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第③話

 

 今晩は。立花勇です。

 わたしは今、世界を救っている最中です。

 23時か.....。わたしはゴトッとコントローラー(パッド)を机においた。


 駄目だ。


 駄目だ.....駄目だ!わたしは憤っていた。

 なぜ、ヒール(回復)がたりなくなる?!盾役のわたしがすぐ落ちるんだが!

 これでは.....世界を救えない。頭を抱え、思案する。

 ぶつぶつ.....あそこで.....バフを.....。


 駄目だ、今日はもう時間切れだ。夜更かしのしすぎで、明日の仕事に遅れてしまってはいけない。世界どころか自分を救えなくなってしまう!

 寝よう。わたしはパーティーメンバーに「あ、もう遅いので抜けますね」と、言いそのパーティーを抜けた。



 ーーーー



 モニターに映されるゲーム画面。また、ミスしちゃったなあ.....はあ。と私は溜め息をついた。

 パーティーの一人盾役の人が抜けた。「あ、もう遅いので抜けますね」と言い残し。

 これって、私の回復が足りてないから、怒ったんだよね。

 なんで、こんなに下手なんだろう。

 椅子から腰を起こし、水色のふかふかなベッドへダイブ。ぼふっ。

 枕を引き寄せ、うつ伏せのまま頭をせ横をむく。視線が壁に掛けられている、花の形の時計に合わさる。あ、日付がかわる。


 カチッ



 ーーーー



 寝不足だ。頭が痛い。わたしは歯を磨き、スーツを着てネクタイを締めた。さて、今日も魔王城(職場)へと行くか。

 鏡の前、目を閉じて唱える。


 わたしはまだ


 戦える。


 家の中を見渡し、忘れ物や火の消し忘れ等を確認して、玄関へ向かう。

 トビラをあけて外に出る。今日も晴れてる。


 そしてコンビニを目指し歩き出す。椎名さんに会いに。

 椎名さんと知り合いになれてから、わたしの毎日は変わりつつあった。

 毎日、同じことの繰り返し。仕事してネトゲして、寝る。

 わたしが居た別世界から、この世界に来てもう五年くらい経つ。ずっとそんな感じで生きてきた。

 元々、この世界に生きていた一人の人間の体に乗り移っているので、突然一社会人として生きるはめになって、最初こそ何をどうしていいのか分からずかなり苦労した。でもまあ何事も成せば成るようで、何だかんだここまで生きてこれた。


 そして、もともとの体の持ち主の事だが、わたしは良く知らない。

 わたしは、わたしが奪ってしまったこの体の持ち主の事を、出来るだけ考えないようにしていた。

 別世界で、魔王の最期の魔法でわたしはこの世界へと魂を飛ばされこの体へとたどりついた。

 どうすることも出来なかったとはいえ、一人の体を、人生を奪いこうして生活をし続けている.....この現状を考えるのは、罪の意識に押し潰されそうで。

 情けない話だが、怖かった。


 けれど、わたしはこの現状を変えなければいけないと、あの可愛い店員さん、椎名さんと出会い思い始めていた。

 この体を、わたしではない他人の体をつかい、椎名さんと関わり続けるのは言い様のない不安が押し寄せる。


 この体は、本当の意味でわたしではないんだから。






 だがしかし、わたしは椎名さんに会いに行くのだった。

 ほら、我慢とかストレスって、体に良くないって言うから。

 わたしの体ではないのだから、そこらへんは気をつけないと。

 と言うわけで、コンビニ行きまーす!


 と、コンビニに到着すると、椎名さんも出社時間みたいで、偶然鉢合わせた。


「あ、立花さん!おはようございます!」


 柔かな声と笑顔で話しかけてくる。ああああかわえええ。

 わたしも椎名さんに挨拶を返す。


「あ、おはおは、おはようございます!」


 お?なんだろうわたし少し成長してきてるような。いや、してねえな。

 てか、椎名さんの髪型が少し.....寝癖かな?


「あ、あの。髪が.....。」


 と、わたしが椎名さんの髪のぴょんと跳ねている部分を指さした。

 あ、まてよ?これはこれで可愛いな。


「え、.....あっ。」


 気がついた椎名さんは顔を赤らめて、手鏡をバッグから取り出し寝癖をなおそうと髪をなでていた。


「す、すみません。昨日ちょっと夜更かししてしまいまして。」


 え、意外だな。椎名さんって夜更かしするんだ。真面目そうだから、早寝早起きなのかと思ってた。てか、顔を赤らめる椎名さんかわえええ。これはたまらんですよ!


「わたし、ゲームが趣味で.....でも下手で、一緒にやってる人達に迷惑かけないようにって、練習してたら。朝になってて.....。」


 ゲームかー!わたしもゲームするんですよ!って言いたい。けど、うまく喋れる自信がない!!

