11話 初オフコラボ 時々雨
5月×日
ニヨニヨ動画のリアルイベントの代打も何とか乗り切ったのだが……いや、あれ乗り切ったって言えるのだろうか? 何かただのファン交流イベントでなく地域市民相談コーナーみたいなノリだったのだが。運営サイドからは「あの……お、お疲れ様でした」と妙な含みのある労いの言葉を頂いてしまったわけで。
「いやぁ、お疲れ様!」
柊先輩おるやんけぇ! 声ですぐ分かる。いや、そら同じ案件で私の1枠前だから鉢合わせしてもおかしくはない。
「めっさ警戒されてるぅ?!」
「いや、スミマセン。背後から急に声かけられたので……」
思わず身構えてしまった。パッと見た印象は……何というか絵に描いたような大学生だ。普通なら絶対に関わりあう事のないタイプ。髪色はブラウン、パーマという漂う陽キャ感がすごい。穴だらけのジーンズは若い子的にはオサレなんだろう。私には分からない感覚である。顔は普通にイケメンさん。年上の女性ウケの良さそうなヤンチャ系というやつだろうか。少し目を引いたのが服装と微妙にちぐはぐな印象を受ける腕時計。昨今の若者が身に着けるにしては随分と厳つい感じがする。
「と言うわけでオフコラボしようず」
「何の脈絡もない?!」
「ここで会ったが100年目、そんな感じのあれそれ」
「何の説明にもなってないような気がするんですが、それは……」
「ディスコにウチの住所送っておくから、都合の良い日連絡頂戴」
「え? 自宅ぅ……!?」
というわけで自宅にお呼ばれしてしまったというわけです。オフコラボは事務所スタジオを使うことが多いのだが、その場合スタジオの空き状況と演者の日程両方合わせなくてはならない。自宅に人を招ける状態かつ、複数人で配信できる環境であるならば余計な手間もなく楽ではある。
菓子折り持っていかないと。
5月×日
「なぁにこれ……?」
柊先輩の自宅を前に思わずそう呟く。高層マンション(エントランス+コンシェルジュ付き)という物件である。ドラマとか漫画で見たことあるやつだ! ってちょっとわくわくしちゃったのは心の中で留めておいた。アラサーだからね、はしゃいじゃったら恥ずかしいじゃない。
「らっしゃーい」
上下ジャージと言う割とラフな格好で出迎えられた。そのくらいの方がこちらとしても気楽で良い。
「お邪魔します。あ、これ良かったらどうぞ」
昔からの馴染みの老舗和菓子店の菓子折りを渡す。味も見た目も最高の逸品だ。
それにしても広い。3LDKはありそう。ここに一人暮らしとは流石トップVtuber。まぁ、それだけではないとは思うが。先日目を引いた時計がブレスレット用クリーナー、マイクロファイバーと共に棚に置かれていて、すこし見ればそれが某有名時計メーカーのそれと分かる。文字盤を覆うガラス内に王冠のマークが彫り込まれている。コピー品のそれとは違う。恐らくは彼のご両親、祖父母からプレゼントされたものなのではないだろうか。彼の持ち物の中でこれだけが趣が違う。にも拘わらず外出時にはそれを身に着け、自宅でもしっかり手入れする程それを大事にしている。あくまで予想でしかないのだが、ご実家が滅茶苦茶お金持ちなのではなかろうか。
「ご丁寧にどうもありがとう。で、何しようか」
「ノープランで告知までして大丈夫だったんです?」
「まぁ何とかなる。そんな堅苦しく考えなくても良いんだよ。基本俺たちが楽しまなくちゃリスナーも楽しめないから。もちろんある程度の節度は大事だけど」
「うちの箱その辺曖昧な人多くないですか……」
「確かに、ワイトもそう思います。アウトとセーフの境界線上を反復横跳びしてる奴が多すぎる」
いや、多分貴方もそうなんですけど……とは面と向かって言えなかった。最近は案件やらリアルイベントやらで忙しくて柊先輩や後輩ちゃんズの配信をあまり視聴出来ていないが、先日偶然見ていた彼の配信では性具で大はしゃぎしていたのだ……
と言うわけで少しの間議論した結果マシュマロの質問回答、雑談という割とありきたりな結論に至った。基本的にオフコラボ配信というのは既存ファン向けだと個人的には思っているので、少し踏み込んだ話をするのが視聴者としては嬉しいのだろうという考えである。私は兎も角として柊先輩のファンは多いし、普段マシュマロ読む配信もそんなにしないのだとか。募集を告知して配信予定時間の約1時間で1000通に近いマロが届く。すげぇ。
「というわけで、今日は俺の部屋でまったりと炭酸抜けたコーラ飲みつつマシュマロを食べていくぞ」
「柊先輩の部屋めちゃくそ広いですね」
[いえーい、神坂君みってるぅ?]
[┌(^o^┐)┐ <酢昆布>]
[↑そのネタ古くない?]
[Σ(゜ロ゜;)!! <酢昆布>]
・妹ちゃんが彼氏連れてきたらどうするん?
