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心を無にしろ!

「精霊の力だ。馬車の速度を上げることもできる。ゆっくりと進まなければならない悪路を跳び越すなど精霊なら可能だし、不思議ではない。だから急いで作り、少しでも早く魔王の力を操って、あの女の権限を奪う必要がある」


 それからレド様は付け足した。


「そしてエセ聖女が追い付いたとしても、もう一度魔王が同じことをしないようにもするべきだろうな」


「あ……そうですね」


 あのアリアでも、精霊の力を使えば難なく山を登って火口へ来られる。空を飛んで降り立つぐらいのことは可能だろう。

 その時、一瞬の支配でアリアの能力を奪ったとしても、魔王がもう一度同じことをする可能性は高い。

 そうしたら、ディアーシュ様を器にするという願いが叶うから。


「……魔王は身動きしにくいから新しい器がほしい。魔王の今の器となっている人も、器にはなりたくなかったのだからすぐに開放されたい……。二人とも、ディアーシュ様を器にするということについては意見が一致しているんですね」


「そういうことだ」


 急がなければならないという意味を理解した私は、急いでこの場での錬金術調合を始めた。

 幸い、採取した物と、念のため持ってきていた物を使えば調合は可能だった。

 一番難しかったのは……。


「心を無にしろ!」


「言われるとよけいに無にできません!」


 私はなるべく小声で悲鳴を上げる。

 調合中は何も考えるなと言われたけど、人間にそれは難しい。

 そして注意されるほど何かを考えてしまう。

 何回かの講義と叱責の後、さすがにレド様も難しいと理解してくれたようだ。


「くっ……人であるからこそか?」


 腕を組んで、机の上をうろうろと猫型生物の姿で歩き回ったレド様は、ふと何かを思いついたように顔を上げた後、調合に加えていた例の青い石に触れる。

 しばし黙り込んだ後、私に次の指示をくれた。


「今度は、守りたい者のことを考えて作るといい。おそらくその方がお前は上手くいくだろう」


「わかりました」


 どういう違いがあるのかはさっぱりだけど、一刻を争うので素直に従った。

 そうして出来上がったのは……。


「砂?」


 青い色をした砂が二袋。

 二つあるのは、万が一攻撃などで一袋分を奪われたり、使えなくなった時のためだ。

 だからもう一袋は懐に隠しておくように言われる。


「残りの一袋は、風の魔法を使って飛散させるのだ」


「魔王に向かって、ですか?」


「うむ」


 レド様がうなずく。


「それで、公爵が炎の魔王を一時的に操る助けになるはずだ。基本的には相手の魔力を操りにくくするため、吾輩の魔力を混ぜている。他の魔王の魔力でもなければ、あやつの魔力を阻害することが難しいからな。しかしもう一つ効果がある」


 もったいぶったようにひと呼吸おいてから、レド様は告げた。


「時間を錯覚させて動きを鈍らせ、炎の魔王の思考をそらす効果がある。意識が向かない方が、間違いなく操りやすいはずだ。だが、万が一という場合もある」


 万が一……。上手くこのアイテムが効かない時。そしてディアーシュ様が魔王を一時的にでも支配できなかった場合。

 色々な状況を想像して奥歯をかみしめた私に、レド様は優しい声で言ってくれる。


「ギリギリのことになるかもしれないが、吾輩も助けはする。だからなるべく夜に行動しろ。より吾輩の力が及ぶ時間なら、アイテムの効果も強くなる」


「はい!」


 私は大きくうなずいた。

 レド様が助けてくれる。それだけで勇気がでてきた。

 少し安心したことで、どっと疲れを感じる。

 夜通しの調合で時間がかかったせいか、窓の外が白み始めていた。


「そういえば、魔力……」


 だいぶん使ってしまって、だるい。以前はこうなると、元の姿に戻ってしまうと焦ったものだけど、今は元の姿のままだから心配はしなくていい。


「そういえば、どうして私、姿が子供に戻らないんでしょう?」


 聞こうと思っていた疑問を、レド様に向けた。


「ああ、公爵の魔力をお前が多くもらったからだろう。魔王の器の魔力は魔王に匹敵するから、それで薬の魔力が阻害されているんだ。魔力がなくなれば、元に戻ると思うが……秘薬の効果が切れていなければ、だが」


「なるほど」


 強い魔力の持ち主の魔力は、それ自体が何か異質なのかもしれない。

 だからこそ魔王の器として選ばれてしまうのか。

 とにかく姿のことは置いておこう。

 どうせアリアが来てしまうのだし、たぶん本当に私が別人だったとしても、アリアは自分の考えに固執して変えるわけもない。


「ありがとうございました」


 私は知恵をくれて、調合も手伝ってくれたレド様に感謝する。

 レド様はニヤっと笑い、「またな」と言って瓶に消えて行った。



 そしてひと眠りした後、お昼に私はディアーシュ様に言った。


「助けになりそうなアイテムができました! それに精霊の力を使って、アリアが明後日にはここへ着いてしまうかもしれません。早く魔王をあやつって力を奪いましょう!」


 先手必勝を提案し、早い出発を提案した。

 私からアイテムの説明を聞き、ディアーシュ様もうなずく。


「今日のうちに山へ向かう。明日の夜、魔王にもう一度襲撃をかけるために」


 決定を受け、みんなが行動を始めた。

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