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律儀ってだけ

「予算2万でおすすめないですか?」

「あぁ? だったらこの剣がいいんじゃないか?」


 おはよう。僕は親切な犯罪者にもらった金で武器を買いに来た。


 とりあえず宿の近くの武器屋? に来たんだけど、どの剣にしようか悩んでいる。

 これから命がけの仕事をしていくことを考えると、武器選びも慎重になるよね。


 ……あれ? 危なくない? この仕事。

 僕は何で冒険者になったんだろう。やっぱり少し稼いだらこの国出ようかな。


「お嬢ちゃん、魔法は何を使うんだ?この剣は魔力の通りがいいし、割と安いぞ」

「僕魔法苦手なので、扱いやすくて頑丈な剣が良いですかね」

「そうか。そしたらこの三本かなぁ」


 自分の魔法の説明とかめんどくさいし、苦手と言ってはぐらかした。

 いつか良い剣を買う時に説明しよう。

 今は時間があんまり無い。


 山賊のような見た目とは裏腹に、店主は親切な奴だった。それに加えて、宝石を触れるかのように丁寧に武器を扱う手つき。埃を被った武具は店内に一つもない。悪い店ではないんだろうと思った。

 

「まずこれ、長さはお嬢ちゃんにはちょっと長いかもしれないけど⋯⋯とにかく、頑丈だぞ。1万8000。次にコイツだ。サイズも重さもちょうどいいと見える。ただ少し予算オーバーだな。2万4000だ。防具も買うならよく考えなきゃな」


 オッサンは剣を眺めながら説明する。


「最後に、この剣。大分お値打ち品だ。炎の低級魔剣。もちろんこの価格だから威力は低いが、魔剣入門にはちょうどいいな。2万だ」


 悩むなぁ。どれも値段の割にいい剣のように見える。防具の事を聞いた後にまとめて買おうかな。


「ありがとうございます。それと、防具のおすすめも教えていただいてもよろしいですか? 予算2万で、できれば革製のものを」

「2万か。全体を覆うようなものは予算が足りてねぇから、とりあえず胸と腕、脛あたりの鎧でいいか?」

「はい、腕と胸で1万ずつで何かありますか?」


 おっさんは手際よく防具を並べた。

 リッちゃんとの待ち合わせの時間を確認する。

 腕時計を無くしちゃったから武器屋の掛け時計を見た。

 はぁ……腕時計、魔道具で値段も高いから当分買えないな。

 

「腕は小手に質の良い鉄が付いているコイツと、サイズがぴったりなこれだ。胸は——うーん、これしかねぇな」


 僕の身体は細いから、いつも防具選びに苦労する。

 今回も例に漏れず、あまり選べる感じじゃないみたい。


 防具を見終わった後、剣を素振りさせてもらったり、握り心地を確かめた。

 おっさんと下らない会話をしながら、あーでもないこーでも無いと悩む時間は楽しかった。

 少し仲が良くなったところで、そろそろ時間だ。


「色々教えていただいてありがとうございます。この剣と、それとそれ下さい」

「はいよ、ありがとうな。嬢ちゃん魔法苦手って事は身体強度低いのか?装備揃うまであんまり無理するなよ」

「気をつけますね。また生きて帰ってくるからよ」

「うるせぇ」

 

 僕の魔力量は割と多い方。魔法量=存在の頑強さに繋がるこの世界だと、冒険で鎧を着けないヤツは強者のオーラが出ててイケメン感が出る。


 魔力が多いと、身体強化の魔法で鎧より硬い体になれる場合もある。

 そうなると鎧は単純に重くて邪魔なんだろうね。


 ただ僕はビビりなので胸当てくらいは最低着けておきたい。


「じゃあの」

「毎度あり、また来いよ」


 料金を支払い、僕は店を出た。

 大通りは目が回りそうなほど人が多くて、視線を逃すように空を見上げた。


 ⋯⋯それなりに良い買い物ができた。僕が買った剣はサイズのちょうど良い剣。魔剣もいいなと思ったけど、なんか使い方よくわかんないしいいかな。

 

