第⑦話
立花さん!と、わたしを呼ぶ声が聞こえ、足を止めた。
仕事が終わり家へと帰る途中、可憐で美しい声に呼び止められたのだ。勿論、その声の主は椎名さんだ。先ほど彼女の勤め先であるコンビニで買い物をしたのだが、なんだろう。
この間の佐藤さんの話はさっき謝ってもらったし。他にまだ話忘れてたことあったのかな。
ていうか、あれはわたしが佐藤さんからかい過ぎたのが因だから、結局の所わたしが悪いんだけど......。わたしも佐藤さんにちゃんと謝らないとなぁ。
それよか、今は椎名さんだ。どうしたんだろう、わたしまた何かやらかしたか...?あれ、俺また何かやっちゃいました~?ってやつか。
「立花さん、おわび!させてくださいってさっき言ったじゃないですか!」
「え、あ、ああ...今日なんですね」
「あ、え、ああ、ごめんなさい。ご予定ありましたか...」
「い、いえ、なにも...(ネトゲでヒラさんとイベントする約束あるんだけど、間に合うよな。日付かわってからだし)」
すると、椎名さんはぱぁっと笑顔になる。か、かわええ
どきどきするわたしに彼女は続ける。
「ごはん!行きましょ?」
ま、ままままじで!?まさか椎名さんと食事をご一緒できる日がくるなんて...。
これ絶対緊張で味わからなくなるやつや。
「い、いきましゅ」
「ふふっ...いきましょー!」
おー!と右手をグーにして突き上げる椎名さん。なるほどね、やっぱり可愛い。なにがなるほどなのかわからないけど、やっぱり可愛いんだよなーってことがわかりました。
そういえば、どこで食べるんだろう?お詫びとかって言ってたし、予約でもしてるんだろうか。と考えていると、ちょうど椎名さんがその答えを言ってくれた。
「どーこにしよっかなーっと」
ノープランでした。ありがとうございました。
ーーーー
プリティスキル、ノープランナーを発動させた椎名さんは、この時間で入れるとこはどこかなーっと、適当な食べ物屋さをスマホでポチチーっと探した。
今は二十時過ぎ...もう少しで二十一時か。まだ空いてる店はそこそこあるよな。どこだろな。
数分間スマホの画面とにらめっこした椎名さん。よし!君に決めた!と、聞き覚えのあるセリフを言い放ちとても良いキメ顔でこちらをみた。わたしと目があうと、にかっと歯をみせ笑ったかわいいですありがとう。いいぞもっとやれ。
そして目的地へ向かい歩き始めたのだった。
マックド★ナールド(バーガー&ポテイト)だった。
そうはならんやろ!!
スマホで何を調べていたのか。わたしにはわからない、わからないけど、ここ二十四時間営業なんだよね。この時間で入れるとこはーって、言ってなかったっけ?どういう事だってばよ。
あ、場所?場所調べてたのか?でもここコンビニから普通に看板みえるんだが...。
まあ、帰ってからネトゲで用事があるし、近場ですぐ食べられるマックド★ナールド(バーガー&ポテイト)は都合はいいか。
わたしのそんな事情は知るよしもないだろうけど。
でも、まじで何を調べていたんだ...?
