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アラサーがVTuberになった話。  作者: とくめい
4章(1年目8月)

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閑話  とあるリスナーの話

×月×日


「あ゛ー肩こるぅううう」


 ほぼ丸一日椅子に座っているようなものだし、当たり前か。胸が大きいからとか言う言い訳も通じると言えば通じるだろうか。


 ふにふに。


 全然興奮しない件。おかしい、同じ乳でもアニメやゲームのキャラクターなら全然心がトキメクのに。Vtuberの立ち絵で胸揺れしたときとか大はしゃぎでスパチャとか投げるのに。


 一般的に想像されるオタクさんの部屋は暗い部屋で物が散乱したイメージを持たれがちだが、私の場合は違う。移動の障害にならないようになるべく物は置かないようにしているし、ハウスキーパーさんに定期的に通ってもらっているのでそれなりの清潔さを保っている。そうしている、と言うよりはそうせざるを得ないと言うのが正しい。何せ、私の足は本来のそれと違って、そこまで器用には出来ちゃあいない。段差がとっても苦手な子。


 元々積極的に外出するような性格でもなかったが、今のような状態になってからは特に引き篭もりがちになった。


「んほぉ~、ルナちゃん可愛いぺろぺろ」


 こんな妹が欲しかっただけの人生だった。Vtuberってのはいい。可愛いし、推しが伸びると何だか親目線で嬉しくなる。最近デビューしたばかりの娘。ガワも声もストライクゾーン。あれよ、一目惚れってやつよ。もちろん同期の灯ちゃんもぐうかわだけどね、お胸おっきいし。ぐへへ。


 同ジャンルのファンが集う掲示板、ファンスレッドでたまに毎回実況したり、感想を言い合ったりしているこの瞬間が1番楽しい。現実だとこの身体のこともあるし、こういった趣味を持っていることを他人には言い辛いものがある。と言うか、現実だと趣味とかそういう話以前に、別の目的があって近づく輩のなんと多い事か。もっとも、今はこんな状態だし外出する気もまったくないのだけれども。


 外に出ても自分じゃ何も出来ないという現実ばかりが、否応なく私を襲う。それがどうしようもなく億劫(おっくう)になってしまう。だからこそ私はネットと言う世界に逃げた。今まで友人だと思っていた人たちは、殊更面倒くさそうな顔をする者。次第に連絡が減っていきフェードアウトする者。同情的に接する人もいるが、あれは違う。あんなのはただ同情してあげている、優しい自分に酔っているだけの人だ。所詮は赤の他人。親友と呼ばれるような関係を築けなかっただけ、ただそれだけ。


 ――私はただ……ただ普通に接して欲しかった。それだけなんだ。


 他人にそこまで求めるのも酷な話だろう。これはただの我儘だ。面倒(・・)から逃げた私の自業自得だ。そうして過去の関係を自ら断って、殻に閉じこもった。それが今の私だ。それで1人で何でもやっていければ良いのだが、弱い私はそういうわけにもいかなかった。自ら1人で居る事を選んだ筈なのに、孤独が辛いって言う馬鹿者はこちらです。と言うわけで、存在するけど仮想の存在みたいな私にとって非常に都合の良いVtuberっていうジャンルにどっぷりハマってしまったというわけである。え? 理由になってない? こまけぇこたぁいいんだよ。こう見るとメンヘラ臭すっげぇな、私。こわいなーとづまりすとこ。


×月×日


「あ゛?!」


 どうにも最近同じ事務所の男性Vとやたら親しげに、と言うよりかはルナちゃんの方から一方的にも見えるが構ってアピールされている様子が散見される。拙者、そういうの苦手侍。


「ホントなんや、こいつぅ……」


 検索かけるとサジェストに『炎上』やら『淫行』やらが出てくる男性Vtuberと推しが親しげに仲良くするのは余り気分が良いものではない。一応当人が、と言うよりかは同期の相方がやらかした一件が原因らしいので気の毒な話である。相当数のアンチを抱えている割には、毎日配信しているのは確認できる。yourtubeでvtuber、ライブ配信中で検索すると結構な頻度で見かける。この人一体一日何時間配信しているのだろうか。


