表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/109

間―ラーフェンの新しい聖女

「聖女アリア様、こちらのお菓子などいかがですか?」


「私は珍しい花をお持ちしましたの。氷の花と言われていて……」


 わたしの周りを、何人もの貴族令嬢が囲んでいた。

 誰もが聖女であるわたしの機嫌をとろうとしていたけど、その下心はわかっている。


 ――聖女に取り入って気に入られれば、自分の家の領地を豊かにしてもらえる。他の領地よりも。

 そうしたら莫大な富を得られるのだ。


 でも、わたしは機嫌よく応じてやる気はないわ。

 今のわたしには、誰も逆らえないほどの権力があるのだもの。


「お菓子はもういいわ。あなたそんなものをわたしに勧めて、太らせて醜くしようというの?」


「もう秋だというのに、氷の花を持ってくるなんて、センスのない人ね」


 全てのものに文句をつけると、貴族令嬢たちは鼻白んだ顔になる。

 そのまま悪魔のような顔になりかけたけれど、慌てて平静を装った。

 笑顔で「申し訳ございませんでした聖女様」と答え、しおしおと沈んだような顔をして、彼女達は部屋を出て行く。


「ふん」


 わかっているのよ。

 部屋の扉が閉じたとたん、一斉に文句を言うのは。

 精霊に命じると、すぐ近くの声なら聞き取れるようになるもの。


「なんなのあの人! こちらが下手に出ていればつけあがって」


「駆け落ちをしたような、ふしだらな人なのに!」


「そんな人が聖女でいいの!?」


「どうやって精霊を誘惑しているんだか……」


 アリアの悪口を言いつつ、彼女達はそれを聞かれているとも知らずに去っていく。


「あの人達は始末しましょう」


 元々、さして地位の高くない家の出身だったわたしのことを、見下していたのよ。

 今もあの時のまま、自分達が優位に立てる隙があると勘違いして、昔なじみだと言って接触してきただけだもの。


 後で王子にあの人達の名前を言って、領地を取り上げなければ精霊をそこから遠ざけると言わなくちゃ。


(本当は精霊を使って殺してしまいたいけど……)


 それが王子達にバレてしまうと、わたしのイメージが壊れる。

 わたしはか弱い姫でいたいのだ。

 そんなことを考えていたら、扉がノックされて、第一王子が入ってきた。


「まぁ王子殿下いらっしゃい! どうなさったの?」


 この王子は一番のお気に入りだ。

 金色の美しい色の髪に、甘い顔立ちがとても気に入っている。

 自分の側にいて、自分を賛美するのにふさわしい人だから。


「姫、静かな時間を邪魔して申し訳ない」


 わたしのことを「姫」と呼んでくれるところも好きだ。聖女と言われるよりもいい。彼にそう呼ばれると、彼と結婚してもいいかなと思える。


「あなたのことをいじめていた、あのニセ聖女について報告があってね」


「ああ……」


 シェリーズ。

 わたしが愛人の子として後ろ指を指されている間も、幸せに生きていた女。

 使用人扱いをしても、まだイライラが収まらなかった。そのうちに運悪くわたしが聖女に選ばれてしまって、逃げるしかなくなったのだけど。


 代わりの聖女になってからも、平然としていたというのだから腹立たしい。

 最初からシェリーズが選ばれていれば、わたしはこんな苦労をしなくて済んだのに。


 苦々しい気持ちが湧くけれど……王子はきっと、彼女が死んだという報告をしに来てくれたはずだ。

 みじめったらしい死に方を聞いて、溜飲を下げよう。


「それで、どうなったのですか?」


「ニセ聖女は、国境近くで馬車から逃亡したのですが……運が良かったのか、隣国の国境の向こうへ侵入できてしまったようです」


「え!? じゃあ逃げきってしまったの?」


 思わず立ち上がったわたしに、王子は「いえいえ」と首を振る。


「死体というか、残骸は見つけました。血だらけの囚人服があり……。ただ、死体は山の魔物に食われたのか、跡形もなかったのです。そして護送していた兵士達の遺体がみつかりました」


「どういうことですか?」


 シェリーズが死んだのに、兵士まで?

 首をかしげたら、王子が教えてくれた。


「おそらく、国境を越えてしまったので、アインヴェイル王国の人間に殺されたのです。兵士が戻ってこないため確認に行った者が、アインヴェイル王国のクラージュ公爵の姿を見たと言っていたので、有無を言わさず抹殺されたのだろうと」


「冷酷公爵のことね」


 個人名はなんと言ったか忘れたが、灰色の結んだ長い髪と灰赤の瞳のことは覚えている。


「あの男……許せないわ」


 アインヴェイル王国にいた時、綺麗な男だったから側に侍ってもいいと許可してやったのだ。

 しかしあの男はわたしの美貌に感心するでもなく、置物を見るような目を向けた。

 あげくアリアが下手に出て行ったというのに、伸ばそうとした手を払い、アリアに剣先を向けたのだ。


 あまつさえ「聖女ならもう少し身を律するのだな」などと言い捨てた時の、あの灰赤の目の冷たさ。


 屈辱だった。

 あの公爵から爵位を取り上げてと言っても、一切うなずかないアインヴェイル王家とか、逆にわたしが悪いと言う神殿の人間達に怒ったり、神殿の人間を入れ替えさせたりしているうちに、いつの間にかあの国全体が憎くなって、まぎれていたけれど……。


「今度こそ後悔させてやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
興味深く拝見させていただいています。 転生で子供ではなく、薬で子供に変身というのが新鮮です。 ただそこに腰をぐりぐりさせた下品なゲームの宣伝が表示されるのでガッカリです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