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公爵様に保護された私

 私は気絶した。


 波乱万丈を体験しすぎたせいだと思う。

 突然の牢屋行き、追放宣言、馬車で移送されて無言の圧力の中一日を過ごして、さらに逃亡。


 とどめに怪しい薬を飲んだ。

 体まで若返るという不思議な事態が起きて、精神も肉体も耐えられなくなったのではないかな。


 そんな私は、夢など見ないほど深く眠ってしまったらしい。

 気づくと、目を覚ましかけていることが自覚できた。


 瞼がすごく重く感じて、目を開けられない。

 そしてまだ眠くて、うとうとするのを続けていたら……人の声が聞こえた。


「目を覚ます様子は?」


 この声は覚えてる。アインヴェイル王国の冷酷公爵のものだ。


「先ほど身じろぎしていましたので、もう間もなくかと……」


 答える女性は誰だろう。

 口調からすると公爵の部下のような感じだから、メイドかな?


「怪我は、すりむいたものと、転んで打ち付けたらしい痣。ただそれ以外にも気になる傷が」


「なんだ?」


「手首と足に、こすれた痕が」


 ハッと息をのみそうになった。でもまだ体が眠っていたらしく、そうはならなかったけど。

 でも急速に目が覚めた。

 その傷はたぶん、手枷や足枷をされていた痕だろう。


(枷の痕のせいで、罪人だから殺してしまおうとか言われたら……)


 恐ろしくなってきた。震えそうだ。

 いや、足が少し震えてる気がする。

 だって相手は隣国の冷酷公爵。自国に後ろ足で砂をかけた聖女の親族で、しかも聖女がラーフェンに戻る理由になった私を見逃してくれるとは思えない。


 気づかないでくださいと、祈っている間も会話は続く。


「……理由はだいたい想像がつく。なんにせよ、目覚めたら聞き取りをする。食事などを終えたら知らせるように」


「かしこまりました、閣下」


 その会話の後、扉が閉じる音がした。


 ほっとする。

 とにかくすぐに殺されることはなさそう。

 物音がごそごそするので、残っている女性はたぶん準備とやらをし始めたのだと思う。


 そっと目を開ける。

 少し離れた場所で、いくつか鞄を置き、中に物を詰めている女性が見えた。さっき冷酷公爵と話していた人だろう。


 石積みの壁が剥き出しの室内の中、家具の類はそれほどない。広さも十歩で四隅にぶつかる程度。


(ただ寝具はそこそこ高級品……)


 寝具の下から、藁のガサガサとした感触や音がしない、なのに固くない。上掛けの毛布も手触りが良くて、ずっとくるまっていたくなる。


(どこだろう、ここ)


 あの近くだとしたら、アインヴェイル王国の国境の砦?

 考えていると、ぐーっと音が鳴った。


(ひぃっ!)


 私のお腹の音だ!

 馬車の中では、少しの水とパンを朝夕に一つずつしかもらわなかったから。

 それでも移動中は生きた心地がしなくて、食欲も全くわかなかったのに。眠ったから緊張がゆるんでしまったの?


 もちろん、女性も音に気づいた。

 ぱっと振り返った彼女は、30代ぐらいの女性だ。

 きりっとした眼鏡をかけた彼女は、茶の簡素なドレスを着て白いエプロンを見につけている。


「まぁまぁまぁ!」


 目が合った女性は、そう言いながら私の方に駆け寄った。


「目が覚めたのね。お腹がすいたの? ところで痛い所はない?」


「あ、え、えと……」


 どれから答えたらいいのか目を丸くしていると、「ああそうだわ」と彼女は自己紹介してくれた。


「わたくしはアガサというのよ、お嬢さん。お名前は?」


「はい、その、リズです」


 偽名が思いつかなくて、とっさに愛称を口にしてしまった。


「まぁ可愛いお名前ね。で、痛いところは?」


 今度は一つだけ質問してくれたので、答えやすかった。


「転んだせいで足とか、地面についた手とか……」


 そういえば山道で転がったので土まみれになってもおかしくなかったのに、見れば綺麗になっていた。服もぶかぶかだけど、綺麗なシュミーズワンピースになっている。

 たぶんアガサさんが替えてくれたんだ。


 アガサさんは、私が言った傷について確認し、それらは全て眠っている間に洗浄して薬を塗ったと教えてくれた。


「ありがとうございます」


「いえいえ」


 お礼を言うと、アガサさんはにこにこと微笑む。お堅い家庭教師みたいな顔立ちのアガサさんは、そうするととても柔らかな表情に見える。


「全てあなたを保護なさった、公爵閣下のご指示だから」


「公爵閣下……」


 やっぱり、あの青年はアインヴェイル王国の公爵閣下らしい。

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