 ファンスレでは好意的と言うかネタキャラみたいな扱いになっている一方で、アンチスレではボロカスに叩かれているようだ。なんとも両極端。脱サラしてVtuber始めるとか中々なことしやがるな、此奴(こやつ)


「真昼間からやってるんだ、この人」


 平日の午前中という時間帯に配信するVtuberは少ない。その日の私は気まぐれで()の配信を開いた。特に他意はない。単なる暇つぶしであった。


「――今日のご飯ですか? 肉じゃがですよ。肉買い忘れたから肉ないですけど。肉がないから『じゃが』じゃんって? いや、そうなるのか……?」


 めっちゃどうでもいい雑談していた。サブモニタの方で見ていたファンスレの方では『速報 脱サラの晩御飯肉じゃが』という謎の速報が流れていた。声とガワを見ての第一印象は、やたら面と声が良い。私には縁遠いし苦手なタイプだ。ただこういう人特有のチャラいというか、軽薄な印象はなかった。何だか幼い頃一緒に遊んでもらった親戚のお兄さんのそれに近いものを感じた。思えば親族でまともなのは彼くらいだったんじゃないだろうか? 縁を切って家を出た気持ちはなんとなく理解できてしまう。


「く……ま、まあ声は良いと褒めて進ぜよう」


 だ、だが声がいいからって女の子とイチャコラするために活動とかしてるなら許さんからな、ワレェ!


×月×日


 どうにも粗探し、ではないけれどあの人の配信をちょくちょく見るようになってしまった。あまり他のVと配信が被らないような時間帯に配信しているのが悪い。うむ。


 と言うか、この人SNSやらアンチスレッドやらでボロカスに言われまくっているのにも関わらず一切そういった気配を漂わせたりしない。ノーダメージなのか、この人? こう言って何だか、どういう神経しているんだろうか。配信中もちょいちょいアンチがエグイコメント投げまくってる最中でも、表情や声色ひとつ変わらない。


 コメントはよく拾うタイプの配信者なので、気付いていないはずはない。時折見ている側ですら眉をひそめたくなる様なコメント群ですら、一切反応しない。さも自分がそうされて当然、みたいな諦めなのか悟りに近い感情なのか……あるいはそういった感情すらなく無心でやっているのか。どちらにしろ、これはこれで異常、異質と言っても良いだろう。現実(リアル)の親族間における肩身の狭い自分の立ち位置もあり、無意識に重ね合わせる自分がいた。ある意味似た者同士なんじゃないかっていう。自分だけではない、という捻くれた感情が安心感を与えてくれた。


「今日妹が私の料理褒めてくれたんですよー」


 その割に妹の話題になった途端に声が生き生き弾むし、立ち絵の表情も溢れんばかりの笑顔になる。妹=彼女と捉える人もいるが、それにしてはそういう間柄特有の話題は一切ない。晩御飯がどうとか、おやつがどうとか、最近構ってくれないだとか何だか色気の欠片もない話題ばかり。


 少し調べたところによると、やたら後輩の新人2人に好かれているのは裏で色々サポートというか手助けてしてあげていたとかなんだとか。ソースがまったく信頼できない掲示板なんだけれども。当人の配信を聞く限りは、若い子をかどわかすような人でもなさそうだし。と言うか、この人多分妹ちゃん以外に興味ないんじゃないだろうか。


×月×日


 気の迷いだった。つい気の迷いで初めて彼の配信にコメントしてしまった。内容自体はありふれた『初見です』というもの。本当にありふれた。取るに足らないメッセージ。こんなのあっちだって見慣れたものだろう。


