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予想外の壁があった

「だめかもしれない」


 作業台に突っ伏して、私はうめいた。

 さっきは大丈夫だと思ったんだけど、陽が傾いてくると、てきめんに作業速度が落ちてしまう。


 曇ってしまうとさらに、生成速度が下がる。


「仕方ないよねぇ。だって太陽の光が必要だもんねぇ」


 そもそもの魔力石というものが、太陽の光と月の光、大地の力をじわじわと何十年もかけてためてできるものだ。

 そんなわけで、強い魔力石を作ろうと思えば、ここに月の光を溜め込んだ鉱石や素材を追加して作るのだけど。


 アインヴェイル王国で今必要とされているのは、それなりの量の魔力を貯めた魔力石を、素早くたくさん作れること。

 だから一番簡素でありながら、早くできる手段を取ったのだけど。


 太陽の光だけはいかんともし難い。

 空を快晴にするだなんて、竜みたいなとんでもない強い魔物か、大魔法が必要になってしまう。

 それでもラーフェンにいた頃は、ある程度作れていたはずなんだけど。


「やっぱり精霊か……」


 精霊がいなくなって、空間魔力量が落ちてしまったアインヴェイル王国。

 待機中の魔力をも取り込んで作られる魔力石には、そこもネックになってしまったみたいだ。


 おかげで生成時間が長くなること長くなること。

 今の時間は、ディアーシュ様に見せた時の三倍もかかってる。


「これは……宣言した通りの数が揃えられないかもしれない」


 私は焦りながら、同時進行で下準備を進めることにした。

 陽の光が弱いうちには、インクや紙や水晶への下書きをしておいて、太陽の光が強くなったところで、一気に仕上げるという方法だ。


 水盤も、もう少し数が欲しいところ。


「でも三つが限度かな……」


 並べればいいというものでもない。生成するために、少しではあるけれど私の魔力を使うのだ。

 一気に減ったらさすがに倒れてしまう。

 またしてもディアーシュ様に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。


 迷いつつ、水盤が予備でもう一つあったのでそれを錬金盤にし、明日のためのインクをいくつか作って水晶への書き込みを続けていると、とうとう陽が落ちてしまった。

 呼びに来てくれたナディアさんと一緒に、ひとまず部屋に戻ることにした。


 その日の夕食も、綺麗な灰色と赤のドレスを着せてもらい、ディアーシュ様とお食事会となった。


(誰か、他に参加してくれないかな……)


 無理なことを考えつつ、もそもそとご飯を口に運ぶ。

 料理はおいしい。

 柔らかいお肉に、赤いグレービーソースの酸味と甘みがほどよく、パンを口に運ぶ手が止まらない。


 マッシュポテトの味付けも、ほんのりと甘くクリーミーでとても私好み。

 あっさりとしたスープは飴色でコクがあり、飲んでいるとすぐなくなりそう。

 デザートのアップルパイは入らないかもと思うけど、これが不思議とすいっといってしまう。


(私、太るかもしれない)


 神殿生活をしていた頃より、明らかに食べている。

 子供に戻ったとはいえ、私、あんまり動き回っていないから、栄養が全部お肉になってしまうのではないかしら?


 心配にはなるけれど、ご飯のおいしさのおかげで、気まずいながらも食べられないということがない。

 ふっと食べることに集中してしまって、気まずさを忘れる瞬間さえあるのだ。


 公爵家の料理人は、恐ろしくも素晴らしい人だ。

 まぁ、我に返ると終わりなんだけど。


 ディアーシュ様はとてもお行儀よく、綺麗に召し上がられる。

 その年齢の男性らしく、量はけっこう多い。

 たぶん毎日のように剣の練習もしているんだろうし、お腹がすくんだろう。


 なんて思いながら見ていたら、視線に気づいたディアーシュ様に言われる。


「どうした。足りないか?」


「いえいえ! 十分です!」


 これ以上はお腹がきつくて入らないし、必死で首を横に振った。


「魔力石の作成の方はどうだ」


「ええと、なんとかやっております」


 私は作り笑いを浮かべて答えた。

 お世辞にも順調とは言えない。今すぐ、伝えていた予定個数を変更するべきか……と思っているぐらいだ。

 でもどうしよう。失望されたくない。


(ただ失望されるだけならいいんだけど、ディアーシュ様の場合は、今後ずっと冷たい目で見られそうで……)


 捨てられなくても、怖い。

 笑いかけなくてもいいから、柔らかい表情ぐらいはしてくれるようになるかも。

 そうしたら今よりは緊張せずに食事ができるようになるかも……というささやかな願いは、未来永劫消えるだろう。


 公爵家の料理人の素晴らしい食事がついている時でなければ、胃の痛い思いと、後からくる空腹で涙することになる。

 そんな私に、驚くほど優しい言葉がかけられた。


「無理はしないように。先日倒れたばかりだろう。それに魔法がうまく使えないのなら、魔力を操作するような技術は全て影響を受けるはずだ。何か異常があれば報告するように」


 私は目を見開いた。

 ディアーシュ様って遠くの物事も把握できちゃったりするの?

 千里眼なの?


 びっくりしたけれど、その言葉を逃す手はない。


「あ……実はこの国の漂う魔力の量が少ないようで、普段よりも時間がかかってしまうみたいで……」


 言い訳のような言葉なので、口にするのも後ろめたい。でもディアーシュ様は気にされないようで。


「分かった。とりあえず一週間後に、できただけの量でいい」


「はい、ありがとうございます」


 私は深くお辞儀をしながら、 彼のあだ名についてふと思う。

 冷酷っていうのは、戦場で有能な指揮官だったからだけなのかもしれない。

 もしかすると戦績をやっかんで、冷酷公爵と言われた可能性もあるかな、と。

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