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公爵閣下の面接です

 顔をのぞかせたのは、公爵様よりも年下の少年だ。

 15歳ぐらいかな。

 薄茶色のちょっと跳ねた感じの髪で、厚手のかっちりとした黒と赤の上着を着ている。

 彼は、特に鎧らしいものを身に着けていない。


(たぶん、いらないんだ)


 魔法で防御ができるんだと思う。

 そんなことを考えつつ、私は視線を下に落とす。

 目が合ったからって殺されはしないだろうけど、やっぱり怖い。

 しげしげとこちらを見る視線は感じたけど、よけいに顔を上げられなかった。


「ほんとにちっちゃい子だったんっすねー」


 やがて降ってきた言葉は、そんな物だった。


「閣下が拾ってきたっていうから、一体どんな子かと思ったっすよ。さ、入って」


 手招きされたのと、その言葉が柔らかかったから、私は彼の顔をもう一度見上げた。

 元の17歳だった時の私より、手の平分だけ背が高そう。薄茶の髪の少年はニカッと明るい笑みを見せてくれる。


 敵だと思われているとか、すぐに後ろから斬られるってことはないみたい?

 ちょっとほっとしつつ、私はアガサさんに背中をおされて部屋に入った。


「来たか」


 奥の執務机の前に、公爵様は立っていた。

 髪色や目の色とかを見て、(ああ、夢じゃなかったんだな)と心の中で嘆息する。


 にしても、あの時は馬上にいたし、私が突然小さくなったから、全員自分より大きく見えて、大きさの感覚が狂っていたからわからなかったけど、結構背が高い。

 元の私より頭一つ分以上はありそう。


 肩幅もそれに伴って広めで、胴回りもがっしりしている。

 ものすごく、剣で人をばったばった切り倒していくのが得意そうな感じだ。


 ただお顔が綺麗だからなのか、姿勢がいいからか、真っ直ぐに伸びた樹のように、すらりとして見える。

 見とれてしまいそう。だけど怖い。


 なにより、私は今からこの人に嘘をつこうとしている。

 バレたら殺されるかもしれないと思うと、足が震えてきた。


(どうしよう、立っていられない……)


 でもむやみに怯えていたら、裏があると疑われるかもしれない。


「怪我をしていると聞いた。そこの椅子に座らせろ」


 公爵様の指示で、部屋の右手奥に置かれたソファーに座らせてもらえた。

 砦だからか、木製で布張りもクッションもない椅子だけど、体がまだ辛かったので有難い。おかげでその場に座り込む心配はなくなった。


 しかし公爵様が向い側の椅子に座ったところで、「ひぃっ」と飛び上がりそうになる。

 冷酷公爵と差し向いとか、怖すぎる!

 そして公爵様は、直球で尋ねた。


「まずは名を名乗れ」


「はい! リズといいます!」


「それで、お前が逃げていた理由と、なぜラーフェン王国の兵士に追われていたのかを話せ」


 単刀直入な問いに、私は声を震わせながら答えた。


「その、私はラーフェン王国に元々いた聖女様の付き人で。あ、その、聖女といっても行事の時に聖女役をしていて、だからその聖女様は何かの力があるわけではないのですけれど」


 しどろもどろの私の説明を、その場にいた人々はじっと黙って聞いていてくれる。


「それで、アインヴェイル王国から聖女様が来られたとたんに、その聖女……シェリー様がニセモノと言われて追放されまして」


 ここでしれっと、聖女の名前をごまかす。

 私の本名はシェリーズだけど、聖女の名前をシェリーにしておけば、リズという名前と似ているとは思わないだろう。


「仲が良かった私も、一緒に追放されることになったのです」


「なんということでしょう……」


 思わず、という感じのアガサさんのつぶやきが聞こえた。


 公爵様は黙ったままだ。

 陳腐すぎて、疑われているのかな?

 怖いけれど、ここまできたら考えた設定で押し通すしかない。幸い、見習い神官の生活についてはよく知っているもの。

 一度つばをのみこんで、私は続けた。


「けれど、国外追放と言ったのに国境近くで殺されそうになって……。一緒にいた聖女様が、私を逃がしてくださったんです」


 あの時のことを思い出すと、今さらながらに恐怖感がよみがえる。しかも今現在も殺されるかもしれない状況だから、恐ろしさは二倍。

 今日が人生最後の日かもしれないと思うと、目に涙が浮かんできた。


「でも結局、兵士に追いつかれそうになっていまして。その、助けてくださってありがとうございました」


 頭を下げると、ため息が複数聞こえてきた。

 公爵様の後ろに立って、ひどい話だなぁという表情を隠しもしない少年騎士と、私の隣に立つアガサさん。

 そして公爵様も……。


 公爵様のため息は、一体どういう理由なんだろう。

 そんな簡単な嘘をついてと、あきれたのだろうか。

 アガサさんがぽつりと言う。


「こんな小さな子供まで殺そうとするなんて。ラーフェンの人間は子供を何だと思っているのでしょう」


 彼女は私に同情してくれたようだ。


「近頃のことを思うと、なおさらそう考えるのはわかるっす」


「少し、人が死に過ぎたな」


 少年騎士が、そして公爵様もアガサに同意した。

 私は内心で、胸をなでおろしたのだった。

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