「――さん、ありがとうございます」

「…………」


 危ない。危うくグラスを落としそうになってしまった。元々そういうコメントを拾う人だったか。今使っているユーザー名は本名をアレンジしただけの簡素なものであったから、異性に名前を呼ばれたみたいに感じて動揺してしまった。名前を呼ばれた程度でホイホイ惹かれるほど、私はそんなにチョロくはない。


×月×日


「む……」


 SNSを覗いていると彼のツイートが目に入る。勿論、他Vtuberも企業、個人問わず有名どころは片っ端からフォローしているので特別扱いしているとかではない。断じて。


「まーた、やたら美味しそうな料理画像あげよってからに」


 ひじきのサラダ、大根の味噌汁、鶏の唐揚げ。この人Vのくせにツイートがほぼ家事関係とかいう謎に所帯染みている。悔しいが滅茶苦茶美味そう。独り身に加えて、今の身体だと料理もせず出前に頼りがち。一応リハビリで身体を動かしたり、ちょっとしたストレッチも普段やるようには心がけている。今みたいな状態であったとしても、やはりぽっこりお腹が出たりするのは大変気になる。そういう生き物。人生悲観していても別段早死にしたいわけじゃあないし。


 そんな生活をしていると、こういう食事が逆に恋しくなってしまう。こんがりきつね色の唐揚げを見て喉がごくりと鳴る。今日の夕食は出前で唐揚げ、インスタント味噌汁にでもしようか。


――――――――――――――――――――――――――――

神坂 怜@kanzaka_underlive

今日の晩御飯

唐揚げは塩(こうじ)入れるのが個人的にオススメです。

(こうじ)チューブパックタイプがあって便利。

ついつい使いすぎてしまう。

美容効果も期待できるのでマイシスターも大喜びで嬉しいな。

pic.vitter.com/gohan

――――――――――――――――――――――――――――


「料理、か……材料なにいるんだろ」


 気の迷い。随分久しぶりに買い物に出かけて自炊しようなんて、きっと気の迷いだ。この人の配信を見るようになってからはこんなことばかりである。外出時にいつも感じるような憂鬱な気分には不思議とならなかった。


 指を切ってしまったものの、なんとかそれなりの出来にはなった。ネットで調べるとレシピは載っているし、彼の言うような麹を使ったものも容易に見つけられた。普段料理していないだけで、実は私この手の才能があるのでは? ふふん。私も捨てたものではないな。


「どや」


 どうせ見ないだろうと思い、彼に同じものを作ったという呟きを送ってしまう。これもきっと気の迷い。ただの自己満足。きっと今しがた飲んだお酒が悪いのだ。私一体何やってるんだろうか……と酔いが冷めた頃に後悔するものの、ろくにフォロワーもいないそんなアカウントには無縁のはずの通知マーク。


「ふえ……?」


 フォロワーが2人増えていた。そして『いいね』と『リツイート』が5件。どうやら彼のファンがさっきの私の呟きを見ての反応がこれらしい。


「お、おおフォロワーってやつだ。あ、また通知だ……は?」


――――――――――――――――――――――――――――

神坂 怜さんと他5人があなたのツイートをいいねしました。


あまりにも美味そうだったので同じメニューを作ってしまった。

ちょっと揚げ過ぎちゃったけど美味しかった。

塩麹はいいかんじでした。

pic.vitter.com/gohan2

――――――――――――――――――――――――――――


「ほ、本人じゃん」


 確かに本人にリプしたけれど、まさか当人から返信はないにしても『いいね』と『リツイート』してくるなんて……めーっちゃビックリした。心臓に悪い。むむむ。ま、まあ……このくらいはする人はいるし……



×月×日


 今日は何か知らんけどいつもより配信が荒れていた。ファンスレ見たら、社内情報をリークしたとか『いや、ねーだろ』みたいな大した証拠もない理由で燃えていた。ゴシップ系のVが火種らしい。あの人嫌いだから私ブロックしてたわ、そう言えば。


