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第①話

 



 はあ、はあ.....。




 わたしは今、コンビニのトイレの中だ。


 かといって用を足したいわけでもなく、立ちすくんでいた。


 これはそう、緊急クエストというやつだ。先程買ったブレスケアを握り締め目を閉じ、思い出す。


 さっきの店員さん.....







 めちゃくちゃ可愛くね!!!??






 このコンビニはわたしの勤める会社のすぐそばにあり、徒歩3分という食事や家で使う日用品、仕事で使う消耗品など、それはそれは重宝しているコンビニだ。

 そんないつもお世話になっているコンビニにホントに宝ともいえる子が......!あれは、あの子は宝だ!


 髪はセミロングで綺麗な黒髪、目はクリっとしていて、明るい笑い声。

 にこにこと笑いながらレジをうつ様は、妖精郷クラウェストの女神リーンのよう.....いや、それ以上かっ?!

 とてつもなく可愛かった。


 突如としてわたしの冴えない日常にあらわれた、可愛い店員さん。

 昨日このコンビニにきたのが午前中と、夕方にも一回...あと日付のかわる前に一回きたな。

 その時にはいなくて、今が午前八時だからあの可愛い店員さんは今日、初出勤...だとおもう。


 コンコンとトイレのトビラがノックされる。バッと振り向くと、トビラの壁にある貼り紙が目にはいる「財布やバッグの置き忘れに注意してください!」と書かれている。余白に描かれている目付きの悪い猫のイラストが可愛い。


「.....すみません、今出ますね。」


 わたしはブレスケアをあけ、一粒飲み込んだ(もう一度レジであの可愛い店員さんを見るために。ブレスケア大事。)。


 ゴクリ。


 トビラのドアノブを握ると、思い出す。


 ああ、この感じ.....この緊張感は.....似ているな。


 いよいよ魔王城へと乗り込もうというその前日。宿屋の部屋のトビラのドアノブを握った時...と。

 もう十年以上も前のことだが.....。


 ガチャ.....え?


「.....あ、すみません、その......。」


 例の可愛い店員さんが目の前にいた。


「......長い間、お手洗いにこもってらしたので。体調が優れないのかなって。」


 可愛い店員さんが、少し照れながらわたしに上目遣いで話しかけてくる。


 あああああああ


 かわいいいいいいいい


 やべえええええ(わたしが)


 さっきのレジの時は、あんまりよく見れていなかったが、歳は20代くらいか。

 ネームプレートに名前が書いてある。


 椎名 はじめ


 珍しい名前だ。可愛い。そんな事を思っていると、可愛い店員さんこと椎名さんがきょとんとした表情で首を傾げる。

 なんだろう、ひとつひとつの動きが可愛い。可愛いでできているのか、この人は。

 いや、まてまて、興奮している場合ではないぞ。

 このこは今わたしに返事を求めている。はやく返事せねば。

 クールにカッコよく、大人な感じに。





「だ、だだだだ、大丈夫でしゅ」


 はい、100点!!!!!芸人ならね!満点だね!!!


 やっちまったー、これは恥ずかしい。死にたい。そう思いながら椎名さんの顔をみる。

 椎名さんはうつむいて震えている。これは...。


「.....で、でしゅって.....ふっふふ.....ごめんなさい。」


 やっぱりー!めっちゃ笑ってる!可愛い!

 でもこれ確実にイメージダウンですよね.....。

 ま、まあ?別になにか期待してたわけじゃないし?

 と、内心、強がるわたしだったが、なにかを失った感が否めない。

 わたしはわたしのイメージを失った。

 代わりに椎名さんの笑顔を得た。

 何かを得るには同等の対価が必要って言ってた。どっかの金髪の小さな男の子が。

 同等?いや、違うな。椎名さんの笑顔のほうが価値はある!

 よって、わたしの勝ち(?)だ。


「.....ふふっ。ありがとうございます。わたし今日からこちらのコンビニでお世話になっていて。お仕事はじめてで、すごく緊張していたんです。」


「リラックスさせてもらえちゃいましたね。ふふっ。」


 心臓が破裂したかと思った。

 いま、まさに椎名さんは女神リーンをこえたのだ。

 これ程とは.....。

 パーティーの魔法使いが、寝ぼけて爆発魔法を唱えかけてるのに気がついた瞬間くらいの心臓の高鳴り。


「大丈夫みたいなので、わたしお仕事もどりますね。」


 手をヒラヒラしながら、椎名さんは戻っていく。

 まあ、笑顔みられただけいいか。

 またこよう。椎名さんの笑顔をみに。


 コンビニのトビラを押しあけ、外にでる。

 ああ、いい天気だ。

 椎名さんの笑顔とこの快晴。それだけで今日1日乗り切れそうだ!