 防具は鉄のついていない貧弱なヤツ。装備が重いと剣振るの大変なのよね。


「——あれ? スーちゃん? スーちゃんか?」


 お、リッちゃんだ。


「よおリッちゃん! 俺俺、スーちゃんだよ。」

「え? スーちゃんだよな? 髪染めたの?」


 あ、日替わり魔法の事コイツに言ってなかった。説明が面倒だ。


「僕さぁ、日替わりで魔法変わる体質なんだよね。だから髪色も毎日変わるんだよ」

「え!? 本当か。変わってんなスーちゃんは」


 リッちゃんの髪色は灰色。目も灰色。という事は、固有魔法は一つ。操作系、もしくは空間系の魔法持ちだということが窺える。


 持ってる魔法によって、髪色や目の色は変わる。たまに固有魔法を悟られないために染める人もいるけど、魔法を使うと色が強制的に地毛の色に戻るから、あまり髪を染める人はいない。


「変わってるでしょ? 結構困っててさぁ」

「大変だな。でも、その髪色も似合ってる」

「そう? ありがとう。じゃあ行こうか」

「ああ、楽しみだな!」


 コイツの会話テンポの良さは恐ろしさすら感じる。

 彼女と歩きながら街を眺める。

 知らない景色ばかりで、好奇心をそそられる物も多い。


 景気の良い人が多い印象の場所だ。活気があって、笑顔が多い。治安も良さそうだし、しばらくはここら辺を散策して過ごすのも良いかな。


 隣を歩くリッちゃんから、やたらと見られている事に気付いた。彼女と目を合わせる。

 

「スーちゃん剣買ったの? あ、防具も」

「うん、良い買い物できて良かったよ」

「あれ? でも金なかったよな?」


 首を傾げながら僕の装備を指差すリッちゃん。


「夜に女の人からお金もらったんだ」

「え!? 娼館で働いてるのか!?」

「ちげーよ。女の人と一緒にお茶してたらお礼にお金くれた。」

「なんだ。まあ、変なやつには気を付けろよ?」


 そうだね。特にお前には気をつけようと思う。


「リッちゃん今日はどこ行くの? 狼狩りって言ってたけど」

「門出て20分くらいの森」

「あ、結構近いんだ」

「そうそう。日帰りの依頼よ。準備はいいか?」


 準備は出来ていない。どう考えても。


「⋯⋯大丈夫。どこまで行くか分からなかったから、リッちゃんと食料とか鞄とか買いに行こうと思ったけど手間が省けたよ」

「やっぱり依頼変えて良い? こっから一日かかる山に魔獣が出てるんだって。早く退治してあげないと」

「やだよ。帰ってきたら一緒に買い物しようね」

「よし。じゃあとっとと退治しに行こう」


 どうなるかは分からないけど、リッちゃんの様子を見るに楽そうな仕事だ。そんな事を考えていると——


「うぉ」


 急に服を引っ張られた。振り向いても誰もいない。スリか? 僕から取れるものは小銭と命くらいだぞ! やめておけ。


「——黙っていてくれてありがとう。意外と律儀なのね」


 金を盗まれてないか確認していると、耳元で囁かれた。ヒエ!? 透明人間!?


 ⋯⋯いや、恐らく昨日の魔女だ。彼女は僕の服のポケットに素早く小袋を突っ込んだ。


「おーい、スーちゃん大丈夫?早く行こう」

「うん、行こ行こ」


 何事も無かったかのように装う。あの魔女、タイミングが悪すぎないか?

 

 しばらくリッちゃんと歩いていても、魔女に話しかけられる事も無く、門の付近まで辿り着いた。

 恐らく彼女は去っていったのだろう。⋯⋯多分。やっぱり見えないって怖い。


 コソコソとポケットの中で貰った小袋を開ける。チラッと覗くと、そこには3000フロスタが入っていた。


 魔女って意外と律儀なのね。

今日も一日お疲れ様でした!

皆ちゃんと寝ようね。

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