突然の寒さに、新しい物を作ることにしました
翌日の朝も寒かった。
「暖炉に火を入れておくわ。南から来たリズには辛いでしょう」
と言って、ナディアさんが朝から暖炉に火を入れてくれる。
ありがたく暖炉前で温かさを味わっていたのだけど。
「なんか変だよね」
まだ暦は秋。
こんなにも急転直下で寒くなるものなのか。
「あら、暖炉に火を入れてくれたのね」
朝の支度の頃に部屋に入ってきたアガサさんが、暖炉を見て微笑む。
「本当にねぇ。どうしてこんなに急に寒くなったのかしら」
ほぅと困ったように息をついたアガサさんが、朝食は部屋でとるかと聞いてくれる。
「公爵閣下も異常ではないかと言って、周囲の状況を調べさせているの。そちらにかかるため、早々に朝は済ませていらっしゃるから、リズはゆっくり食事をしていいのよ」
気にしなくていいと言われ、「それでは……」と私は温かな部屋に食事を運んでもらった。
まるで絵にかいたような貴族令嬢の朝食だ。
異常事態のせいでこうなったと考えると、素直に喜べない。
「にしても、精霊が関わっているのかな」
急な気候の変化に精霊の関わりがあることは多い。例えば精霊を怒らせたとか。そういう逸話がたくさんある。
私が精霊と戦えるわけもないんだけど。
「……でも、爆弾とか作れたよね?」
錬金術は、素材を合わせて魔法の力により反応を起こし、別の物を作り出せる技術だ。普通の魔法を使うよりも少ない魔力で、薬も魔力石もたくさん作れる。
でも素材を手に入れるためには、自分で魔物を退けられるくらいの力が必要だ。
買ってばかりでは手に入れられない物もあるし、費用ばかりがかさむ。
なので自力採取のため、錬金術で攻撃用のアイテムを作るのは自然な流れだったんだろう。
錬金術の先生である薬師のおばあさんも、薬の材料を得るためにも、攻撃用アイテムが欲しくて錬金術を学んだらしい。
それを伝授してもらったので、私も爆弾は作れる。
「爆弾で精霊を倒せるのかが問題だけど。それを考えると、戦うのはディアーシュ様みたいな人に任せて、私は暖かくなるようなアイテムを考えた方がいいのかも」
問題が解決するまでのつなぎ。
あと、元からアインヴェイル王国は冬が寒いのだ。温かくなるアイテムはいくらあっても困らない。
「そもそも、薪とか切り出しに行くのも魔力石が必要だよね? そしたら薪も高くなるだろうし。やたら高価な薪を買うことになるのなら、暖房の足しになりそうなアイテムを作れば、食事用の薪だけでまかなえるようになるから家計に優しいかも」
公爵家ぐらいお金がある家なら、今年や来年は大丈夫だろうけど、市井の人は今年から薪の高さに泣き、寒さに震え、凍死しかねない。
想像して身震いした。怖い怖い。
薪よりも安価に売れるアイテムがあれば、それが一番だけど、作れるかな?
「んんー、火の性質を持つ石……赤い瑪瑙でいいかな。オイルも火の性質。火の魔力図を使うとして、どんな図がいいかな」
魔力図は元々知っている火の魔力図だけでいいんだろうか。魔王に習った知識を足して、もっと強力にした方がいいのか。強すぎて暑くなりすぎるのも考え物だし。でも大広間用ならそれでいいのかな?
「二通り作るとして、やっぱり意見が聞きたいな」
意見を聞く相手として想定しているのは、もちろん魔王様だ。
「でも魔王なのに、なんで錬金術に詳しいんだろ」
魔法でバーンズドーンと破壊したりするイメージがあるせいか、ちまちま実験している姿が思い浮かばない。あの猫姿ならなおさらだ。
「教えてくれるし、たくさん知識を持ってるし、有難いから別にいいか」
あっさりと断じて、私は着替えて作業場へ行くことにした。
魔王に会える夜までは、攻撃アイテムを作るのだ。
爆弾の材料。
これもまた火の力を持っている素材を合わせていくことになる。
私はディアーシュ様が入手してくれた素材を漁り、使えそうな物を選んで行く。
「赤瑪瑙は必須で、硫黄と、愚者の黄金、砂礫……」
全部はなかった。魔力石をメインに考えて、依頼したからだろう。
必要そうなのはまた後で頼むとして、今使えそうな物を取り出して、いざ作業へ移るとしましょうか。
二枚の紙に赤瑪瑙を混ぜた赤いインクで魔力図を描いて、錬金盤の上と、作業台の上に置く。
その後で素材の粉を作り、綺麗に混ぜ合わせた。
できた物を作業台の上に用意した紙の上に置き、粉をくるんで、水を使って丸く成形し、錬金盤の上に。
広げたままの二枚目の紙に、私は魔力を注ぐ。
じんわりと、赤いインクで描いた魔力図が熱を持ち、ふわっと炎を立ち昇らせたかと思うと、丸く成形した物を取り巻いた。
成形時の水分を飛ばしつつ、紙をしっかりと固める。
最後に用意していた瓶に砂利と一緒に出来上がった丸い爆弾の核を入れ、蓋を閉めて完成。
ほっとしたところで、背後から声をかけられた。