 なんのゲームしてるんだろう。めっちゃ気になる。


「あ、遅刻しちゃう。立花さん、ではまたです!」


 手をヒラヒラふる椎名さんにわたしもヒラヒラと手を振り返す。

 朝からたくさん会話してしまった.....。やったぜ。

 なんて考えていると、コンビニの入り口前で椎名さんが止まり、振り向いた。


「お仕事、頑張ってくださいねー!」



 ーーーー



 カタカタとパソコンで作業をする。仕事中にも出ては消える椎名さんの笑顔。

 振り返ってからのあの笑顔。なんのラノベのヒロインだよ、ってくらい可愛かったな。

 .....仕事、頑張らなくっちゃな。


 カチャ


 コーヒーがわたしの机に置かれた。手を止め、顔をあげて、そちらを見る。

 黒髪ロング美人(つり目)が立っていた。ドキィっと胸が高鳴り、席を反射的な立つ。背の高さは同じくらいか?170くらいある身長に、スラッとした体型。だが、出るとこは出ている.....完璧じゃないか。ごくり。

 黒髪ロング美人さん(仮)は、不思議そうにわたしの方を見ている。


「すみません。私、今日から此方の会社にお世話になります。」


「黒崎 りん、と言います。よろしくお願いします。」


 深々と頭をさげると、頭をあげ視線が交わる。


「こ、こちらこそ.....」


 かろうじて返す。そして気がつく、この子表情が.....。

 振り返り、戻っていく黒崎さんを、立ったまま見送る。あの子はいったい.....。じっと目を凝らし黒崎さんの後ろ姿をみる。やっぱりそうだ。

 魔力が全身から滲み出ている。


 真剣な顔で考えていると、隣の机の同僚から、はよ仕事せいや無能とボソッと聞こえるように言われた。

 あ、はい。



 ーーーー



 就業時刻を大きく回り、残業時間突入中。二時間くらいたって、目が霞んできた。全身に疲労感があらわれ始め、わたしは座ったまま天井へ手をあげ、体を伸ばす。なあ、信じられるか?この二時間って賃金発生しないんだぜ?

 まあ、でも世の中にはもっと酷い扱いをされる、会社があると聞いたことがある。わたしはまだマシ.....。

 ん、この思考やばくね?社畜らしくなってきたなぁ。

 だが、それも作業量的には、もう少しだ。がんばれ!わたし!



 ーーーー



 激しい戦いを終えたわたしは、魔王城(会社)を後にする。

 コンビニに寄って、夕食やその他もろもろ買ってかえろう。歯磨き粉切らしてたんだ。忘れないように.....と思っていても忘れるのがいつものパターン。

 椎名さんにも会いたいが、午前に出社していたのでこの時間にはいないだろう。

 そんなことを考えながら、コンビニに入ると黒崎さんがいた。


「.....あ、お疲れさまです。立花さん。」


 こちらに気がついて話しかけてくる黒崎さん。.....本当に少しも表情が変わらない。

 この人たぶん.....魔族だよなぁ。


「お疲れさまです。」


 短い挨拶を交わしたあと、コンビニ弁当とコーヒーを購入しコンビニを出た。

 まあ.....邪気は感じないし、大丈夫だろ。

 そう思いながら、自宅へと歩き出そうとしたとき後ろから声がした。


「あ、立花さん!」


 椎名さんがいた。ああ、本当に可愛いな.....とて、え、まじで!?


「し、椎名さん.....ここ、今晩は。」


「今晩は!お買い物してたんですね。お仕事の帰りですか?遅くまでお疲れさまです。」


 にこりと笑い、わたしを労ってくれる。ああ、仕事の疲れが.....癒されていく.....。

 ありがとう、ありがとう。今なら、一夜で一国を落としたといわれている、アーキステスの上級魔物の軍勢とでも一人で戦い抜ける、そんな気がする。


「あ、そだ。お疲れでしょうから、これ」


 そういい、がさごそとさっき買ったばかりと思われる、エナジードリンクを取り出し、差し出してくる椎名さん。


「い、いいんですか.....」


「もちろん。いつもご苦労様です。元気になってくださいねー!」


 ーーーー


 夕食とお風呂を済ませ、わたしのもうひとつの戦地へと向かうべく、パソコンの電源をつける。

 いつものネトゲへログインする。チームのみんなに挨拶のチャットをする。

 すると、昨日パーティーを組んでいたヒーラー(回復役)さんからチャットがきた。


「きのうは回復上手にできなくて、ごめんなさい。」


 ああ、昨日のこと気にしてたのか。なんだか申し訳ないな。

 大丈夫ですよっと、カタカタとチャットを返す。ちなみに、チャットだとキーボードうつだけなので普通に会話できる。当たり前だが。


「大丈夫ですよ。わたしも上手く戦えてなかったです。すみません。」


「ありがとうございます、わたし昨日あれから練習してきたので、頑張れると思います!エナジードリンクを片手に、頑張ります!」


「おお、奇遇ですね!わたしも今日、仕事の帰りに知り合いの方に、エナジードリンクを貰って。それ飲んで元気なので、頑張れると思います!」


「おお、良かったですねー!ちなみに、お知り合いはどういう方なんですか?」


「笑顔が可愛くて、いつも元気をくれる人なんですよ。」


「可愛いコンビニの店員さん」


「わたしの大切な人です」


 .....あ、やばい。これは、ちょっと.....。

 気持ち悪いこと言ってるなわたし。

 気がつくと、ストーカーみたいなチャットをうっていた。

 てか、もはや文面だけみるとストーカーであった。


 あああああ






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