 正直見ているこっちが気分が悪い。何も言い返さないから余計に図に乗っているのだろう。言及したらしたで大騒ぎになるのは目に見えているが。


「ふん……」


×月×日


「……」


 らぎくんの3Dイベントにネット視聴参戦した。何かネットだとやたら畳畳連呼されているので、ついついそう呼びそうになってしまうなぁ……彼も(・・)事故に遭ったらしいが、幸い骨折で済んだらしい。私みたいなのにならなくて本当に良かった。


「エモじゃん。Tシャツ買っちゃおっかな、通販あるし」


 あまり部屋が取っ散らかるのはイマイチ気が乗らないが、今回くらいはいいか。いいよね。うん。部屋着買うだけだもん。


×月×日


 つらい。つらい。くそ。くそ。何なんだよ、本当に。どうして世の中は思い通りにいかない事ばかりなのだろう。


「――吐きそ……」


 胃の辺りがモヤモヤと熱い。朝から水分以外入れていないはずだが、吐き気のようなものを感じる。玄関の扉を叩きつけるように閉めて、残った理性でなんとか鍵とチェーンロックをする。小物入れのバッグをベッドに叩き付ける。


 防音設備のしっかりしたこの部屋に帰ってくると静かな1人だけの空間になる。一刻も早くあの人達の元を離れたいと感じて急ぎ帰宅したのだが、本来私に安心を与えてくれる筈の静寂の部屋。だが、家族(あの人たち)の声が脳裏に蘇る。


『そのザマのせいで台無しだ』

『使えなくなった』

『先方にどれだけ頭を下げたと思っている』


「――ッ……!!」


 視界が歪む。涙が溢れる。悔しい、悔しい。辛い、つらい……畜生、ちくしょう、ちくしょう。私だって、わたしだって、すきでこんな風になったわけじゃない……!


 それでも人よりもずっと裕福な暮らしを出来ているのは、あの人達のおかげ。それが余計に、尚更悔しい。ただ泣いて何も言い返せなかった。黙って言葉を聞いていた。そんな自分が情けなくて、情けなくて。尚更泣けてくる。


 ぐるぐると頭の中ではずっとその言葉が繰り返し鳴り響く。


 私はスリープ状態だったパソコンを文字通り叩き起こして、ヘッドホンを付ける。延々とループされるこの声を打ち消す誰か(・・)の声が聞きたかった。誰でもいい。誰でもいい。


 ――たすけて。


 こんな昼過ぎには誰も配信なんてやっているわけもないか、と。Yourtubeのマイページを開くと『ライブ配信中』の文字が目に入る。


「ぁ……」


 いつも通り。あいも変わらず落ち着いた口調。逆にそれが妙な安心感を与えてくれた。配信内容は視聴者からのマシュマロを読むというごくありふれた内容。とりたてて面白い事を言うわけでもない――いつも通り、何も変わらない。それに救われた気がした。多くの人はつまらないだとか、虚無配信だとか言うけれども確かに私はそれに救われたのだ。


 『嫌なことがあったけれど、いつも通りの配信で救われた』要約するとこんな感じの訳の分からない長文マロを送りつけていた。こんなん相手からしたら意味不明だし、ただのメンヘラじゃん……構ってちゃんとか変なのに目を付けられちゃったね、貴方も…………


「いまマロくれた人――」


 ドキリとした。送って僅か数十秒。あの長文晒されると『面倒なまんさん』みたいな風にまとめサイトとかに取り上げられたりするのかな。それで知名度が上がるのならば、慰謝料代わりには丁度良いだろう。


「少しプライベートな内容なので皆さんにお見せ出来ないのですけれど……辛い事があって、それで私の配信が心の支えになってくれているって言うのなら――こんなに嬉しい事はないです。あなたが『救い』と言ってくれているように、その言葉が。あなたが、いえ……視聴者の皆さんが私にとっての『救い』なんですよ」


