神官が現れた!
「討伐、しているんですものね」
少し前ならいざしらず、最近は王都周辺でひっきりなしに騎士や兵士が討伐をしている。
私も精霊を倒してから三日ほどは休みをもらったものの、後は怪我の薬などを作っては、ディアーシュ様にお買い上げいただいていた。
その量がけっこう多かったこともあって、討伐回数もかなりのものだっただろうと想像がつく。
だから出没するのなら、森の中とか、畑のある範囲から少し遠い場所……街道の途中とかになるはず。たしかにおかしい。
「いやぁ、爆弾、すごいですな! 俺の魔法よりもずっと効果的ですよ!」
剣を鞘におさめた兵士がこちらに戻ってきて、ひとしきり私の爆弾をほめてくれる。
「魔力を必要としないのですから、きっとこれから予定している討伐も、この爆弾があればもっと上手くいくことでしょう!」
(王都から離れた場所の討伐の時は、爆弾も使うことになっているのよね)
王都周辺の討伐は、ほとんど終わっている。
なので、その他の地域に王国は手を広げたいのだけど、問題になるのが魔法の威力だ。
魔物への戦闘に関しては、『使えない』と言ってもいい状態になってしまう。
補う方法として、私が作る爆弾に女王陛下が注目したそうで。
問題は、量産が難しいこと。
こればかりは錬金術の基礎を学んでもらえないと、今まで魔力石を作ってくれていた薬師達でも手伝うことができない。
作っている間に、取り扱いを間違えて爆発したら……考えるだけで恐ろしい。
なので、基本的には魔力石を使い、魔法で戦うことになる。
だけど今後に備えて、爆弾をいくらか持って行き、利用すると決まっていた。爆弾を発動させるのにも慣れが必要だ――という建前なので、数は多くない。
また、今回の討伐中、私は錬金術の講義を行うことになっている。
なんとかして錬金術師を増やすためだ。
錬金術師を目指したがっている人は、意外と多い。
例の魔力石の時からの付き合いになる三人はもちろん、今まで三人から教えられて暖石などを作ってくれていた人達の中からも、錬金術を学びたいという声が上がった。
なので講義の受講者は十人もいる。
(苦戦するかもしれないけど、がんばってほしいな)
私の方も、沢山の人に教えるのは初めてだけど、できるだけわかりやすく、早く習得できるようにしなくては。
魔力石や暖石を他の人が作ってくれるおかげで、私の錬金術の実験や新しいアイテムを作れる時間が増えたので、彼らが錬金術師になってくれると、もっと新しい物を作ったりできる。
(レド様からも、色んな話を聞くから、作ってみたいものが沢山あるんだよね)
爆弾も色々種類があるし、せっかく冬になるのなら材料が手に入りやすいから、今のうちにそういった冷たいアイテムというのも作ってみたい。
夢が広がる私だったが、その時、アガサさんに話しかけてくる人がいた。
「もし……」
農夫達の中から、白色に赤の模様を入れたローブを着た人物が進み出て来た。
「なんてこと」
アガサさんがごく小さな声でつぶやき、顔をしかめた。
一体なんだろう。わけがわからないまま、アガサさんがそっと私をローブの人物から隠すように動いたので、それに従う。
そして庇ってくれる行動に、なんだか心があたたかくなる。
(まるでお母さんみたい)
優しくて、時に私を守るために強く立ち向かってくれるアガサさん。
時々、ぎりぎり親子ほどの年齢が離れているアガサさんに、お母さんへの思慕みたいなものを感じてしまう。
口に出すと迷惑をかけてしまうかもしれないので、私はそっと心の中だけで思うだけにしているけど。
そのアガサさんに、ローブの人物が言う。
「そちらは、公爵家にご滞在のリズ嬢でしょうか?」
(私を訪ねて来た?)
今まではディアーシュ様が子供を保護している話は、知っている人もいるかもしれないけど、訪ねて来る人はいなかった。
でも先日、精霊の討伐について行くことで、沢山の人に私が不可思議なアイテムを使う人間だと知られただろう。
私のことを知る人も多くなってきたので、隠せなくはなってきたと思ってはいたけど。
(雇いたいと思って来たのかな)
だからアガサさんが警戒しているのかなと私は想像する。
アガサさんはしれっと嘘をついた。
「私は彼女の親戚です」
あくまで私のことは隠すつもりのようだ。
「うちの姪っ子に御用でしょうか? 今日は非番のみんなで外出しに来ただけですけれど」
警戒をにじませる声。小さい女の子に他所の成人男性が声をかけてきたら、こんな顔をされても仕方ないので、おかしなことではない、という範囲ではある。
「そもそもここは公爵家の耕作地ですけれど、なにか御用でしたか? 神官殿」
白に赤い模様のローブは、アインヴェイル王国では神官の衣装らしい。アガサさんの言葉でそれがわかった。
模様はおおよそ似ているけど、色が違うのはなぜなんだろうと、不思議に思う。
そもそもお飾り聖女の私が他国へ訪問することはないので、隣国の神官の衣装の違いなど知りもしなかった。
(元が末端貴族だから、他国のことなんてあんまり知らないものね)
私の頭は、錬金術の知識をつめこむのでいっぱいいっぱいだったから、なおさら他国のことには疎いのだ。
12/10一巻発売、よろしくお願いいたします。