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ディアーシュ様の不可思議な行動

 事件が解決した後、季節は急に秋へ戻った。


 本来の季節に戻ったのだ。

 アインヴェイル王国の王都やその周辺の人々は、急いでやり残していた冬支度をしている。


 なにより魔法の威力が少し回復したおかげで、王都の外に広がる畑などの世話ができるようになったのだ。

 王都とその周辺だけの話なので、アインヴェイル王国全土で元に戻ったわけではない。

 でも他の町や村へ魔力石を運ぶ馬車も増えていったので、状況は改善するだろうと思われた。


 そんな日々が始まってしばらくしてからのこと。


「今日は南西の輸入路が確保できたおかげで、小麦が沢山入って来たのと、東のオーリン地方から、干し果物が運ばれてきたのよ」


 そう言いながら、メイド長のアガサさんが食事の最後にドライフルーツのケーキを並べた。

 私は甘いものは大好きで、ご飯の後でも完食してしまう。


 一緒に食卓についているディアーシュ様の方を見ると、お皿の上に乗ったケーキは私の半分ほどの大きさだった。

 ディアーシュ様はそれだけで十分らしい。

 私が気兼ねなくケーキを食べ、直後のお茶を頂いたところで、ディアーシュ様が言った。


「今日もまた、なにかを作るのか?」


「いえ、王都の商店を見て回るか、王都の外へ散策に行こうかと思っています」


 私の返事を聞いたディアーシュ様は、近くに控えていた真っ白な髪をした初老の家令オイゲンさんを指先で呼び寄せ、なにかを話した。

 小声だけど「今日は……」とか「どのあたりを」とか会話が漏れ聞こえるけれど、内容はよくわからない。

 オイゲンさんとの話を済ませたところで、ディアーシュ様が私に言った。


「行くなら王都の外の方がいいだろう。護衛を五人つけるので、出発の時間についてはアガサに伝えておくように」


「え、五人もですか? でも王都の近辺は安全になったと聞きましたし、お一人ぐらいいていただければ大丈夫かと……。私も攻撃手段がありますし」


 私は攻撃魔法を使えなくても、爆弾を持っているのだ。

 公爵邸でも冬支度のやり残しを片付けるために、人が右往左往しているので、護衛として人手を出してもらうのは申し訳なかった。

 ディアーシュ様は首を横に振る。


「ダメだ。君は我が国内で唯一の錬金術の知識を持つ人物だ」


 そう言われてしまっては反論できない。

 私がいなくなったら、アインヴェイル王国で精霊の問題が持ち上がっても、どうにかできるアイテムを作れる人間はいなくなり、誰かが死を覚悟して戦わなければならない。


(真っ先に先頭に立つことになるのは、ディアーシュ様だろうし……)


 自分自身の魔力が膨大にあるからこそ、ディアーシュ様は以前のように魔法を使って戦える。そんな人は他にいないらしいのだ。


(ディアーシュ様に危険なことをさせたくはない)


 私の庇護者であり、私が本当は子供ではないと知ってからも、館に置いてくれている優しい人だ。

 だから私は折れた。


「では王都の中を散策して……」


「いや、王都の外にするといい」


 即座にディアーシュ様に却下された。


「王都西側の森には、珍しい果実が生る。錬金術の薬などに使えるかもしれないから、確認してもらいたいと思っている」


 私は「そういうことなら」とうなずいた。


「では、森に行ってきます」


「頼んだ」


 そうしていつの間にか、気軽なお出かけはディアーシュ様に依頼されての森探索ということになっていたのだった。


(それにしても、ディアーシュ様はまだ、私のことを聞かないけれど、どうするんだろう)


 今は十二歳くらいの外見であるものの、私の本当の年齢がもっと上であることをディアーシュ様は知っている。

 ただ詳しい事情はまだ聞かれていない。


 精霊による騒ぎが起き、そのために奔走した後も、後始末などで時間がとられたりして、ゆっくりと話し合う余裕がなかったのは確かだ。

 でも収まって来ているこの頃なら、話をしてもおかしくはないのに……。


(なぜ、聞かないのかな)


 私も最初は、説明するのが怖くて誤魔化してしまった。でも……。


(あまりに聞かれなさすぎるのも、なんか怖い)


 ディアーシュ様がそんなことをするほど、私に全幅の信頼を置いているわけでもないだろうし。

 今まで聞いたこともない錬金術という技術を持つ私を、重用はしても、異国人だった私をそれだけで盲目的に信じるわけもない。


 自分の国や自分に従う人達を守るために、そんな甘いことはしないと思うので、いつまでもあいまいにはしないと思うのだけど……。


「わからないなぁ」


 外出着に着替えつつ、ぽっとつぶやいてしまう。

 でもディアーシュ様の考えは、聞いてみないとわからない代物なので、今は考えるのをやめて、外出について意識を向けたのだった。

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