 本当に嬉しそうに語る。妹や同じ所属Vの話題以外でこんな声色は聞いた覚えがない。


「無理に変わる必要なんてないですけど、新しく何かを始めると――意外と意識も変わってくるものですよ。私はVtuber始めてからは毎日が凄く楽しいですし。こうして皆さんとやり取り出来てるのが本当に嬉しいです」


 臭い台詞を堂々と本当に心からそう思っているだろうな、と思わせるくらいに真っすぐと正面きって叩き付けてくる。精々『頑張ってください』程度の簡単な言葉だけでも充分だったはずなのに。それなのに――


「無責任に頑張れ、なんて言葉私には言えないです。無理に頑張らなくても良いと思いますよ。きっと貴女は充分に頑張ってきたんですから」


 何故か知らないけれど、吐き気が消え失せた代わりに動悸がする。その上身体が熱い。私の事を何も知りもしない赤の他人の、配信以外繋がりらしいものもない。そんな人の言葉がどうしてこうも心に突き刺さるのだろうか。


「以前から言ってますけれど、辛いことがあったら逃げ出して良いんですよ。無理したって碌な事にはならないもんですよ。こんな私みたいなのが支えになれるのなら、何度だって相談に乗ります。また前に進めたら、そのときは教えて下さい。リスナーと皆でお祝いだー」


 これはきっと、この感情はきっと……気の迷いだ――。


×月×日

 休職していた前職に在宅ワークと言う形で復職することになった。人間関係が苦手な私にとっては好都合だった。Vtuberの配信を見る時間自体は減ってしまったが、それでも一日は前より充実しているとおもう。こっそりラジオ感覚で聞き流す程度に配信眺めたりはするのだけれども、それは内緒。


×月×日

 ボイス、と言うものに手をだしてしまった。気の迷い。酔った勢いもあったし。変なマシュマロを送ってしまったという罪悪感もあってか、そのお返しと言うか迷惑料みたいなものと取ってもらえると助かる。あの人スーパーチャットとか基本オフだし、メンバーシップ会員システムも利用していないし……そういう立ち回りはめちゃんこ下手糞すぎる。


「…………ま、まあ買ってしまったからには聞かないと……勿体ない……よね。うん……」


 ワイヤレスイヤホンを装着。小型オーディオ機器の再生ボタンを押すところで躊躇してしまう。なんだか急に恥ずかしくなって来た。ベッドに入って布団を頭から被って目を閉じて再生ボタンをタップする。



◇◆◇◆◇◆



 なんだこれ、なんだこれ。お前誰やねん。そういうキャラじゃないだろ、絶対!


「…………」


 女性向けコンテンツのドラマCDみたいだった。監修に妹ちゃんやハッスの名が上がっているのは承知していたが、こんなのは流石に想定外である。友達以上恋人未満的な距離感のそれ。明らかにお前私に気があるじゃん。身体がやたら熱いのはきっと布団を被っているからだ。それ以外に理由などあるわけがない。


 普段絶対に言わないような気障な台詞をごく当たり前みたいに、言うもんだから頭が混乱する。ギャップ萌えとかそういうのじゃない、これは明らかに私みたいなのをからかっているに違いない。なんてやつだ。実は裏ではこんな感じだったりするんじゃないか、おのれ。何という男だ。


「先月の奴もう販売期間終わってんじゃん……再販も未定……? は? なにそれ」


 バックナンバーを購入出来ないシステムはどうなんですかね、あんだーらいぶさん。そこんとこ早急に対応するか、再販をですね……仕方がない、来月のを買って検証してやろう。これは検証のためだ。


 その後3回リピートしていた。他意はない。不具合がないかのチェックだ。これは買い替えたばかりのワイヤレスイヤホンの性能チェックなの。絶対に。そうでもなければ気の迷いだ。きっと。


