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怪我の薬を作ります

 私はすぐさま外へ飛び出した。


 自分でも作ってみた『温石』を首から下げているので、夕暮れ時に近かったけど寒くはない。

 作業場の扉を開け、まずはたくさんの素材の中から使えそうなものを漁る。


「薬の材料になりそうなもの……」


 先日『暖石』の作り方を教えた後に、家令のオイゲンさんに頼んで仕入れてもらった物がいくらかあった。

 錬金術の薬は、魔物の傷によく効く。

 魔力石と『温石』を所持しての討伐が活発化するなら、次は薬が必要になるかもしれないと、素材を用意して研究しようとしていたのだ。


「石膏、蜜蝋……」


 普通の薬の材料の他に、鉱石や魔力を込めた水を使うのが錬金術流の薬の作り方だ。

 私は止血剤になる素材を選び、粉にしていく。


 今日は急がなければならないので、粉にする作業にも魔力を使った。

 粉砕の魔力図を描き、その上に素材を載せて魔力を流す。

 そうしてできた粉を合わせたりする。


 次は錬金盤の水の上に乗せ、魔力を流す。

 魔力図の作用によって、水に魔力図が転写されるように写りながら光り、消えてしまう。

 後に残ったのは透明な水だけだ。


 乾かした錬金盤の上にもう一枚の魔力図と粉の一部を載せて、これまた魔力を流す。

 緑灰色っぽかった粉が、綺麗な白になる。

 そこにさっき作った水を混ぜて、こねて完成だ。

 とろりとした黄色の傷薬ができる。


「まずはこれを……」


 適当な入れ物に入れて、私は出来上がった傷薬を持って本邸に走った。

 ある程度の処置や少しは身ぎれいにされたけが人は、近くの広間に簡易のベッドを運んで寝かせていた。


「アガサさん、薬を作って来ました! 使わせてください」


「ああ、ありがとうリズ」


 ぱっと笑みを浮かべたアガサさんが、私に目の前の患者の患部を見せてくれる。

 腹部の横が、ざっくりと大きく切れていて、傷口がふさがり切っていない。


「この薬を塗ります」


 蜂蜜色の薬を見せ、すでに消毒もされている傷口に塗る。塗る時にも、薄く魔力を使うのがポイントだ。

 他の人にも薬を塗っていくと、最初に薬を使った方から声が上がった。


「傷が……。消えてきてる!」


 血がにじむ傷口を、薬を塗った上から軽く布で押えていた人が、ふっと手を離したらしい。その時に布に薬が付着して傷口が見えたのだけど、そこにあった切り傷が薄くなっているのに気づいたようだ。

 周囲にいた人も、同じように確かめて喜び始める。


「まだ一時間は薬を塗ったままにしていてください!」


 注意をしつつ、私は難しい患者に向き合う。

 筋肉の奥までざっくりと切れていて、かなり強力な治癒魔法で状態を保っている人だ。

 さすがに体の内部までは私の管轄外だ。そこにいた専門の薬師に任せ……と思ったら、いたのはゴラールさんだった。


「お、嬢ちゃんか。これも錬金術の薬なのか?」


「はい。魔力を込めながら塗ると効果が上がります。いつもの調子でお願いできますか? 傷を塞ぐだけなので、内臓も筋肉も同じ要領で……」


「よしきた」


 返事一つでゴラールさんが実践してくれる。

 患者さんは痛み消しの煙薬をすわせた上で、薬を塗られていた。


「すぐ目が覚めますけど、痛がると思います。暴れるかもしれないので気を付けて……」


「もちろんだ。対応は任せて、お前さんは次へ行くといい……ああ」


 そこでゴラールさんが言い直した。


「次の患者の元へどうぞ、お師匠さん」


 私は目をまたたく。

 ゴラールさんに『お師匠』なんて呼ばれたのは初めてだ。初対面時に、そう呼ぶべきか聞かれたことはあったけど、お好きにしていいですよと言って以来、お嬢ちゃん呼びだったのに。


 私は怪我人を全部回り、深手を負った人にはさっきの患者の治療を済ませたゴラールさんを呼んで対応してもらいつつ、まずは傷を塞ぐことに成功した。


「他の治療薬を作って来ますので!」


 傷を塞いだら、今度は回復のための薬が必要になる。

 その薬はあるだろうけど、私は傷薬を使っていて懸念があった。


(効きが悪い……)


 予想よりも効果が薄いように思えたのだ。

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