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翌朝、精霊について話しました

 翌日、朝起きた私は、深いため息をついた。


「一応、誤魔化せた……のかな?」


 なぜ大人の姿になったのか、とか。そういうことについて、聞かれたけど話せなかったので全て黙秘してしまった。

 今日は「すみません何も覚えていません!」で通そうと決意しつつ、着替えて怪我人の確認へ向かった。


 怪我をした人達はみんな、快方に向かっていた。

 傷口も問題なくくっつき、怪我そのものも治ってきている。

 確認していると、ナディアさんが私を探しに来た。


「ああ、やっぱりここにいたわ。朝食の支度ができているわ。それに公爵閣下がお待ちよ、リズ」


 行かなきゃ、だめですかね……? だめですよねぇ。

 拒否するいい理由も思いつけず、私は朝食をいただくためにいつもの部屋へ。

 先に待っていたディアーシュ様は……。


(なんでじっと私のこと見てるんだろう)


 昨日のことのせい?

 いや、そもそも手首に口づけしたのはディアーシュ様で、私じゃないし。救命のためだったし。

 だけどこんなに恥ずかしいのは、私を助けるためだとわかっていない時にも、私は嫌じゃなかったせい?


 考えるほど恥ずかしくなるので、心を無にして食事を済ませる。

 そして終わったのを見計らったように、ディアーシュ様が給仕のためにいたメイド達を退室させた。

 部屋の中にいるのは、私とディアーシュ様だけになる。


(どどど、どうしよう)


 私は緊張した。

 きっと昨日のことを聞かれて、怒られるに違いない。

 周囲には突然『リズは大人だった』と知らせても混乱するからと、遠ざけただけだろう。そう思って覚悟を決める。


「昨日は――」


 ぴくっと肩が跳ねる。


「薬の調合、ご苦労だった」


 ほっとする。ディアーシュ様も、昨日のことには触れないつもりかもしれない。


「二日後にはまた、現地へ赴くことになる。また怪我人が出た時のために、薬を先に頼みたい」


 二日後。

 ディアーシュ様達は、精霊を倒すまで何度でも挑むんだ。

 だけど……。


「精霊は、普通には倒せないそうです」


 怪我をして倒れるディアーシュ様の姿は見たくない。

 だから魔王レド様から聞いた話をする。

 どこでそんな知識を手に入れたのかと、不思議がられるかもしれない。でも、言わないとこの人を救えないから。


「精霊はおとぎ話みたいに戦って倒そうとすると、内側の魔力が暴発して、大爆発するそうです。それに巻き込まれたら、近くに町があったら壊滅するかもしれません」


「……初耳だな」


 ディアーシュ様の反応に、信じてくれないかも……と私は不安になる。

 でも次の言葉に目を見開いた。


「だが、そうなるかもしれない兆候はあった。精霊の腕を切り裂いた瞬間、魔力の爆発が起こっている。今回の怪我人の多くは、その爆発によるものだ。精霊の攻撃の一種かと思ったが……」


「信じてくれた……」


 驚きのあまり、ぽつりと言葉がこぼれた。

 するとディアーシュ様が、優しい目つきになった気がした。


「お前はずっと私やアインヴェイル王国の民を助けてくれている。そしてお前の発言を裏付ける結果も出ているんだ。信じるのはあたりまえだろう」


 あたりまえ。

 その言葉が、なんだか胸にくる。

 有無を言わさず罪人にされ、その後はずっと自分の身を守るためとはいえ、多少の嘘をついてきた罪悪感もあった。


 だから自分が信用してもらえるのか、自信がなかったんだと思う。

 こんな風に信じてもらえたのは、たぶん私が嘘をついていたことを知ったはずなのに、私の行動で判断してくれたディアーシュ様だからだ。

 じわっと目に涙がたまりそうになる。


「おい……」


 ディアーシュ様が泣きそうな私を見て、少しうろたえた。


「泣くようなことじゃないだろう」


「泣いてません。目にゴミが入っただけです」


 まだ泣いてない。それに私が大人だとわかってる人の前で泣いたら、ますます子供のふりをして騙しているような気になりそうで。

 ぐっと唇をかみしめてうつむいていると、なぜか笑われた。


 感動して泣きそうになったところに笑われたので、ちょっとむっとした。

 おかげで涙は引っ込んだけど、顔を上げてみると、ディアーシュ様が珍しくも面白そうな表情をしているのが見える。


「意地をはるのは子供らしさが抜けていないってことだろう。それよりも、精霊をうまく倒す策はあるのか?」


 実務の話になったので、私も急いで意識を切り替えた。


「二つあるそうです。一つは、精霊が力尽きるまで待つ方法。ただ時間がかかりますし、その間も周辺の町や王都は寒くなり続けるでしょう」


「二つ目は?」


 待つわけにはいかないからか、ディアーシュ様は即もう一つの方法を尋ねた。


「錬金術で作った、精霊の魔力を削ぐアイテムを使います。ただその素材が希少で……」


 一応メモした内容を覚えてはいるけれど、けっこう難しい物ばかりだった。


「言ってみろ」


 ディアーシュ様がそう命じるので、私は品名を並べた。


「星の欠片、炎トカゲの心臓、地底の黒界石……。他は頂いている素材で間に合いますが、この三つがありません」


 これを揃えるには、かなり苦労する。

 星の欠片は、流星が降る山の高い場所へ行く必要がある。

 炎トカゲが棲むのは火山地帯か、年中暑い砂漠。

 地底の黒界石は、洞窟の奥に稀にあるという品だ。


 探す時間と、精霊が力尽きるまでなんとか耐えしのぐのを天秤にかけたら、どっこいどっこいという感じになるのではないだろうか?

 ディアーシュ様はどんな判断をするんだろう。

 そう思っていると、ディアーシュ様が「そうか」とうなずいた。


「炎トカゲの心臓。これは女王陛下が所蔵していらしたはずだ。地底の黒界石は魔術師ギルドで保管しているはず。魔力石供給を増やすことで差し出させられるだろう。魔力石がなければ、ギルド自体が機能しないも同然の状態だったんだからな」


 ディアーシュ様はニヤッと口の端を上げた。

 その笑みが、凄惨な雰囲気を感じさせて私はぞっとする。普通に「いいこと思いついた!」と思ったのかもしれないけど、表情が怖いのだ。


「星の欠片は今から取りに行く」


「えっ!?」


 今から?

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― 新着の感想 ―
>星の欠片は、流星が降る山の高い場所へ行く必要がある。  例えば地球の場合だと、流星が光る高度は120km~70kmで、高度70km~80km辺りで燃え尽きて消滅します。  火球と呼ばれる特に大きな…
[良い点] テンポも良くて面白い! [気になる点] 精霊について倒す発想しかないのが違和感すぎる。 大切な精霊のはずなのに、一度も傷ついた精霊を癒すとか、救うことについての発想や議論がなく、真っ先に倒…
[一言] こよいほっし~のカケラを探しにいこぉ♪
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