×月×日

 ボイスの感想をツイートしてみた。他意はない。或いは気の迷いだ。


 5分で本人から『いいね』された。はやいはやい。さ、流石は普段主夫状態なだけはある。平日昼間にこのレスポンス……恐るべし。まあどうせ内容もまともに見ずに、この感想タグ付けてる人全員に『いいね』しているんでしょうけれど。


×月×日

 彼の配信にコメントをしてみる。特に目立ったものではない。他の視聴者の人もしているようなごく有り触れたものだ。


「あ、――さん、先日はボイス購入ありがとうございます」

「――ッ?!」


 た、確かにアイコンやユーザー名はSNS上のそれと同じだ。ただそれほど多くはないとは言え、コメントが流れる中で認識されているという事実がどうにも気恥ずかしかった。慌ててディスプレイから視線を外すと、眼前には置き鏡。その中には顔が真っ赤になっている自分の姿。気の迷いよ、これは。絶対そう……


 こいつ、まさかSNSで関連ツイートしている人のユーザー名全員覚えているの……? ま、まっさかぁ……いや、こいつならやりかねんマジで。思い返してみれば確かにユーザー名を挙げてツイート内容絡めた挨拶みたいなものをよくやっているような気がする。この人、こっちよりホストとかが天職だったりしない? あとイケボ系のキャス主とか。


×月×日

 最近SNS上でやり取りする知人が出来た。以前料理ツイートの時にフォローしてくれた1人。ネイルの画像とかあげてるし同性っぽいのだが、普段の呟きを見るにただのキモオタにしか見えない。まあ私も大差ないのだけれども。



×月×日

 彼は妹ちゃん――雫ちゃんとコラボしていた。可愛いな。私も妹が欲しかった。性格の悪い兄は本当にいらない。こういう人が兄だったら私の人生どうなっていたんだろう。学校にテロリストやって来たみたいにあり得ない妄想。現実の兄は今の私を欠陥品と言う。


「羨ましいな……」



×月×日

 彼が猫を飼い始めたらしい。猫の名前を決めるだけの配信とかなんやねん。配信業舐めとんのか、ワレェ……


「んー、どうしたー? にゃー。ははは、くすぐったい。良い子、良い子」

「…………お、おぅ」


 ま、まあ今回は許してやろう。背中がぞわぞわした。き、気持ち悪いなぁ。もう本当に……巻き戻し機能がきちんと働くか試そう。他意はない。本当だよ?


×月×日


「バズってる……だと……?」


 『バズる以外大体何でも出来る』とかファンスレでもネタにされていたはずなのに、一体どういうことだってばよ。隠れた自分やごく一部の客しか知らないような名店が、テレビに紹介されてしまったようなものだろうか。嬉しい反面少し寂しい気もする。きっと人気になって視聴者数も増えれば今よりコメントを拾って貰えなくなるかもしれないし、視聴者との距離感が今よりもっと離れたものになってしまうのは想像に難くない。それがきっとVtuberである彼にとっての幸せなのだ。私は変わらず応援――じゃなかった、視聴するだけだ。ボイスもたまに買ってあげてもよくってよ。


×月×日

 バズったと思ったらすぐに冷めてて草。当人には申し訳ないけどちょっと笑っちゃった。こういうところ含めて実に彼らしいなって思う。昨日の私の決意かえして。


「仕方がないなぁ」


 仕方がないのでコメントしてあげよう。彼がそのコメントについて簡単に触れたのを確認して、ほくそ笑む。ふふん。もっと感謝なさい。



×月×日


 グッズを購入。即日完売していたのは想定外だったものの、販売開始直後にPCとスマホを駆使して鯖落ちする前にギリギリ購入することが出来たのである。ふふっ、在宅勤務の強みを見るがいい。ふはは――あー、今日中にあげないといけない書類がががが……


 ちなみにSNSで交流している知人の方も無事にゲットしたらしい。今度の同人誌即売会一緒に行かないかと誘われてしまった。この足で……私が行って大丈夫だろうか? 迷惑になるだけではないだろうか。


