第④話
よし、終わり!パソコンのエンターを押す。
あとはこれを上司のパソコンへメールで送ればオッケー。
送信.....と。
さて、お昼休みだ。コンビニへ行って、椎名さんのお顔をみてコーヒー買って.....
ポーン
え?メールが入ってた。上司からだった。え、まさか?
嫌な予感がしつつ、内容を確認するとさっき送ったメールの指摘メールだった。
マジで!?メール送信してから、三分も経ってないんだが.....!?
視線だけをそろーっと上司の方へ向けると、目があった。
すごくイイ笑顔でこちらに親指を立てていた。
なん.....だと.....。
わたしは怒りや恐怖、悲しみを通り越し戦慄した。
は、早すぎる.....。
わたしは自分の席へ座り直し、指摘された部分の修正作業へ取りかかる。
早く.....早く終わらせねば.....。
ーーーーー
修正作業という戦いを終えたわたしは、机に突っ伏していた。
つ、疲れた。送り直したのをまた修正箇所みつけて送りつけてくるなんて.....しかも三周目になると、もはやミスでもなんでもない所をなおさせるとか、ヤバすぎんごねえ。
結局、早くよこせとの上司の要望で、お昼休みが消し飛んだ。
.....
爆発魔法ってさぁ.....あるんだよね。
上司ごとこの会社吹き飛ばしてやろうかなぁ.....あはははは
心の中で上司への復讐劇を楽しんでいると、
「.....やめてください。」
え?
そこにはお盆にコーヒーを乗せた、黒崎さんが立っていた。
いまの、わたしに言った?
コトッとわたしの机にコーヒーを置くと、口も動かさずにわたしに話しかけてきた。
『あなたの魔法は強力すぎます。あの上司さんに爆発魔法なんてかけたら、この建物はおろか此処等一帯が塵と化すでしょう。』
わたしは鼻で笑いながら、お返しとばかりに黒崎さんの心へ語り返した。
『大丈夫だよ。しないよ。わたしのストレス発散の仕方だよ。』
黒崎さんがきょとんとした顔になる。お?表情が変わった。
『もう、隠さなくていいのか?黒崎さん、サキュバスだろ?』
窓の外を眺めながら、わたしは問いかけた。落ちる雨が道行く傘達を叩いていた。
『わたしは、最初から隠そうなどと思っていなかったです。』
『あなたは、姿は変わってはいるけれど、勇者.....カノンですよね。貴方のような英雄が、何故こんなところでこのような事を?』
『なぜって、そりゃ魔王がわたしを.....』
すごいな。完全に押さえ込んでいるわたしの魔力を計れるのか。
『違います。貴方が本当の力を解放すれば、この世界であろうと全てを掌握できるじゃないですか。何故しないのですか、という意味です。』
『.....黒崎さん、わたしは君のこと覚えてないんだけど、別世界で会ったことあるのか?』
窓の外を眺めるのをやめ、黒崎さんの顔をふと見ると涙を拭っていた。え!?なんで!?
隣の机の同僚が、ボソッと聞こえるように言った。嘘だ。大声で怒鳴った。なに黒崎さん泣かしてんだてめえ!!!と。
まあ、周りからみると、
黒崎「.....やめてください。」
↓
窓へそっぽ向くわたし。
↓
黒崎さん泣く。
あれ、不思議だ。わたしが無視して泣かせたみたいになってる!
はめやがったな!黒崎さん!っていうか、わたしの心よまないでよ。
え、まって、もしかして今までずっと心読まれてたの?あれもこれも全部.....。
ま、まじでぇ.....。
『大丈夫、時々しか読んでません。』
いやオイ!
言った側から心、読んでんじゃないよ!いや、お願いします、読まないでください。死にたくなるから、本当にやめてください.....。
わたしは土下座をした。心の中で。
体がねえと土下座ができねえとでも?否!土下座とは心の所作!
届け!わたしの想い!必死に頭を地面に擦り付けお願いした。
結局、わたしと黒崎さんの関係は教えてくれはしなかった。
ご自分で思い出してください。とのことだ。うーむ。
ーーーー
コンビニのトビラを(以下略)
椎名さんはいるかな?店内をさがす。ふらふらとコンビニ内をさ迷いながら、購入するものを手に取ってまわる。
すると、商品棚を陳列作業している小柄な店員さんを発見。
佐藤さんだ。
この間の、わたしに挨拶してくれたと勘違いしてしまった件から、恥ずかしくてあんまり顔あわせたくないんだよな。
『今日は椎名休みだぞー。』
と、佐藤さんが語りかけてきた。え、そうなの?
『そっか、わかったよ。ありがとう。』
『明日の午前中はいるから来なよ。』
『おお、ありがとう。明日またくるよ.....って、』
「オイ!!おまえもかーっ!?」
ぶふーっ(笑)
全力のノリツッコミをいれるわたし。佐藤さんはその小柄な体を震わせ、楽しそうに笑っていた。
こんな身近に魔族が二人も.....。い、いや、でもまてよ?
どういう事だ?今まで佐藤さんからは魔力が感知できなかった。
わたしは体が変わったとはいえ、勇者の力を持っている.....そのわたしが感知できないだと。
佐藤さんはにやにやと笑いながら答えた。
『あんれ?マジで気がついてなかったの?あつーい夜を過ごした仲じゃんかー。』
『いや、誰だよ!わたしには身に覚えがないぞ!』
『わたし、魔王です。』
「魔王ーーーーーーーーー!?」
佐藤さんはビクッとして耳を瞬時にふさいだ。
わたしは混乱していた。な、なぜ魔王がこっちの世界に.....?
て言うか、魔王って女の子だったの.....?
なんで普通に普通な顔して働いてるの?
あと、あつーい一夜って、なんだ?
『ふん、だーれが男だって言ったんだよ。あつーい一夜だったじゃんか。あのさいごの殺しあいは。』
ぷいっとそっぽを向いた。くそ.....魔王のくせに、可愛いじゃねえか。
殺しあいをそんな色っぽく表現してんじゃないよ。子供みたいな見た目してるくせに。
『あとなぜこっちの世界にいるか.....それはな、お前にかけた魔法は術者自身をも巻き込む、リスクマックスな大魔法だったからだよ。まさかあれを撃たされるとはね.....。』
そうか、わたしたちは本当にそこまで魔王を追い詰めたんだな。
ということは、これはもう確定か。あちらの世界は救われたのか。.....良かった。
魔王の生死が定かではないうちに転生させられたので、ずっと気になっていた。
わたしのくちもとが自然に緩む。あちらに残してきた仲間のことを考えると、喜びが溢れてくる。本当に良かった。
『わたしも嬉しいぜー。勇者様の社畜として苦しむ様を見ることができてな。それ目的で、こんなコンビニで働き始めたんだからな。』
ちいせえ!!
なんか、体とともにスケールダウンしてない?いろいろと。
わたしがパワハラされてるのを見て(聞いて)満足してるって、魔王それでいいの?
前なら「両手両足潰してからが拷問」とか言ってたよ?
前の魔王の面影がマジでまったくないんだけど。
まあ、こんな魔王ならわたしも助かるが.....。
『まあ、とりあえず、明日またこいよ。お前の好きな椎名くっから。』
わたしは気がついた。この世界では魔王に勝てないことに。
『あの.....椎名さんには....』
『わーってんよ。ちょっと仕事の邪魔だから。帰れよ。』
ひらひらと手を振りあっちいけという佐藤さん。
『ありがとうございます!魔王さま!』
........
だって、しょうがないじゃないかぁっ....