不思議な塔とお昼ごはん
「錫かな……」
つい分析してしまう。
銀でこれを作るのは、とてつもなくお金がかかる。そして酸化して黒ずみやすい。だけど艶がないとはいえ綺麗な銀色だから、そう思ったのだけど……。
「なんだろうこれ」
見たことがないものに興味津々で、思わずじっと見つめていた。
それとナディアさんが答えてくれる。
「魔王の物を封印しているそうなの」
「魔王の?」
なぜ公爵家が魔王のものを封印しているんだろう?
こういうのって神殿とか、王家でどうにかするようなものじゃないのかな。
ラーフェン王国だと王宮にそういうものがあった気がする。けど銀色の塔とかじゃなかった。宝物庫に普通に置いてあると聞いていた。
例えば私がサリアン殿下から頂いた魔王の秘薬みたいに。
「どうして公爵家にあるんですか?」
「昔から……としかわからないわ。私もそんなに長くここに勤めているわけではないから、人から聞いた分しか知らないのよ」
さすがに古いものだったようで、ナディアさんも由来は知らないらしい。
「ただ中には入ってはいけないと言われているわ。魔王の魔力の影響で、体を壊したりすることもあるらしいから」
「そんなに恐ろしいものなんですか……確かに、魔力が強いですね」
簡単な魔法陣を目の高さに指先で書いて見ると、銀の塔から青白い魔力が立ち昇るのが視界に映る。
こんな塔はそうそうない。
中に相当魔力の強い物が納まっているんだろうな。
「そういうことがわかるの?」
「ちょっとしたコツがあるんです」
私は笑って言う。錬金術に必要な品を見分けるのに、この技術は必須なのだ。
「すごいわねぇ。小さな子に公爵閣下が仕事を依頼すると聞いて、ものすごくびっくりしたんだけど、そういうことができるなら納得だわ」
ナディアさんが褒めてくれて、なんだか照れてしまう。
とりあえず、私達は塔から離れた。
そのままぐるっと公爵邸を一周すると、ちょうどお昼を少し過ぎた頃になった。
お腹はそれほど空いていないのだけど、ここで休憩がてら軽く食べておくことにした。
変な時間にお昼ご飯をお願いすると、料理人たちが休めなくなるもの。迷惑をかけたくはない。
パンとサラダにソーセージ、温かいスープとケーキという昼食を食べていると、ふいにディアーシュ様が現れた。
来ると思うなかった私は、慌てて立ち上がって挨拶した。
「あの、ごきげんようディアーシュ様。朝は眠っていてすみません」
来ていたのに寝こけていたことを謝ったら、「気にするな」と短い言葉が返ってくる。
「それよりも体調は?」
聞きながら、ディアーシュ様は私の頭に触れる。
ポンと手を置いて、その手はおでこに移動。どうやら熱を測っているらしいのだけど。
思わず縮こまってしまいそうなのを、意思の力で耐える。
「特に悪い所はありません。ゆっくり眠ったので、とても元気に過ごしています」
「そうか」
平熱だったことで納得したのか、ディアーシュ様の手はあっさりと離れた。
……なんか緊張するな。
冷酷公爵と呼ばれていても、のべつまくなしに誰かを殺して回るわけではないのに、叱られそうで怖いなと思うのは、あまり会話をしたことがないせいかな。
しんと静まり返った昨日の夕食のことを思い出すと、なんだか胃が重たい。
正直、早く立ち去ってくれると嬉しかったのだけど、ディアーシュ様は扉へ向かって歩きかけたのに立ち止まった。
「そうだ。お前が錬金術用の部屋が欲しいというので、用意させている。昼には準備が終わると聞いた。荷物も届いているらしい。後で確認するように」
「え、はい!」
思わず大きな声で返事したものの、ディアーシュ様が消えた扉を凝視して、私はしばらく呆然としていた。
もう届いたってどういうこと?
早すぎるような……。