第⑥話
あれから椎名さんの様子が変わった。
前のように笑顔をみせてくれるようになったし、話してくれるようにもなった。
良かった。本当に...。
あ、どうも。社畜(立花)です。
しかし、困ったことにまた新な問題が起きていた。
困ったことっていうのはふたつあって、ひとつは椎名さんが奇行染みた事を行うようになったこと。
ふたつめ。これは、椎名さんは関係ないんだけど、ネトゲでチームのヒラさんに懐かれたっぽくて、気がつくとずっと側にいること。
ひとつ目の椎名さんの奇行っていうのは、まあ、そんな奇行と言うほどのものでもないかもなんだけど、そうだな...あれはいつものようにコーヒーを買いにコンビニへ入ったときのこと。
椎名さんは店内にあるゴミが入っているボックスをあけ、片付ける作業をしていた。
はっ!とわたしに気がつくと、開けていたゴミボックスへそっ...と入り、パタンとトビラをしめた。
差し入れ口から目だけを覗かせ、じっとこちらをみて一言。
「新しいモンスター」
「......。」
いや、なんの!?
可愛いさで言うなら確かにモンスター(怪物)だけど。急にどうしたんだ......ていうか、その中入ったら汚れちゃうでしょ!わたしはボックスのトビラを開け、椎名さんにでるよう促す。
くすくすと笑いながら出て来て、面白くないですか?と聞かれた。
「そ、そんなとこ入ったらダメ......ですよ。」
と言うと、椎名さんは頬をぷくーっと膨らまして、ちぇーっと言いながら仕事へ戻った。可愛い!可愛いけども!
でも怒られちゃうよぉ......。
店長さんとかに。
その他まだ色々あるのだが、まあ、なんだろう。
奇行ですね。これ。思い出してみると。
これは奇行だと思いました。
ふたつめの問題。ネトゲのヒラさんがわたしに懐いてる件。なんだこのラノベにありそうなの。
まあ、普通にただ懐かれているだけなら問題はないんだけど、では何が問題なのか?
それは、一緒にいる時間だ。わたしがゲームにログインすると、挨拶の後、すぐにとんでくる。そして、話をするとか何かに誘いに来たとかならわかるんだけど、何もしないで話もないでずーっと側にいる。ずーっと側にいるのだ。
わたしが狩に行きますねー。と場を離脱しようとすると、わたしも行きます!とついてくる。
これはいったい......。
ヒラさんはジョブチェンジして、ストーカーになってしまったのか?そこまで好かれることなんてしてないと思うんだが。
このままでは私のゲーム時間が......どうしたものか......。
ちらっ
どうしたものか......。
ちらっちらっ。
『うるせー!!!!!!』
しゃがみながら商品棚の陳列作業をしている佐藤さんに怒られた。
だったら心読まなきゃ良いのに。
頬をぷくーっと膨らました。すると
『きもっ』
と辛辣な言葉を吐かれた。
そして不機嫌そうに話し出した。
『あのさー、わたしにそんな話してどうなるんだよ。わたしにはなして解決するのか?』
いや、解決はしないかもだけど、佐藤さんと話してると落ち着くというか、楽しいしなー。
まあ、正直アドバイス貰おうとかそういう事は考えてないよ。ははっ。
『いや、わたし魔王なんだけど!?なんで友達みてーになってるんだよ。』
え、違うの?
『...え』
いやいや、わたし佐藤さんが魔王とわかってからずっとみてたけど、前みたいに人間皆殺しにしようとしないし、魔王らしいことなんもしてないじゃん。
それどころか、態度の悪いお客さんにたいしても怒ってぼこぼこにもしないで、しっかり対応してるし...
『や、やめて...』
毎日一生懸命仕事頑張ってさ、偉いなーって思うよ。
あとこの間、椎名さんがレジのうち間違ったのフォローしてたし。あと商品棚の陳......
『......そ、そんな事...ない...もん。』
え!?
なんか知らんけど、効いてる!?顔真っ赤じゃん!?
