精霊に対抗するアイテム、作ります
そんな予想が当たったか、むしろ意外と簡単だったのか。
ディアーシュ様は二日で戻って来て、私はびっくり仰天した。
「早くないですか!?」
「早いとマズイことでもあったか?」
聞き返されて、私はあわてて首を横に振る。
思わず叫んでしまっただけで、悪いわけではない。
「無事に戻ってくださって大変喜ばしいです!」
「そうか」
応じたディアーシュ様が、どことなく嬉しそうにしてる気がする。表情が柔らかいのかな?
「これがたぶん、星の欠片だ」
そう言って差し出されたのは、ディアーシュ様の両手ほどの大きさの袋が一つ。
星の欠片はそれほど大きくない鉱石だから、ザラザラとすごい数が入っている。
ちらっと中を覗くと、銀色のトゲトゲとした丸い結晶が詰まっていた。
「たくさんですね……」
「お前の音叉を使ったら、あちこちにあったからな。あとこれが炎トカゲの心臓、地底の黒界石だ。こちらは一つずつで大丈夫だな?」
赤黒い鉱石の塊みたいな炎トカゲの心臓は、私が両腕で抱える大きさだ。黒界石は真っ黒な石炭のような石。これはディアーシュ様の握りこぶし大の物が三つもある。
「はい、はい、これで充分です」
次々渡される品に驚くばかりだ。
だってどれも貴重な品だ。
「で、どれくらいで出来る?」
せっかちなディアーシュ様の質問に、私は正直に答えた。
「作るのに四日ください」
こればかりは、すぐにできるものではないのだ。
私は四日、作業場にこもることにした。
昼間はざりざりと鉱石を砕いたものをさらに細かくしたり、混ぜ合わせたり、たくさんの魔力図を描いておく。
その間、ナディアさんやアガサさんが来て手伝いを申し出てくれたり、ゴラールさんまで「勉強がてら手伝うぜ」と言ってくれたけど、全て丁寧に断るしかなかった。
「私にとっても、未知の調合だもんね……」
教えてもらわなければならない。
いや、手順は聞いているし、その通りにやるだけなんだけど、失敗すればするほどみんなが寒さに襲われる期間が延びて、凍死者が増える。
失敗の度に四日費やすのは、さすがにだめだろう。
そういうわけで、夜、レド様を呼んでからが本番だ。
「で……失敗したくないから、呼んだと?」
レド様がぽかーんとしている。
魔王をそんな理由で呼ぶ人はいないからだと思う。でも私は必死なのだ。
「私、こうして隣国へ来るまで、こっそりとしか錬金術を使えなかったんです! だからあんまり高度な調合とかしたことないので、とても自信がありません! たぶんこのままだと失敗するか不完全な物になります! それは嫌なんです」
熱い思いを打ち明けると……。
「くっくっくっく」
レド様が笑い出す。
「変なこと言ってしまいましたか私?」
怒られはしなかったけど、呆れられたのだろうか。ちょっと不安になって尋ねたら、レド様が「いやいや」と手を横に振った。
「君は不思議だな。魔王を使えば、精霊を消せるとは思わなかったのかい?」
「あ……」
レド様は『正攻法ではやらない』と言っただけで、自分が倒せないとは言っていなかった。
でも……と私は思う。
「レド様に頼んだら、魔王がアインヴェイル王国に肩入れしたと周囲の国にも伝わりませんか? 沢山の兵士が関わっているので、秘密にするのは難しいと思うんです。そうしたら、ただでさえ魔力石がないと魔物を倒せない国なのに、周辺国から恐れられて、何をされるか……」
弱っているからといって、手心を加えてくれる人ばかりではない。
むしろ魔王がいるのなら、魔王を倒すという名目で、アインヴェイル王国に攻め込む国もあるかもしれない。
その時も、レド様が助けてくれるという確約はない。
あと、攻め込まれるのは昼だろうから、レド様を呼べないのだ。
「総合的に考えて、アインヴェイル王国民がみんなでなんとかした、という形をとった方が安全だと思います」
私の結論に、レド様は大笑いした。
「ああなんというか、いいね、うん。君の錬金術調合に付き合おう。夜だけにはなるが」
「ありがとうございます!」
夜だけで十分だ!
そうして調合を始める。
十数枚の魔力図をレド様に点検してもらい、炎トカゲの心臓を必要量だけ赤い液体に変え、地底の黒界石を小さな欠片になるよう処理。
地底の黒界石も流銀液と合わせて液体に。
そうして炎トカゲの心臓と液体を、錬金盤に入れて混ぜる。
次に隕鉄、星の欠片、紅玉の粉を入れる。
そうすると、ぽっと液体の上に炎が灯った。
「調合はおおよそいいだろう。今回は昼の光だ。これを三日昼の光にさらし、その間に、魔力を込めながら星の欠片を入れ、溶けたら次を入れ、溶かし続ける」
これだけでも相当に大変な作業だ。
「夕方から夜と朝までは、この炎が消えないように紅玉の粉を溶かし続ける。時々そっと混ぜる以外は、自然に液体に溶けていくのを待つ……根気がいるだろう」
説明したレド様は、「できるか?」と言うように私を見た。
「やります」