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覚悟を決めました

12月10日書籍一巻発売です!

 黙り込んでしまう私。

 ディアーシュ様も口を開かない。私の回答を待ってくれているんだろう。


 いつかは話さなければならないことだった。私が、本当は子供ではないとバレてしまった時から。

 なにより、嘘をついている私を、ディアーシュ様は保護し続けてくれていた。

 しかもこうして尋ねたのは、そんな私を『守るため』だ。


(たぶん、神殿が私と接触しようと強行するまでは、黙って見逃してくれるつもりだったんだと思う)


 私の身元が嘘でも、錬金術師として役に立ち、国を害さないのなら問題ない……と考えたに違いない。


 だけど神殿が私に目をつけ、私のことを手に入れるために活動を始めた。

 私の神殿行きを避ける対策をするにあたって、私の正体を知らないままでは厄介なことになるかもしれない。だから尋ねたのだ。


 観念して私は静かにうなずいた。


「リズというのは……偽名です。神官見習いではありません」


「だろうな。元の姿からすると、君は見習いをしているような年齢ではない」


「はい」


 言い難くて、声も震えてしまいそうで、喉に力が入る。

 ぐっと奥歯を噛みしめてから、私は絞り出すように、私は真実を口にした。


「……私は、ラーフェン王国の聖女役をしていました。シェリーズといいます」


「そういうことか……」


 落ち着いた様子でつぶやくディアーシュ様。ある程度予想していたのかもしれない。

 私はそれ以上どう話していいのか迷ってしまったけど、一呼吸置いてディアーシュ様が尋ねてくれた。


「神官見習いのリズの話以外も、偽りか?」


「聖女の話は、全てそのままです。私は……異母妹のアリアに逆恨みされていて、だから罪人として殺されそうになったのです」


 そこは嘘をついていない。


「姿が変わるのはなぜだ?」


「秘薬をもらったのです。王都から追放される直前に、唯一私のことを気にかけてくれた、まだ幼い王子殿下がくれたものでした。殺されそうになって、逃げるために飲んでみたら、子供の姿になっていました」


「秘薬か……錬金術のものなのか?」


「錬金術とは違うかと……」


 答え初めてから(もしかして錬金術なのかな?)という疑問が湧く。

 なにせ作成したのはレド様だ。あの魔王が作ったものなら、錬金術を使っていてもおかしくはない。でも不明なので、ごまかすことにした。


「魔王の秘薬、と聞いています。王宮の宝物庫からこっそり持ち出した物だと」


 ディアーシュ様はうなずいた。


「なるほどな。王族ならば、宝物庫に秘匿された物を持ち出すこともできるだろう。魔王が関わる品ならば、年齢が変わるような魔法をかけられるのも納得した。しかし……」


 一つ息を吐いて、ディアーシュ様が言う。


「ますます、君の身元がわかっては困るな」


「はい……。アインヴェイル王国の人々が、私がとんでもない聖女の血縁だと知ったら、どんな恨み方をされるかわかりませんし、それで魔力石や暖石を使ってくれなくなっては、困ります」


 ディアーシュ様に最初感じていた恐れを、他の人々にも感じなければならないだけじゃない。私を嫌ったあげく、魔力石も暖石も拒否されたら……。


 そういう人は出るだろう。

 特に作物がとれなくなりそうな来年からは、アリアを恨み、そのため私をも嫌って全てを拒否して、死を選んでしまう人もいるかもしれない。


「お前もまた被害者だと知らせればいいことだ。殺されそうになったと聞けば、納得する者は多い」


 優しいことを言ってくれるディアーシュ様に、私は苦笑いした。


「それに神殿は、血縁があるとわかれば利用価値が上がると判断するだろう。真の聖女は君だと印象づけるのに、血縁があることが有利に働く」


「有利ですか?」


 その発想はなかった。

 アリアと血縁でいいことがなかったせいかもしれないけど。


「神が聖女になるべき人間を取り違えた、と言われたらどうだ? 血縁者だから間違えたのだというのなら、納得する人間はいるだろう。一方で神殿がアリアという名の女を聖女として持ち上げたことの言い訳もできる」


「あ……」


 間違うためには、似ている箇所が必要だ。

 年の近い姉妹なら、よく似ていたから間違うこともある。そういう経験がある人ほど納得してしまうだろう。


 なにより神への信仰が厚い人なら、神官が間違っても仕方ない理由があれば「そういうことか。なら神殿を嫌わずに済む」と安心して受け入れる人も多いはずだ。

 ディアーシュ様は「だが」と続ける。


「君の存在が目立てば……あの聖女がきっと君を殺しに来る」


 神殿に目をつけられて困るのは、そこだ。

 新たな聖女になったのがリズという名前の娘で、髪の色まで一致したら……アリアは疑うはずだ。

 私――シェリーズではないかと。


 アリアは、私が錬金術を学んでいたことを知っている。

 私の年齢が違うことも、錬金術でどうにかしたと考えるに違いない。

 そしてアリアが殺しに来るかもしれないと言われて、私は「その覚悟はあるのか」とディアーシュ様に聞かれるかと思った。


 アリアの力に対抗する覚悟。


 今の私は、何もできないわけじゃない。

 以前は知らなかったアイテムも、レド様の知識に助けられて作れるようになったし、錬金術の知識も深まった。

 精霊の攻撃に対抗する手段も、いくらかは作れるはずだ。


 でもアリアは、実際に精霊を魅了する力を持っているのだ。嘘の能力ではないのなら、どうやって覆せばいいのか……。

 悩む私に、ディアーシュ様は言う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何時までも隠れては暮らせませんからね… 戦うしかない!
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