公爵閣下のお求めは2
魔力石のことだったら、納得できるのだ。
(魔法がうまく使えないって聞いたし、それは精霊がいなくて魔力が足りないからで……。それなら補填のために欲しがるかなって、作っている時にちょっと想像してたんだけど)
薬については想定外だった。
「薬で……いいんですか?」
驚きすぎて、つい正直に聞いてしまう。
公爵様は、むしろ不思議そうに首をかしげた。無表情のまま。
「魔力石を……という話もあったが、作ると倒れてしまうんだろう? 子供のうちからそんなにバタバタ倒れていれば、大人になる前に死んでしまうかもしれない。だから薬の方で良い」
私はぽかんと口を開けてしまう。
え、私のことを心配して、魔力石を買いたいと言わなかっただけなの?
公爵様の口ぶりからすると、おそらく私の作った魔力石について、何人かで話し合いをしたんだと思う。
その結果、錬金術師なんだろうという推測をして、だけど魔力石は私が死んでしまう可能性があるから辞めよう、という結論を出したらしい。
そしてこの話し合いに、アガサさんやカイのような人が参加したのだろうなと推測できた。二人とも、私が子供の姿をしているから、とても気の毒がってくれていた……申し訳ないほどに。
でも三人だけで話して決めたわけじゃないだろう。
だとしたら、他にも同意してくれる人が多かった、というわけで。
(なんか、こう、アインヴェイル王国の人っていい人ばかりでは?)
ラーフェン王国で同じように魔法がうまく使えなくなったとして、私のように魔力石が作れる錬金術師と会った時に、こんな配慮をしてくれる貴族がいる気がしない。
限界までこき使った上で、死んだ後で誰も作れなくなったことに気付いて、大慌てしそう。
……完璧に後継まで手配されて、無理やり教えさせられて、用無しになったら殺されるのも嫌だけど。
アリアの要望に対して、私を見捨てて生贄にした一件でラーフェン王国の人間を恨んでいるせいか、そんな想像しかできない。
だからこそ公爵様の話はとても意外で、思わず正直に言ってしまった。
「あれは緊急時だったからで、普通の作り方をすれば、私が死ぬような状態にはならないです」
「何!?」
公爵様の表情が変わった。
眉と目がつり上り、一見怒っているのかと思うような顔で、バンとテーブルに手をついて私の方に迫ってくる。
「安全に作れるというのか!?」
「ははははい、もちろんそんなに沢山は作れないかもしれないですけど」
思わず身を引き、驚きすぎてどもってしまったけれど、私はうなずいた。
「そして私達に譲ってくれると?」
「もちろんです」
私は即答した。
本当なら、値段の交渉とかしてからうなずくべきなんだろうって思う。
でも私、公爵様達が望むのなら協力したいと思ってしまっている。
殺されそうになったところを助けてくれたし、その後も衣食住の面倒を見てくれている。何より平民の子供なんて……という感じで、利用して使い潰そうと言う気持ちが全くないことが分かるから。
子供に対して、真摯に買取の交渉をしてくれる公爵閣下だ。
こんなにいい人って、そういない。
なにより自分のことを考えて、生産量を少なめに言ったとしても、公爵閣下はその通りにしてくれるだろう。私の言ったことを信じて。
(取引相手が信頼できる人で、貴族だというのも、◎だよね)
今後もアインヴェイル王国で暮らしていくとしても、後ろ盾としてこの上なく素晴らしい相手だ。
「そうか……魔力石も、ある程度は作れるのか……」
公爵様はしばらく考え込む。
もしかして、私にどれくらいの量が作れるのか、どれくらい作らせようとか考えているのかな?
立場が上の人にあれこれこちらから質問することもできないので、私は食後のお茶を飲みながら、公爵様の考えがまとまるのを待った。
その時間は、約10分ほどだっただろうか。
「まず聞きたい。現状では、安全にあの魔力石を作ることができるのか?」
「それは無理です。材料がないので……。あれはとっさに粗悪な代用品と私の血と魔力を使って作ったものなのです」
超緊急的措置だったのだ。
「なるほどな。自分の魔力を使ったのだったら、そうなってもおかしくはない」
公爵様は納得したようにうなずいた。
「薬の方はどうなのだ?」
「そちらも、必要な薬草や鉱石が手に入ればいいのですが……」
「材料が多そうだな?」
私が言葉を濁したので、調達すべき材料が多すぎて、遠慮していると思ったのだろう。
「器材も少々特殊で。材料があれば揃えられますが、この町ですぐというのは無理だと思います」
安易に何でもできると言うのは、避けた方が良いと考えて、私は正直に話した。そうしても、この公爵様が起こらないと確信できたからでもある。
公爵様は真面目に聞いてくれて、内容を吟味して答えを返してくれた。
「私としては、今回のようなことがある場合に備えて、お前が魔力石をある程度作ってくれるようになるとありがたいと思っている。他でこのような技術を持っている者を私が知らないので、お前に頼みたい」
おおおお、と心の中で私は感嘆の声を上げていた。
公爵様から『お前に頼みたい』と言われる日が来るだなんて。
錬金術師が蔑まれる職業だと思っていたので、なおさらびっくりした。