「……」


 昔の私なら断っていたかもしれない。気の迷いで私はその提案にホイホイ乗ってしまった。彼女がかつて友人だと思っていた彼らと同じようになってしまうのではないか――そんな不安感もある。でも、私は一歩前へ踏み出したかった。変わりたかったのかもしれない。


×月×日

 車椅子である事を告げた時の彼女の第一声が『ファイナル〇ァイトのラスボスのコスプレ?』だった。いや、そのネタ普通の人には伝わらないと思うの。らぎくんが結構前に配信していたから伝わると踏んだのだろうか。


×月×日

 同人誌即売会当日。とんでもない美人が居た。白を基調としたワンピースに麦藁帽子、やたらめったらキューティクルでつやつやの髪の毛。まるで清楚系アイドルみたいな、そんな感じだ。このむさ苦しい会場にも関わらず、汗ひとつ見せず涼しい顔をしている。しかも右に執事服の老紳士、左に男装の綺麗な執事さんを伴っての登場である。本人は「コスプレイヤー仲間。ロールプレイ」と言い張っているけれど、明らかに所作がガチモンのそれじゃん……朝から晩までSNSに張り付いてて何やってる人だろうと思っていたら、ガチのお嬢様だった件。ウチもまあ他所よりはそれなりに裕福な家庭だが、彼女の様子から察するに名家の令嬢みたいな雰囲気がする。そのナリで中身があれって実はこの人某ネット小説投稿サイトで流行ってるやつみたいにTSとかしてない?


 移動時には男装の麗人さんが押してくれた。いいにおいする。何この人。ドキドキしちゃう。老紳士さんの方は基本姿を消しているのだが、彼女が指パッチンするとどこからともなく現れる。貴女たちだけ世界観違くない? 出てくる作品間違えてないですか?


 後、外で「ワイ」とか「草」とか「処女厨」とか掲示板でしか見ないような単語を口にしないで欲しい。特にそのナリでやられると脳が混乱する。オタク特有の好きなもの話すとき早口詠唱するのはまあまだ目を瞑るとして。


 今回の目的はあの人のガワ担当――mikuriママのブースへ行くことにある。それが今回の1番の目的だった。後日同人誌は委託販売されるのだが、ママがブースに居ると聞いては行かなくてはなるまい。


◇◆◇◆◇◆


 mikuriママも酢昆布ネキも二人とも普通に可愛いし、綺麗だった。顔面偏差値どうなってんだ。私だけ明らかに浮いている。彼女に彼の事を好きだと伝えるとまるで自分のことみたいに嬉しそうに笑う姿を見て何となく彼と似ているなー、なんて思ってしまった。血の繋がりはない親子だけれどよく似ている。そういうのが羨ましく思えてしまうのは、きっと私の性格が悪いからだ。


 ――ちょっと前好きって言ったのはあくまでVとしてであって、他意はない。絶対に。


 女性客が何人かいるのを見るに、私と同じように引っかかる子がいるらしい。こんなちょっと顔と声が良くて、性格もそこそこ良くて、家事が出来て、面倒見が良いだけの男に。ホイホイ釣られすぎだ。人のことは全く言えないのだけれども。みーんな気の迷いだと思うとちょっぴり親近感。


 酢昆布ネキはシースルーのところが汗で完全に透けててヤバかった。本人は気付いていないのだろう。隣でmikuriママが必死に羽織るものを差し出していた。ちなみに、その後顔を真っ赤にしてバタバタ暴れまわっていたが、その時はこれ関連かなーって思ったけど後にこのようなツイートを見付けて合点がいった。