さては佐藤さん、ほめられなれてないな?
よっしゃ、追撃したろ。
『...わ、わかった。わかったから。』
あとは...そうだな。なんと言っても!
佐藤さんはすげー可愛い!
可愛い店員さん!
......ちらっ。
言い切ったあと、佐藤さんの方を横目でみた。
それはそれはもう、ゆでダコという他なく可愛いお顔は耳の先まで真っ赤に染まってました。これ、蒸気あがってね?気のせい?
そして怒り顔で潤ませた瞳をこちらに向け一言。
『...あ、』
『ありがとう......』
ぐはっ!?可愛い!!!!
なにその表情!?
か、カウンター...だ...と。
痛烈な一撃を貰ったわたしは呆然と佐藤さんことをみながら動けずにいた。
すると、佐藤さんはそっぽを向きパタパタと走り、奥へ逃げていった。
いや、誰だよ。途中から中身いれかわったんか......。
とか思ってると、
カーンッ
後ろのほうで音がして、振り向くと椎名さんがこちらを見ていた。
音の正体は椎名さんの落としたエナジードリンクだった。
落としたそれを拾うこともなく、こちらを見据え棒立ちの椎名さんのもとへ歩いていく。落ちてるエナジードリンクを拾い上げ、軽く払い汚れを落とす。それを手渡そうと差し出した時、気がついた
あれ?
椎名さんの目、ハイライトはいってなくね?
椎名さんの瞳には光がなく、暗く深い闇が広がっていた。
なーんてね。うん、知ってた。こういうの前に(会社で黒崎さんと)あったから、予測はしてた。
まあ、だからと言って対処できるとは言ってないんですがね。
どーすんのこれ?
手渡そうと差し出したエナジードリンクを、まったく受けとる様子がない。
仕方ないのでわたしが買おう。なんかこうなったのもわたしのせいだしね。
スッ...と、差し出していたエナジードリンクを引いたその時
ガッ!と手首を捕まれた。
!?
ヤバい!切り落とされる!?と焦るわたしに椎名さんが言った。
「佐藤さん、なんで泣いてたんですか」
真剣な椎名さんの顔。次第に悲しそうな顔に変わり、わたしに言葉を重ねた。
「...立花さんが泣かせたんですか?」
どういったら良いのだろう。事情を説明しても、ふざけてるようにしか思われないよな...。
上手く、どうにか答えないと。椎名さんはわたしの言葉を待っている。
「わ、わたし...は、佐藤さんが...」
「いつも頑張っているのを見ていて...」
「え、偉いですねって、伝え...たんです。そ、そしたら泣いてしまって。だから...その、泣かせたのは事実...です。すみません」
わたしは真剣に、椎名さんに答えた。
すると椎名さんは、握っていた手首を離し。そう、でしたか...としゅんとなってしまった。
私、佐藤さんの所、行きますね。と言い奥の方へ歩いていった。
これは...わたしは失敗したのか?
ーーーー
あれから私は佐藤さんにも話をきいてみたが、立花さんの言ったことは間違いないみたいだった。
真正面から面と向かってほめられたことがないため、驚いて泣いてしまったらしい。
あんな言い方してしまって、立花さん傷ついたかな。落ち込んでるようにもみえたし。謝らないと...ね。
しかし、何故だろう。私の中のもやもやが晴れない。
なんでだろう。
ーーーー
これが修羅場というものなのでしょうか。わたし黒崎は、大好きなあんドーナツを買いにコンビニへはいってみると、想像だにしていない光景が広がっていました。なんと勇者カノンこと立花さんが手首を掴まれて問い詰められてるではありませんか。
掴まれている立花さんの手に握られているのはエナジードリンク...。
これは...まさか、勇者ともあろうものが?万引きを...?
よし
なにか面倒に巻き込まれる前に帰りましょう。
わたしにはさっさと帰って、十一連ガチャを引くという使命があるのです。
しかし立花さんがわたし以外の女性と話をしている光景をみるのは...。なんだろう。
ちょっと寂しい。