最近は寒いですねーとか、紅茶が好きだとかいろいろな話をした。そういえば、こうやって椎名さんとゆっくりと話すのは初めてだな。いつもはコンビニで数分の立ち話だから。
他人の目がないからかわたしも多少はかみはしたけど、ちゃんと椎名さんと会話ができた。
椎名さんとたくさん話をして、色々と知れて。こちらの世界に魔王に転移させられてから数年。これ程楽しかった事は記憶にない(※ネトゲ、ソシャゲは含みません)。
椎名さんがちまちまと食べていたバーガーが無くなり、飲み物を飲もうと口をストローへと運ぶと、別の何かに気をとられていたのか、鼻先にストローの飲み口が刺さった。痛っ!と言ったあと、赤い顔をした椎名さんがこちらをみた。
わたしは堪えきれずに口元をゆるませていると、椎名さんは恨めしそうに、赤い顔をしながら上目遣いでストローをくわえていた。
「笑わないでください!」
「わ、笑ってません...よ、ぷっ」
「...くっ。くくく」
「あー!笑ってんじゃん!」
なんだこれ、幸せ過ぎじゃね?死ぬのか?わたし。
ーーーー
十一時半。ネトゲへとログインする。帰ってきたのはもっと早かったけれど、お風呂はいったり歯を磨いたりしてたら、結構な時間になってしまった。
ヒラさん、もういるよな...。
こんばんはー。とチームチャットをうつと今現在ゲームにログインしているチームメンバーから、ぽつらぽつらと挨拶が返ってくる。
そこには、最近ではずっと一緒にいて仲良くしてくれているヒラさんの名前もある。今日の、正しくは日付がかわってから始まるので明日の約束の相手だ。
チームチャットでのやりとりが終わると、すぐにわたしのもとへやってくる。
「こんばんは!お疲れさまです!」
「こんばんはー。すみません、遅くて...。」
「良いんですよー、食事も遅くなってしまいましたし。長話に付き合ってもらって、すみません...でも、すごく楽しかったです!」
「あーいえいえ、わたしも楽しかったですから!」
それなら良かった。ちょっと気にはなっていた。わたしなんかと話をして、果たして楽しいのか?と。
確かに笑顔で楽しそうではあったけど、気をつかい合わせている可能性もあるのだから......。
しかし本人もこう言ってるんだし楽しかったんだろう。でもなんだろう、違和感は。
「あの、タンクさん。もうすぐイベントの時間です。行きましょう」
え、ああ、本当だ。
「はい、行きましょう!」
なんだか嫌な予感がする。さっき何故か死神の大鎌が見えたような気がした。あれは......。
イベント会場につくと、凄まじい人だかりができていた。おおおお!と圧倒される。わたしはこういう系のイベントに来たことがないからこれ程多くの人が集まるものだという事を知らなかった。
「人、すごいですね」
とチャットをうつと、ヒラさんはわたしのキャラクターの回りをくるくる走り回った。
「すごいでしょ!私も去年きてびっくりしたんですよ!でも今年は誰かと一緒に来たいなあと思いましてねー」
成る程、まあ周りを見渡した感じ相方関係の人達が多そうだしな。
相方か、わたしにもできるときがくるのかな。やっぱり無理かな。リアルでさえ彼女いないし、できたことないし。
勇者時代は戦いの日々でそんな恋愛とかしてる暇なかったし、パーティーの女魔法使いはとんでもなく凶暴で、ミスったらすぐに炎魔法でわたしを燃やそうとしてくるし。顔は幼くて可愛らしいのに、勿体ないよな。どうせなら萌やして欲しかったぜ。なんつって。
まあね、彼女できない理由はこういう所なんでしょうね!
こっちの世界とばされてからも、まあそもそも女性との関わりがなかったしな。最近では会社に美人の黒崎さんがきたけど、前の世界では知り合いだったらしいが、なんか冷たいし。コンビニの魔王は一緒にいると楽しいし、落ち着くんだよな。なんかしらんけど。でも泣かせてしまったし。まだ怒かな?
あとは佐藤さんか。佐藤さんは可愛いしね。まあ彼氏いるでしょう。わたしのような冴えない社畜は遠くから眺めて幸せになり、たまに話をして幸せになる。それくらいでいいのだ。
.....あれ?
「そういえば、これってなんのイベントなんですか?なんかめっちゃハートの風船やら看板やらあるんですけど」
「え。バレンタインデーですよ!知らないで来たんですか!」
ああ、バレンタインデーの......。縁がないもので、全然気がつかなかった。そうか、バレンタインデーか。
「イベント参加、わたしとで良かったんですか?」
「なに言ってるんですか!あなたとが良かったんです」
はい、とヒラさんが言うとアイテムトレードが開始された。これ、あげます!ほんとはイベント終わったあとにあげようと思ってたんですが、どうぞ。
ヒラさんがくれたものはゲーム内で自作したチョコケーキだった。わたしはドキドキしていた。わたしを気持ち悪く思うかい?三十過ぎの男がゲーム内の相手にドキドキときめいて。
でも仕方ないと思うんだよね。だってこのヒラさん
椎名さんじゃね?
~流れる走馬灯~
あ、これ、わたし死んだわ。