきた近頃は、お湯に浸からないと冷えた体が温まらない気がしてしまう。

 お水を出すのも温めるのも魔法を使うとはいえ、この部屋の隣にある浴室は少し小さいので、手伝ってくれるナディアさんが窮屈じゃないかなと思っていたのだ。


「ええ。期待していて?」


 ナディアさんは、意味ありげに微笑んだ。


「今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んでね」


 そうしてナディアさんが部屋の明かりをいくらか落として、部屋を出て行って……。

 じっと布団の中で息をひそめる。

 足音は聞こえなくなった。でも、まだまだ待つ。


 この後、見回りの人が通り過ぎるのだ。

 建物内部の見回りは夜に二度。次は深夜になるので、一回をやり過ごせば、しばらくの間は大丈夫だ。


 固い底の靴音が廊下をゆっくりと通り過ぎていく。

 聞こえなくなってしばらくしてから寝台からはい出て、カーディガンを着て扉の近くへ行く。

 かすかに、コツコツと足音がした。


 私の部屋を通り過ぎたところで、部屋のカーテンを点検し、ナディアさんが減らした部屋の明かりをもう一度つけて明るくして、いつもの書き物机の前に座る。

 引き出しから出すのは、秘薬が入っていた瓶。

 それを置いて呼びかける。


「魔王レド様、ご都合いかがですか?」


 呼びかけると、瓶からふわふわふわと白い煙が上がり始める。

 煙は一気に広がって、ふいに一か所に固まった。そして、なにかの生き物の形になっていく。


 三角耳に丸い頭、頭よりは細長い体に、長い尻尾。

 白いもちっとした感じの、二足で直立した猫の姿が現れる。


「参ったぞ、リズよ」


 偉そうなしゃべり方のこの猫こそ、魔王レド様だ。

 レド様は、各国に一人はいるという魔王で、私の故国ラーフェン王国の魔王らしい。

 私がレド様が作った秘薬を飲んだので、私の呼びかけに答えて現れてくれるようになったのだ。


 しかしいつ見ても、魔王とは思えない。

 最初は、白い猫型の魔物だって私は判断してしまったし。


(でも魔王って、人の形をしているんじゃなかったっけ?)


 噂ではそう聞いていたのだけど、レド様は人の姿になったことはない。


「先日のあれは上手くいったのか?」


「はい、これを見てください」


 私は引き出しからペンを取り出す。

 中央は特殊な錬金術用のインクを固めた物で、赤い色をしている。それをガラス質の物で覆い、とがったペン先だけ、赤いインクを固めた物が露出していた。


 題して、携帯用錬金術ペン。

 外出時にすぐ使えるペンがあったら楽だなと思い、作ってみた物だった。


「とりあえずこれ、火属性なので……」


 紙を取り出して、そこにペンで簡単な魔力図を描く。

 それを持ち上げた上で、もう片方の手の指先で触れて魔力を流すと、ボッと火が現れて、指を離すとすぐ消えた。

 図を描いた紙は黒焦げていた。


「いい感じだな。吾輩にも一本もらおうではないか」


 レド様がわくわくした様子で、ちっちゃな手を差し出す。

 渡したものの、レド様の体が小さいせいでぎゅっと抱きしめるように持つので、なんだか可愛らしすぎて笑ってしまった。


「……なんだ? おかしいか?」


「いえ、あんまりにも素敵な光景で」


 心が躍るんです。もっと色々持たせてみたい衝動に駆られる。

 あえて言うなら、この可愛らしい光景を精密に描写できる絵描きがいたら最高だった。


「この姿を描き残したい……」


 思わず本音が漏れてしまったが、そのせいでレド様は私が何を考えているか気づいてしまったらしい。


「まさかリズよ。吾輩がこの猫姿であることで、そんなに笑っているのだな?」

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