「えっ……そんなのあるわけないじゃん」
「まず相手の素行調査ですかね、きちんと妹に相応しい男か判断して。問題なければ認めます。妹の幸せが1番ですからね」
[畳、妹が彼氏紹介したら卒倒しそう]
[その素行調査含めた審査めちゃくそ厳しそうなんですが?]
[シスコン]
あらゆる面で私より秀でていて顔良し、性格良し、後は安定した収入がある。これらの点を越えてもらわないと。最後の1点のみは在学中のみ免除するものとする。いつかはお嫁さんに行っちゃうと思うとお兄ちゃん悲しい。立ち直れるかなぁ……?
・好きな食べ物
「俺は肉。妹はチョコケーキ」
「お好み焼き。妹は甘いもの全般。最近はパンケーキ推し」
女の子はやはり甘いもの好き。はっきり分かんだね。ふむ明日にでもチョコケーキ作ってみようかな。甘さ控えめでビターな感じに仕上げてみるか。
[隙あらば妹語り]
[こいつら何さらっと妹の情報まで出してんだよw]
[妹情報助かる]
[スイーツ好きか。妹ちゃん篭絡するにはそうすればいいのか、うんうん <酢昆布>]
「柊先輩の枠なのにさらっと酢昆布先生交じってるのなんなの……?」
「普通にコメントしてたからさっき慌ててスパナ付けた」
[わこつ、初見です <酢昆布>]
[古い]
[いや、それ違う動画サイト……]
そう言えば元々ニヨニヨで作業配信とかしていたんだっけか。
「そう言えば、お昼どうします? 何か出前取りますか、それともどっか食べに行きます?」
彼の問いにふと最近届いた配信要望のマシュマロを思い出す。
「――それに関しては1つ提案があるんですけど」
◇◆◇◆◇◆
あんだーらいぶを語るスレ XXX配信目
520 名無しのライバー ID:opXOunMRq
畳と脱サラのオフコラボとはな
521 名無しのライバー ID:hqEHWQbOm
しかも畳自宅
腐女子大歓喜ですわ
522 名無しのライバー ID:SisterChan
男同士、密室、オフコラボ
何も起きないはずがなく
523 名無しのライバー ID:mVlQTVdhA
普通に妹カワイイヤッタートークしかしてない件
524 名無しのライバー ID:p5rurGQ0E
畳「最近妹が可愛い」
脱サラ「わかる。年中可愛いけど、最近特に可愛い」
525 名無しのライバー ID:42Hm/eORj
脳死妹トークがメインなの流石に草
526 名無しのライバー ID:cnapCyvB2 >>527
女性ファンはそれでええんか……?
527 名無しのライバー ID:O9U0z/y01
>>526
女性ファンは自分を妹に置き換えてるから大丈夫
ハーレム物の作品見るとき主人公を自分だと思う、あれと同じや
528 名無しのライバー ID:M7jRoFDLk >>529
先日リスナーからのプレゼントまとめて届いたけど
チェック漏れのTE〇GA入ってて大興奮してた畳じゃないか
529 名無しのライバー ID:v7GUZ11lG
>>528
草
530 名無しのライバー ID:dOG7Ihtf3 >>531
使用感をレビューする配信を予定するも、社長に取り上げられる
531 名無しのライバー ID:jf39EM/RE
>>530
何やってんだよ、社長ォ!
532 名無しのライバー ID:uxBVa19cY
包装されているとは言え、ナニあるか分からんしな
533 名無しのライバー ID:MF/0OCSCK >>534
オ〇ホ(TE○GA)がプレゼントに紛れ込む
↓
畳「ひゃほぅ! レビューだぁ!」
社長「チェック漏れ、それ没収」
畳「ファッ?!」
↓
畳「これは運営の暴虐だー」
↓
レジスタンス結成宣言←いまここ
534 名無しのライバー ID:M6iV8XOVJ
>>533
自分の金で買ってすればいいのでは……?
535 名無しのライバー ID:tjNFxYeMv
レジスタンス宣言する割に今月公式からグッズ売りますよね……?
536 名無しのライバー ID:UeQ4kIpAA
公式の案件もグッズも箱内トップクラスに多いんだよなぁ
537 名無しのライバー ID:Q5ZB9RPsf
畳「運営に不満あるよなぁ?!」
脱サラ「担当マネ見るに、スタッフの負荷が多いように感じる。対応すべき」
畳「そ……そ、そーだよぉ」
538 名無しのライバー ID:rXlQCwD4S
マネージャー兼任多いんだっけ?
539 名無しのライバー ID:BIBa9bi/F
この2人のマネは同じだとか
540 名無しのライバー ID:puT54e+y0
なぁ、それって畳が仕事増やしているだけでは……?
541 名無しのライバー ID:AUO6T2T5Y
あっ……(察し
542 名無しのライバー ID:5mnKPj8wL
最後絶対心当たりあるから言葉濁しただろww
543 名無しのライバー ID:+8Rh8527C
お料理配信きちゃー
544 名無しのライバー ID:LqiQttzY2
脱サラは料理出来るらしいし、リスナーに前からやれやれ言われてたしな
545 名無しのライバー ID:fOTBt3kKc
脱サラ→調理
畳→応援
546 名無しのライバー ID:E6BOPnrvh
まぁ家主だし多少はね……?