「あの!待ってください!」


 !?


 椎名さん!?

 わたしの後を追ってコンビニから出てきた。どうしたと言うのだろう。

 若干パニックに陥っているわたしの目に椎名さんは視線を合わせた。

 ドキドキと鼓動する心臓。さっきの比ではない。

 だって、こうして追いかけてくるなんて、余程の理由がなければ無いことだ。

 でもまって、わたしイケメンじゃないしお金もないし、年だってもう30代のおっさんだし、会社では無能って言われてる。くわえてさっきご覧のとおり、コミュ障でもある。強いていうなら元、勇者だが.....あれ、なんだろ、悲しみが押し寄せてくる。死ぬかも。


 椎名さんは言った。にっこりと笑って。

 あ、わたしまだ生きていられる。

 即座に前言撤回するわたし。


「カバン、お客様のですよね?お手洗いに置いてありましたよ!」


 ですよねー!


 恥ずかし過ぎて、もはや恥ずかしくねー。

 でもこのシチュエーションは男なら期待するだろ。

 そう、仕方ないの。

 まあね、それはそうとしっかりお礼を言わないとね。

 わたしは椎名さんの目をみて言った。


「ありがとうございます!」


 かまねーのかよ!!!!今度は、かまねーのかよ!!!!

 なんでだよ!笑わせてリラックスさせてやれよ!

 わたしはわたしを責めた。なぜこうなのかと。こういうとこやぞ、と。

 わたしのお礼を聞いた椎名さんは、にっこりと笑顔をみせた。


「いいえ!またのご来店お待ちしてますね、立花 勇さん!」


 と、最後にわたしの名前を付け足すように呼んだ。

 あれ、なんで知ってるんだ?と思ったが、すぐに理解した。

 わたしの胸元に付いているネームプレートを読んだだけか。と。


 その後、出社したわたしはブレスケアと一緒に買ってあったお茶とブラックコーヒーを出し、会社に設備されている冷蔵庫へといれた。

 冷蔵庫には、社員達のお昼ご飯であるお弁当などが、ところ狭しと入れられている。

 わたしもいつもは、コンビニで買ったお弁当をぶちこんでるところなのだが、今日は違う。


 温めてもらうんだ。椎名さんに。コンビニ弁当。


 お昼休みが楽しみでしかたない。

 今日はいつもと違い、仕事が頑張れそうだ。

 あー、早くお昼にならないかなー。


 ーーーー


 そしてお昼休み。待ちに待ったお昼だ。

 コンビニへ.....はやく椎名さんに会いに行かなければ!

 会社のトビラをあけ、椎名さんの待つ(待ってない)あのコンビニへ!


 向かおとしたのだが、コンビニのまえが騒がしい。

 何だろう、と思い近づくと、椎名さんが腕を捕まれ連れて行かれそうになっていた。


「や、やめてください。警察呼びますよ!」


「いいから、来いよ。俺の女になったらいい思いさせてやるからよ!痛い目みたくないだろ?警察?呼べるもんなら呼んでみろよ。」


 明らかにたちの悪い客。他の客もコンビニの店員もどうにも出来ずに困ってるみたいだ。

 仕方ない。


「すみません、その店員さん離してあげてくれませんか?」


「あ?誰だよ、おまえ。」


「ただの客です。ここの店の。」


「あ、そ。おまえには関係ねえ。とっとと買い物でもして帰れよ。」


「関係はあります(椎名さんに会いに来たんだから)。あなたこそ、その店員さんのなんなんですか?」


 と、きいた瞬間、殴られた。右頬に拳をぶちこまれた。

 血の気おおすぎだろ、この男。

 しかしわたしには効かなかった。

 逆に殴った相手のほうが、呻きをあげている。


「いってえええええ!な、なにしやがった!」


 彼は、拳をもう片方の手で抑え苦痛に顔を歪めている。

 皆様は知っておられるだろうか。

 勇者の扱う魔法の中に、体を鉄のように硬くするものがあることを!

 拳がぶつかる瞬間に唱えたのだ。はっはっは。


「おまえ顔覚えたからな.....。」


 と不穏なことを言い残し彼は立ち去った。良かった。

 久しぶりで魔力切れおこしてる。

 これ以上やってたら危なくボコボコにされてるとこだったわ。

 振り返ると、椎名さんはわたしの殴られた頬に手を当てて言った。


「わたしのせいで.....ごめんなさい。痛かったですよね?」


 ここだ。わたしは答えた。





「だ、だだだ、大丈夫でしゅ!」



 いいね!100点。



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