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工房ができました

 作業ができる工房の場所は、食事中にナディアさんが確認してきて、私を案内してくれた。


 あの銀色の塔から少し離れた場所、南東側の庭園に接する場所にあった四角い離れだった。


「この中に、工房を作ってくれたんですか?」


「いえ、この離れそのものが、リズさんの使っていい場所だと聞いたわ」


「全部!?」


 私は目を丸くする。

 小さいながらも、一つの別棟が割り当てられたのだ。


 これはまさか、大貴族だからこその大盤振る舞いというやつ? 下級貴族である私の生家の基準でいくと、部屋一つか二つが限界だったから、油断してた……。


 家一軒をどうやって使ったらいいんだろう?

 戸惑いながらもナディアさんと一緒に中に入る。


 別棟自体は、それほど大きなものではなかった。

 二階建ての四角いレンガ作りの建物で、元は使用人部屋として使っていたものを、後に倉庫にしていたらしい。


 今回は残っていた荷物を運び出して掃除しただけらしいけど、急なことだったのに綺麗に掃き清められ、水拭きされているのがわかった。

 作業台らしい大きな机や倉庫として使っていた頃のものだろう、作り付けの棚もある。


「理想的だけど……広すぎ?」


 ニ十歩も歩かないと、角から角へたどり着けない。

 部屋の中でちまちまと作っていくことを想像していた私にとっては、想定外の広さだった。


 作業部屋の隣には、簡素なソファーやテーブルを置いた居間ような場所がある。他にちょっとした台所。

 ここは休憩場所に使えそう。

 どうしても長時間かかる調合だと、一時間ごとに様子を見る必要もあって、いちいち部屋に戻るわけにもいかないし、少しは休みたいものね。


(まぁ、作業する机に突っ伏して眠ってもいいんだけど。なんかこの公爵邸でそれやったら怒られそうだし)


 でも二階はどうやって使ったらいいのか。

 作業の締め切りか何かで追われている時に、部屋に戻る気力がないとき用の休む部屋?


 もっと驚いたのは、広い作業部屋の片面に積み重ねられた箱。

 これ全部、私がリストに書いた品だという。

 一個箱を開けてみてすぐに閉じた。


「ちょっ、ありすぎ……」


 お願いした量の、十倍ぐらい入っている。こんなに生産させる気なのかな。


(でも考えてみれば、アインヴェイル王国では錬金術か知られていないところを見ると、私みたいに魔力石を作ることができる人はそういない。ということは、みんなが安全に魔物狩りを出来るように魔力石を作ろうとしたら、この量では足りないぐらい作る必要がある)


 ディアーシュ様は、それを想定して発注した、とか?


「多くて困ることはない……かな? 置き場所もいっぱいあるし」


 これだけ箱が積まれていてもまだ余裕があるんだし。そもそもここ、使用人がベッドを並べて十人ぐらいは余裕で眠れる広さだもんね。


 それじゃ、さっそく何か作ろうかな。

 必要な器具も作成しないといけないし。なんて考えて、箱の中を漁り出すと、ナディアさんが言った。


「そうそう、何か作る時には、自分を呼ぶようにと公爵閣下が言っていたわ」


「え?」


「ご覧になりたいってことだったけど」


 ふーん?

 錬金術を自分の目でも見てみたいとか?

 見知らぬ技術に興味があるんだと思う。私も最初錬金術に興味がわいたのもそういうところだったし。


「そうしたら準備をしているので、お時間があればということで呼んでもらえますか?」


「わかったわ」


 ナディアさんは公爵邸の方へ向かった。

 私はその間にも待つつもりはなく、必要なものを作る作業に移る。

 なにせこのままでは、アイテムを作るところを見せることもできない。


「事前準備まで見せてたら、さすがに日が暮れるし、ディアーシュ様もそんなに長くは見ていられないでしょ」


 あんまり長々とかかると、むしろ怒られそうで怖い。

 だから下準備をしておいて、魔力石作成の部分だけ見せるつもりだ。

 急に呼ばれてもすぐには来られないだろうからと、私は箱を色々開けて見つけ出した、翡翠。


 大地とつながる石。

 探し出した紙に土と内向きの力を表す魔法図を描いて、器の上に置き、その上に翡翠を乗せた。


「実行」


 一言告げると、翡翠はもろくも崩れた。

 粉になった翡翠を横に置き、これまた頼んでおいた緑のインクを出して混ぜる。

 次に金色の鉱物を取り出し、同じように粉にしてインクを作った。

 また紙を出して、何枚かに別の魔力図を描き、また箱を漁った。


「あった」


 ぎゅっと両腕で抱きしめられるぐらいの、円形の大きな鉄の水盤だ。


「どこで使ってたんだろうこれ……」


 公爵邸にあったのかな?

 使っていたものとは思えない綺麗さだ。装飾をして、錫か何かで表面を覆う加工をする前の物を、探してもらってきたんだろうか。


「ありがたい……」


 昔、錬金術の勉強を始めた頃は、鉄鍋を使っていたぐらいだ。

 錬金術盤は自分である程度作って育てていくとはいえ、鉄鍋はほんとうにやりにくかった。

 先生には水盤が形としては一番いいと言われていたので、そうしたかったのだけど、こっそり習っていたこともあって、なかなかね……。


 昔の苦労を思い出しながら、水盤の表面と中身に紙を張り付けていく。

 そして石床の上で、火をつけようとしたんだけど。


「やっぱり離れてると無理みたい」


 ろうそくの火を灯すぐらいのことは、私もできる。ラーフェン王国にいた頃は、離れていても大丈夫だったんだけど、精霊が去ったアインヴェイル王国内ではだめなようだ。


 私は水盤の紙に触れて、一枚一枚燃やす。

 紙は綺麗に燃えきって、灰すら残さなかった。

 代わりに水盤の表面に、金色の図が無数に刻まれていた。これで錬金盤ができた。

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