547 名無しのライバー ID:O+I8ZkZja
妹ちゃんが面倒見に来るから冷蔵庫に食材は豊富な模様
548 名無しのライバー ID:vs6zNWztP
妹に面倒見られる兄
妹の面倒見ている兄
この差よ
549 名無しのライバー ID:dAmtHeDhZ >>550 >>551
タイプは違うけど両方ブラコンだと思う
550 名無しのライバー ID:threadXXA
>>549
妹じゃなくて彼女説は未だあるけどな
551 名無しのライバー ID:SisterChan
>>549
ブラコンは解釈違い
552 名無しのライバー ID:QEk0RVye6
大根の葉っぱ捨てずに使うとかお前は節約主婦かよ
553 名無しのライバー ID:OtEi5zamr >>554
人の家来て煮物作る奴ww
554 名無しのライバー ID:8w6LSJts0
>>553
圧力鍋使いたかったみたいやししゃーない
555 名無しのライバー ID:IGfILCU0B
お高い圧力鍋見て滅茶苦茶テンション上がってたの草
556 名無しのライバー ID:/fJIGkl0z
大根の葉を炒ってフリカケ作る系Vtuber
557 名無しのライバー ID:FUFqMZGvf >>558 >>559 >>560 >>561
ttp://xxx.lunch.jpg
普通に飯テロやん
558 名無しのライバー ID:9IdB8bUb9
>>557
脱サラ再評価
559 名無しのライバー ID:yoq6ZzYB9
>>557
くっそうまそうなんだが
560 名無しのライバー ID:Js8Lpp1Rb
>>557
田舎のオカン思い出すわ
しばらく連絡してなかったし電話しようかな
561 名無しのライバー ID:o6gIV+igf
>>557
ええなぁ
実家離れるとこの手の料理が恋しくなるのはわかる
562 名無しのライバー ID:27OJlLgAx >>563
毎日料理動画撮って投稿しろ
主婦層の人気を狙っていけ
563 名無しのライバー ID:YGPfBTFi5 >>564
>>562
Vtuberだから料理中の動画使うのも難しいんだよなぁ
キッチン周りなんて顔映り込む危険性が高すぎる
564 名無しのライバー ID:D9wPK0Qrm
>>563
あー、そうか普通の配信者ならええけど
リアルの手元すら映すの問題ありそうだしなぁ
565 名無しのライバー ID:cei4j2Q/B
今回は2人だったから片方調理、片方実況で成り立ってたけど
1人だと難しそうだよなぁ
566 名無しのライバー ID:t3x5ltr1z >>567 >>568
もういっそ2人で同棲して毎日料理配信すれば良いのでは??
567 名無しのライバー ID:SisterChan
>>566
そ れ だ !!
568 名無しのライバー ID:MoBthread
>>566
代わりに妹ちゃんは2人同棲配信させよう
569 名無しのライバー ID:vpqtB3wCy
男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの
今回の妹ちゃん
「お兄ちゃんいないからおやつない(´・ω・`)」
◇◆◇◆◇◆
???
学校の予習と復習、宿題を終えベッドへとその身を投げる。枕の脇に置いてあった携帯を手に取る。自分のチャンネルを開く。ここ一週間で500人も増えていない。一方で同時期にデビューした幼馴染の親友は3000人以上も増えている。
SNSに宿題終えて疲れたという他愛ないツイートをする。どんなに少なくとも1日2回朝晩に無理にでも話題を作ってツイートする。それが自身に課したノルマだった。本業は学生だったとしてもこれは仕事なのだから誠意をもって臨まないと、これまであんだーらいぶを大きくしてきた先輩たちに失礼だと思ったから。
続けてマシュマロを確認する。受信ボックスの1番上そこには、いつものように彼女の名前。「ルナちゃんとのコラボはいつですか?」そんな他愛ないごくごく当たり前のファンからのコメントが何故だか苦しくなる。
「この前のルナちゃんとのコラボ楽しかったです」
「ルナちゃんとの絡みてぇてぇ」
「ルナちゃんが――」
耐えかねてさっきのSNSの反応を確認するが、そこにも彼女の名前。現実から逃げるようにホームボタンを押すと、飾りっ気のない初期設定のままのホーム画面。暫く動けずにいると、やがてバックライトが消え真っ暗のタッチパネルに自分の顔が映っていた。
化粧っけもなければ可愛げもない、ますます嫌になる。あの娘とはまるで違う。いつだってそうだった。自分はただのオマケ。添え物でしかない。あの娘の、ただあの娘と仲が良いだけの――それ以外に何もない。でも……それでも…………
誰でも良い――
「あたしを見てよ……」
その声は誰にも届かず、ただ宙に消えた。溢れた涙は枕に流れ落ちた。
そして、あたしは瞳を閉じた。
その日もあまり眠れなかった。