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とうとう話を切り出されました

 アガサさん達は、私を連れて少し遠回りをして帰った。

 すぐに公爵邸に戻るのも危険だと判断したのだ。私達が通りそうなところに、また神官がいるかもしれないから。


 おかげで帰宅したのは夕方近くになってしまった。

 首からネックレスのように下げた温石のおかげで寒くはないけれど、ずっと馬に乗り続けたので足腰が痛い。


 馬から降りた後、よろよろしながら歩く私とは違い、アガサさんはシャキシャキしている。

 さすが、元は騎士を目指していた人だ。

 業務内容的には、今でも半分は騎士みたいな感じだと思うけども。


 館の中に入ると、エントランスの前にある階段をディアーシュ様が急いで降りて来た。

 先に神官と遭遇していたことを知らせていたのと、私の帰りが予定よりも遅くなったので、心配してくれたのかもしれない。


「無事か?」


 表情は変わらないけど、足運びから焦ったらしいことがわかる……って、ちょっと!


「何かされていないか?」


 ディアーシュ様が子供みたいに、私の脇腹を掴んで持ち上げたのだ。

 顔の高さが同じになるから、いつもみたいに見上げて首が辛くならなくて助かるけど、これはちょっとダメでは?


「あの、大丈夫ですから、下ろしてください」


 私が腕や足をばたつかせても、子犬が騒いでるぐらいにしか見えないのだろう、一緒に帰って来た兵士などは微笑ましそうに見ている。


(だけど私、中身は大人だから!)


 大人の女性にこんなことをしてはいけない。保護者であっても家族ではないし、絵面がよろしくない。

 まるで恋人みたい――と思ったところで、顔が熱くなりそうになった。


(今、私、何を想像してたの……)


 つい元の姿の自分が、ディアーシュ様にこうして持ち上げられている図を脳裏に描いてしまった。

 とても恥ずかしいので、ようやく降ろしてくれてほっとする。

 ディアーシュ様は爪の先ほども表情を動かしていないのが、少し悔しい。


「すぐに離れましたので、少し顔を見られた程度です」


 アガサさんが、ディアーシュ様に説明してくれる。


「けれど、髪の色を変えていたのにリズのことがわかったので、顔を見知っている人間から聞いたか、どうにかしてリズを見たことがあるのかもしれません。これからは、人の目を避けるだけでは足りないのではないかと」


 アガサさんの意見に、ディアーシュ様がぐっと眉間にしわを作る。


「……女王陛下と対策について話し合ったばかりだ。そのことについて後で指示する。とりあえずリズ、身支度と食事が終わった後に話がある」


「あ、はい」


 返事をして、私は急いで着替えや髪の染粉を落としにかかった。

 入浴が必要で、ナディアさんに手伝ってもらったのは、自分一人では染粉が落ちたか確認できないのと、落とすのに手間が必要だったからだ。


「どうでしょうか?」


 湯舟に使って待ちつつ、ナディアさんに聞く。


「ようやく落ちたわ。短い時間だから、強い染料じゃなくて良かった」


 答えるナディアさんの声もほっとしている。


「もっと強い染料だと、なかなか落ちないんでしょうか?」


 ようやく元のピンクがかった色に戻った髪を見る。さすがナディアさん、綺麗に落ちてる。


「落としたくない人が使うものだったら、毎日染料落とし剤で洗っても。一週間ぐらいかかるかも。でも落ちるまでの間にまだらになったりするの。重ねて元の色で染め直した方が楽なくらいよ」


「それはちょっと面倒ですね」


 今回のように、神殿関係者に会った時のことを考えて染めることになれば、何度も重ねて染め直してばかりになりそうだ。さすがに髪が痛むと思う。


「うーん、自分で作ってみるかな。水では落ちなくて、でも専用の液だと落ちやすい染料とか」


「作れるの?」


「研究してみないとわからないですけれど、可能性はあると思います」


 あらゆる薬品や鉱物まで、色々と作れるのが錬金術だ。


(今度レド様に聞いてみよう)


 頼りになる魔王なら、きっと何か知っていると思いながら入浴を終えて、着替えと食事を済ませる。


 食事の時には、ディアーシュ様はいなかった。

 不思議に思って、誰もいない正餐室を見まわしてしまった私に、ナディアさんが教えてくれる。


「今日は仕事が立て込んでいるそうなの。執務室で仕事をしながら何か召し上がっているらしいから、気にしないで食べていいのよ」


「わかりました」


 仕事に追われているディアーシュ様は、ゆっくりとした食事の時間がとれなかったらしい。

 そんなに忙しいのなら、私に関する用事も早く済ませるべきかも。


 私は急いで食事を済ませて、ディアーシュ様の執務室へ向かった。

 扉をノックする。


「リズです」


 中にまで聞こえるように言うと、人が歩いて来る足音がして、扉が開かれた。

 従者かと思えば、ディアーシュ様ご自身が開けてくれて私はびっくりする。


「入れ」


 簡潔に指示されて、私はいそいそとディアーシュ様の執務室へ入った。


「そこに座るといい」


 指さしたのは、執務室の右端に置かれたソファだ。

 前にディアーシュ様の執務室で座ったソファは、砦の中の簡素な木製のものだったけど、こちらは臙脂色の布張りで、クッションが入っているのか座り心地もいい。

 ディアーシュ様はテーブルを間に向かい合わせになる席に座った。


「そろそろ聞いておかねばならないと思ってな」


 出だしの言葉に、私は思わず姿勢を正す。


「な、何をですか?」


「お前が神殿にさらわれないようにするためにも、私は知っておかねばならないと思っている。お前が実は一体誰なのかを。……ラーフェン王国の神官見習いのリズ、というのは偽りなのだろう?」


 さっと頭から一気に血が引く。

 温石を持っているのに、体が冷たくなっていくのがわかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] |さすがに髪が痛むと思う。 髪には痛覚がないので、痛みは感じないかと思います(たぶん『傷む』)。
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