――――――――――――――――――――――――――――

酢昆布@新刊委託予定@sukonbu_umaiyone

今回のコスプレは雫ちゃんだよ

恐らく業界初だな、うん

レース部分の再現が死ぬほど大変だった模様

vuploader.vom.jpg

――――――――――――――――――――――――――――

神坂怜@親戚の集まりで肩身が狭い系V

綺麗ですね。

とても似合っていると思います。

ですが本物も負けず劣らず可愛いのです。

――――――――――――――――――――――――――――

mikuri@C9X 2日目 東ス20β

めっちゃ顔真っ赤にして照れてて草

――――――――――――――――――――――――――――


 お前さぁ……本当、そう言うところやぞ。


 ちなみにこの後それなりに叩かれていた。まあ、アンチにはいい餌だったろうし。なんか少しくらい叩かれても良い気がしてきた。いや、流石にアンチの肩を持つわけではないけれども。何となく気に入らないのである。もっとも、彼からしたら文字通り最愛の妹ちゃんのコスプレをしていたという点が何より大きいのだろう。今度私もコスプレして写真送ってやろうか? 同じように褒めてくれるんか、ワレェ……


 今日は久しぶりに喋り疲れるくらいに会話を続けた気がする。たのしかった。一緒に回った謎のお嬢様と冬も一緒に行こうって約束してしまった。その頃には奇跡的に回復して杖で歩けるくらいにはなったりしないだろうか。少しだけ前向きになれた気がする。


×月×日

 VertexとかいうFPSゲームをしてみる。最近流行りだからだ、他意はない。

 

 なんだこれ難しい。え? そもそもトラックボールマウスでFPSって駄目なの? 


「え? 使ってるマウスですか? えーとGの50なんとかって奴だったと思います」


 ほぅ、そうかそうか。密林で同じ型式のものをポチってみる。気の迷いでもなんでもない。100時間以上使っている配信者が使いやすいとコメントしている商品を買うだけだ。お揃いとかそんな事微塵も考えてなどいない。


×月×日

 このゲームの訓練場に10時間ぶっ通しとかやっぱあたおか。20分くらいでもうお腹一杯なんだけれど……? 私ですらあの枠仕事しながらのBGM代わりに聞き流していた程度。内容もほぼ雑談である。コメントを適宜拾ってくれるから先日みたいに使っているマウス――機材などの質問も答えてくれた。ああいった長時間配信を時折やっているのだが、体調とか大丈夫なのだろうか?


×月×日

 ルナちゃんの凸待ち配信。開始5分経っても誰も来ないものだから、肝を冷やした。結果としては良かったんじゃないのかな、うん。推しが幸せなら全然オッケー。ぐすん、泣いてなんかない。


×月×日

 Vertex大会。練習の成果を出せて、表じゃ最初ボロカスに言っていたのにテノヒラクルーである。ふっは、ざまあああああ! 私は最初から最後までずっと応援してましたぁ。と心の中でそういう人たちにマウントを取る。彼――彼らが褒められていた大会の配信枠やSNSをチェックしているとついついにやけてしまう。そうだろう、そうだろう。私の目に狂いはなかったのだ。


×月×日

 あの人、今度はmikuriママを泣かせる。字面だけ見ると酷いが、彼の誕生日プレゼントに心を打たれたらしい。涼しい顔で人の心の深いところにズケズケ入ってくるよね、あの人。ネットじゃ「短期間に女性2人を泣かせた」として、変に話題になっていた。ちなみに私も泣かされている。本当に……ほんとうにひどいひと。





◇◆◇◆◇◆





×月×日

 あ゛?!


以前要望があったリスナー視点のお話。

気の迷いお姉さん(仮)

やたら長くなってしまった。

反応を見て好評なら今後掲示板でid固定で出すかも


よくありそうな質問

Q:どうしてリスナーまで拗らせる必要あったんですか?

A:かくのたのちい!


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― 新着の感想 ―
駄馬ァ!!
今まで読み進めて来た中で唯一ほぼ明確に主人公の事が好きなキャラ出て来たな これでただの閑話キャラなの勿体無い 主人公が幸せにしてあげてほしい
ガチ恋ネキじゃないですか! ってことは駄馬って、、、え!?
感想一覧
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