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とうとう露見したことは

 購入許可を出した後、ディアーシュ様の姿がないなと思っていたけど、怪我人を任せている間に外出着から替えて来たらしい。

 簡素なシャツと上着を羽織っているのが、腕に抱えられている私にもわかる。

 が、これは、ちょっと。


「ディアーシュ様、その」


 降ろしてほしいと頼みたい。

 だけど私、たぶん降ろされたら床に横たわることしかできない。なのでそれ以上どう言えばいいのか迷っていると、ディアーシュ様にきっぱりと言われた。


「子供一人運ぶくらいはたやすい。今日はもう休みなさい」


「はい……」


 子供扱いされると、逆にあきらめがついた。

 そのままディアーシュ様に運ばれる。

 子供なら、大人に寝床まで運ばれて寝かしつけられるのも、おかしなことではない。


(そもそも寝かされるのも、二度目……)


 前回は、不意打ちの魔法による寝落ちだった。でも完全に子ども扱いされていることが悔しい。

 幸い、怪我人の対応にメイド達が広間に集まっていて、私のこんな姿は少数の人しか見ていないのが救いかも。


 ふいにディアーシュ様が言った。


「すまなかった。こちらが限界を見極めるべきだった」


 誰もいない静かな廊下に、ディアーシュ様の声が響く。


「謝らないでください。私が治したいと思ってやったことです。誰かに強要されたわけではありません」


 なんだか湿った話になるのが嫌で、うそぶいてしまう。


「それに新しいアイテムを作ったら、その分お金が貯まりますし。身一つでこの国に来たんで、あればあるほど安心ですから」


「それは理解している。だが、それ以外にも問題があるんじゃないのか? お前には」


「え?」


 ディアーシュ様が足を速め、私の部屋の扉を開けた。

 なんで急ぐんだろう。

 不思議に思ったその時だった。


「……うくっ」


 しゃっくりをするような、そんな感覚だった。

 体を縮こまらせた瞬間、ディアーシュ様が慌てたように私をベッドに置く。


 その瞬間、視界が白くぼやけた。

 え、何? 私なにかおかしな病気にでもかかったの!?

 焦った次の瞬間、視界は元に戻ったけど。


「ディアーシュ様?」


 目の前のディアーシュ様が、珍しくも目を見開いていた。

 そして私の手を持ち上げたのだけど。


「!?」


 なんか、手が大きい?

 以前はディアーシュ様の手にすっぽりと握り込まれてしまっていたのに、今ははみ出す余地がある。

 なのに感覚が、自分の手だと伝えてくる。


 一体何が起こったのか。

 戸惑って周囲に視線をさまよわせた私は、覆いをかけ忘れた姿見を見て、心臓が跳ね上がりそうなほど驚いた。


「私、なんで、元の大きさに!?」


 寝台に寝転がっているのは、牢屋に入る囚人用の貫頭衣を着た私だった。それも、魔王の秘薬を飲む前、十七歳の姿だった頃の自分だ。


「やはりそうか……」


「やはり? え?」


 ディアーシュ様はなにか知ってるの? というかこの様子からすると、私がこうなるのを、一度は見たことがあったりするってこと?

 推測を、ディアーシュ様は肯定した。


「おそらく、魔力不足だとそうなるんだろう。以前も魔力が不足している時に姿が変わっていた」


 私、やっぱり前にもこんな状態になったの? いつ?

 聞こうと思ったけど、うまく口が動かない。

 体の熱が引いていくような感覚。ディアーシュ様に掴まれた手首だけが暖かい。


 意識が遠のいてしまいそう。でも眠れば、そのうち回復する……かな。

 なんて思っていたら、ふいにディアーシュ様が掴んだ私の手に自分の顔を寄せる。

 そして手首に口づけた。


「ディア……」


 驚いて手を引こうとしても、ディアーシュ様は逃がしてくれない。いつも通りの怜悧な横顔で彼は言った。


「時間がない。いつ戻るかわからん」


 動かない手首から、すっと温かな熱が通っていく。


(魔力を、供給してる?)


 そうとわかると、ディアーシュ様が何をしているのか理解できた。

 子供よりも、大人の方が魔力を多く吹き込むことができる。そして手を握り合って流すよりも、口からの方が量を増やせるのだ。


 緊急時の対応として、そういったものがあるのは知っていたけど。

 自分がそんな風にされると思わなかったせいなのか、私は、今の状態に恥ずかしさを感じていた。


(ディアーシュ様が、手首だけど口づけてる!)


 少し疲労の影があるディアーシュ様は、小さな光石の灯りの中でやけに艶っぽく見える。

 ディアーシュ様の視線がこちらに向く。

 その灰赤の目に、射抜かれたように思えて、息をのんだ。


「魔力を使いすぎだ。加減を間違えると死ぬぞ」


 死ぬほどではないと、思ったんです。

 答えたいけれど、少しずつ眠くなっていくようで、口の動きが重い。


「答えられないほどか。まだ足りないか?」


「もう……」


 たぶん大丈夫ですと伝えようとして、なんとか一言声にできた。

 手首から唇を離してくれた。


「なら休め」


 断ち切るように言って、ディアーシュ様はいつかのように私の目を手で覆ってしまう。

 ようやく、くすぐったさと暑さから逃れてほっとした私は、ゆるゆると意識を手放していく。

 今日は本当に疲れてしまった。


 なにもかも明日考えよう。

 暗闇に意識が落ちていくその瞬間、ふっと頬を撫でられた気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちいっ! 子供の服のまま戻っちゃって、身体のラインピッチピチ事件にはならなかったか……ッ!
[一言] もうディアーシュには少女ではなく嫁として映っている事だろう…(笑)
[良い点] ついにバレちゃいましたね! 公爵にとって今まで庇護対象の子供だったけど、これからどうなるかなぁ〜 [気になる点] 服はどうなってるの? 最初に子供になった時に丈も切って、その後着替えたよね…
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