SS みんな気になる錬金術
コミック1巻発売で嬉しいので、SS書きました!
1巻あたりの、公爵家でリズが暮らすようになったばかりの頃のお話です
「ねぇねぇ、どうだった?」
バスケットを抱えて本館に戻ったナディアは、二人のメイドに声をかけられる。
階段の掃除をしていたようだったが、中断してナディアの元へ駆け寄ってきたのだ。
「どうだったっていうと?」
「あの子のほら、なんていったっけ?」
「なんか作るんでしょ? 魔力石!」
ナディアと近い年齢の彼女達は、どうやらリズの技術に興味があるらしい。
目をきらきらさせて尋ねてくる。
(魔法を使えなくなったせいで、困ったことばかり起きているんだから、当然よね)
ナディアは納得する。
「どんな風に作るの? ていうか作れるのね、あれ」
「そうみたい。私も初めて知ったわ」
ナディアの答えは本心からのものだ。
魔力石というのは、人の手で作れるようなものではない。
だからこそ貴重で、有限。
どんなに今困ることが多くなっていても、魔物を退治する騎士達に優先して支給されるのは、そうでなければ死人が増えるからだ。
そして支給される数も少ないから……彼らがどんなに努力しても、彼ら自身も、そして守ろうとした市民も命を失うことが多い。
それでもないよりはいいから、少ないそれを大事に使いながら、魔物を倒す側に回った者達は足りない分を自分の命で代用する。
だけど、もし作れたら……?
希望を胸に迎えたのは、小さな幼い子どもだったけど、それでも藁にすがるような思いで、みんなリズを見ていたのだ。
年齢なんて関係ない。
少しでもこの国を救う力になってくれるのなら、それでいい。
ただ、一体どうやって魔力石を作るのかは、全くわからなかった。
これが老いた知識豊富そうな魔術師などが来たなら、魔法でどうにかするのだろうと思うのだが。
そうして頼まれた材料は、宝飾品を作る工房かと思うような品が多かった。
一体どうやってここから魔力石を作るのかと思ったが……。
今日初めて目にしたナディアは、ふふっと笑う。
「なんだか、魔法みたいだったわ」
感想を聞いたメイドたちは、顔を見合わせる。
「魔法を使うための魔力石を作るのに、魔法を使うの?」
不思議に思うのも無理はなかった。ナディアも理由を全て知っているわけではない。
ただ、魔法の一環なのだろうなと感じただけ。
一度も見たことがないし、どうやっているのか全くわからないところが、自分が小さい頃に初めて大きな魔法を見た時の感動に似ていた。
「ほんのちょっとは魔力を使うらしいの。たぶん、暖炉に火をつけるぐらい」
「それで魔力石ができるなら、本当にすごいわね」
ようやく想像ができるようになったのか、メイドたちは納得した顔になった。
「いっぱい作れないんだろうけど、これで王都ぐらいは魔物から守れるようになるかしらね?」
「そうだといいな……」
メイドたちはこれからのことに思いをはせ始める。
ナディアもそれにうなずきながら思う。
リズがもう少し早くこの国に来てくれたなら、というない物ねだりをしそうになる。
それは、何もできなかった自分自身への憤りがまだ心にあるからだろう。
リズを守り協力することで、何もできなかったナディアも、今度は誰かを守る一助にはなれる。
亡くした人は戻っては来ないけど、残された人を守ることができるのなら。
そのためにもリズが体調を崩さないように気をつけたり、成長のためにも栄養をつけさせることをがんばろう、と思ったナディアだった。