王都の外へ散策です
12/10アリアンローズさんより書籍出版予定です!
王都の外へ出るのは三度目だ。
一度目は、ラーフェン王国から来た時。
あの時は隣国の聖女だという自分の身元がバレると、殺されてしまうかもと怯えていたのと、無理をして魔力石を作った疲れと相まって、ほとんど記憶がない。
二度目は、先日の冬の精霊討伐時のこと。
雪が降る冷たい冬の風景を美しいとは思ったものの、本当に精霊を倒せるのか、きちんとアイテムを使えるのかと緊張していて、じっくりと見て回るという感じではなかった。
だからこそ、王都を囲む高い壁を越える時は観光しに行くような気分になったし、王都の外に広がる建物や畑の広さにすがすがしい気分になった。
以前とは違い、雪が解けた畑には作業する人の姿があった。
春に向けての準備のため、眠っている芽を保護するための麦わらを敷いたり、掘り起こして肥料となるものを混ぜ込んだりする人。
壊れた動物の小屋を直す人。
近くにある家に、荷物を沢山運び込む人もいた。
「ある程度魔法の威力が戻ったので、王都の外にある家に戻る者もいるようね」
教えてくれたのは、ついてきてくれたアガサさんだ。
メイド長だというのに私の付き添いをしているのは、アガサさんが戦える人だからだと思う。
魔法が使えるようになったものの、王都から離れた場所の魔物は討伐しきれていないので、何が起こるかわからないから……。
(にしても、こんなにガチガチに固められるとは)
私の周囲には、五人もの公爵家の兵士がいる。精霊討伐に向かった時に一緒だった人もいて顔見知りが多く、多少は気楽ではある。
(私にこんなに護衛をつける必要はないような……と口にしたら、たぶん怒られるってわかっているんだけど)
アインヴェイル王国唯一の錬金術師というのが、今の私の立場だ。
魔力石を作れる人は増えたものの、錬金術師と名乗れるほど、沢山の物を作れるのは私だけ。
そんな私になにかあったら……アインヴェイル王国に問題が怒った時に困る。
なので、ディアーシュ様は私の守りを固くしているのだとわかってはいる。
これは、もっと錬金術を広めて、正式な『錬金術師』を大量に増やさなければ解決しない問題だ。
「でも、ここまでしなくても」
私は髪の端を摘まむ。
念のために変装をと言われて、髪の色を茶色に変えていた。染粉できちんと染めたので、綺麗な茶だ。
果たして髪の色まで隠す必要はあったんだろうか。
そんなことを考えつつ、私はアガサさん達と一緒に目的の森へ到着した。
森の光景に、私は感嘆した。
「……すごい」
上を見上げると、青銀の空が広がっているように錯覚しそうだ。
それは全部、この森に生える青銀樹の葉だ。風に揺れて、かさかさと音をたてながら空にさざめきが生まれる様子は、とても神秘的だ。
「綺麗ですね」
「魔法が普通に使えた頃は、貴族もここへ出かける人が多かったのよ。ほら、あちらの少し広い場所に、休憩ができるような四阿をいくつか作ってあるでしょう?」
アガサさんが指さす方を見れば、白木の簡素な四阿が、ちらほらとあるのがわかる。
「全部王家が作って管理しているのよ。青銀樹は増やすのが難しい樹だから、貴族が勝手に四阿や休憩所を作ろうとして、勝手に伐採されては困るから」
「なるほどです。それで、珍しい実というのはこの青銀樹の実なんですか?」
「ええ。食べられるわけでもないし、すぐに腐ってしまうから採取する人はいないのよ。でも、ちょっと面白い性質があるから、錬金術に使えたらいいわね」
「面白い性質ですか?」
「見ていて」
アガサさんは地面を探し、握りこぶし大の茶色のどんぐりみたいな実を見つける。
それを割って、種を見せてくれる。
「あ、綺麗」
空を覆う色と似た、青銀の種だ。
種は実よりも二回りほど小さいけれど、どんぐり状の実の中にあるとは思えないほど綺麗な色だった。
「これがね、水の中に入れると……」
先に用意していた、水をいれておいた小さな木のカップ。そこに青銀の種を入れると、すっと砂糖のように溶けてしまう。
「この水は味があるとか、何か変化があるんですか?」
「うっすらと塩気があるみたいだけど、変な味がするから誰も飲まないわ」
「塩気……」
何か覚えがある話だ。ということは、錬金術に使えるかもしれない。
「たくさん拾ってもいいですか?」
アガサさんに許可を求めると、うなずきが返って来た。
「青銀樹は年に三回も実をつけるから、沢山拾っても大丈夫よ。むしろ種からはあまり増えないものだから、問題ないと思うわ」
「ありがとうございます。せっかくだから、芽が出やすくなる方法でもついでに研究してみます」
そういうわけで、私は種拾いをすることになった。