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黒崎さんの話 ①

 

 ーザシュ


 ドサッ


 これで八十二体。剣をビュンと振り、ついたばかりの鮮血を落として腕の間接で挟み、残りを拭いとる。


 あとはお前らだけだな。


 そう言って私たちの村を襲い、蹂躙していた魔物ガリオル達に剣を向け、彼、勇者カノンは言った。


 ーーーー


 ガリオル族。犬の頭に体はゴリラの種族で、とても好戦的。

 一生の大半を戦い続けるため、その戦闘力は恐ろしく高い。

 そんな魔物達に標的、獲物にされてしまったのが、このサキュバスの村である。


 この村は、残りの寿命が短い人間や魔族が訪れる最期の地。たまに元気な人も、命と引き換えに快楽を求め訪れるが、ここがどういう場所かはみな知っている。

 安らかな最期を迎えるため、または最期を最高の快楽で終えるため。みなここに集まるのだ。

 わたしたちサキュバスはその人の残りの寿命をいただき、寿命を差し出した人は幸福と快楽でその生涯を終わらせる。

 そう言った場所だ。


 奴ら、ガリオル族が来たのは二日前の夕刻だった。

 日が落ち辺りが闇に呑まれようとしていたとき、闇に紛れ彼らは襲来した。

 先ず最初に襲われたのは、村の門を護っていた兵士六人。

 この村はサキュバスの村なので女性率が極めて高く、全体の九割を閉めている。なので、盗賊等に狙われやすい。そのため、村を囲うように大きな壁が建てられていて、その出入口を兵士が護っていたのだ。


 最初の犠牲者は、頭をひとかぶり。頭の前半分を噛みちぎられ絶命。

 暗闇の中から飛び出してきたガリオル族に殺された。一瞬の出来事に他五人の兵士達は一歩も動けず、先程まで言葉を交わしともに飯をくった、仲間だったモノを目をまるくしてみている。

 二人目は最初の犠牲者の遺体を投げつけられ、吹っ飛ばされ壁へ激突して死亡。三人目は腹を蹴飛ばされ口から内臓を吐き出した。四人目はガリオルの横に薙ぎ払った拳が、顔へ直撃。頭部が一回転。

 五人目はガリオルのその長い爪に引き裂かれ、肩から腰にかけ二つに分けられた。

 闇に紛れ待機していたガリオル族がぞろぞろでてきた。

 数はおよそ百くらいか。

 仲間の兵士、五人の動かなくなった体を呆然とながめていた六人目は助けてくれと命乞いをしたが、勿論聞き入れてはくれるはずもなく、後ろの方からガリオル族の子供が出て来て、六人目の兵士はその子達に遊ばれ喰い殺された。


 あの時の命が焼けてしまうような断末魔は、忘れたくても忘れられない。

 数年たった今でも、わたしは思い出して体が震える。


 ガリオル族一匹で六人の兵士をこんなにも簡単に殺せてしまう。それほどの力を持ったものがおよそ百匹......。これからこの村がどうなるるかなんて、村のみなは一瞬で理解した。


 遠巻きにその光景をみていた私は隣に立っていたお母さんに手をひかれ、早く!と怒号にも似たような声を張り上げてた。

 逃げる途中で会ったお母さんのお姉さんが、森のなかはダメ!魔力探知で周辺を探ってみたけど、村の外周も囲まれててあいつらいる!

 それをきいたお母さんは私を引きずるように家へと向かう。

 八年という月日を過ごした私の家。青い屋根の気でできた家。

 つくと、お母さんはそのまま寝室に私を連れていき急いで魔法を唱えはじめた。

 絶対に動いてはダメよ。と、私をベッドの下へと押し込めた。

 その時のお母さんの表情は今でも覚えてる。涙を流しながら笑っていた。大丈夫よ、心配しないでと言いながら私の頭をなでた。

 直後、出入口のドアが蹴破られる音がした。微かに香る獣臭はやつらの侵入を知らせている。

 お母さんが私にかけた魔法は、この村ではお母さんしか使うことができないもので、術者以外がその姿を捉えられなくなる高難度の魔法だ。

 その効果は強力でその姿や気配は勿論、使い手の力量によれば存在おも認識させなくできる。故に恐ろしく大きな魔力を消耗する。そして更に魔力を込めれば、その効果は大きくなる。


 ただし、術に込めた魔力以上の者には看破されてしまうが。


 お母さんは私にかけた魔法に全ての魔力を込めていた。


 そしてわたしは断末魔を聞くことになる。大好きだったお母さんの。


 私はなにも考えないようにしていた。目をつむると、楽しかったこと、お母さんとの日々が思い浮かんでしまうので、じっとベッドの裏の木目を見ていた。


 そしてガリオルの襲来から二日たった朝、私にかかっていた魔法の効果が切れた。

 どうやらここはガリオル族の拠点にされたようだった。

 ガリオル族は基本的には盗賊のように村などを襲いまた別の村へと流れる。お母さんもそれを考えて、彼らが居なくなるまでここに隠れていさせていたかったのだろう。

 その想いも魔力とともに無に帰した。


 私の匂いに気づいたガリオル族が集まる。私は精神的にも肉体的にももはや動くことはできず、ベッド下から引きずり出された。

 ガリオルは、こりゃ上玉だな。と私をじろじろとみると、手を伸ばしてきた。

 食用だな。とりあえず目玉抜いて下処理するか。と、いい、私の両手を大きな右手で掴みあげ、小さな体が宙に浮いた。左手で私の右目に触れる寸前


 グシャッ!


 目の前のガリオルは頭に剣を刺され倒れていた。


 真上から降ってきた男に、奇襲をされたのだ。

 頭のてっぺんから顎下までを頭蓋骨を貫通し、剣が刺さっている。

 奇襲をかけた男はそのガリオルから剣を引き抜き、体に纏う赤色の布を翻してこう言った。



 さあ、次はどいつが死ぬ?



 これが勇者カノンとの出会いだった。






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