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冒険者は見た

「じゃあ、明日はよろしく」

「じゃあの」


 ギルドの手続きが終わったので、リッちゃんを起こした僕。リッちゃんは本当に親切な奴で、わざわざ僕を宿まで案内してくれた。

 去り際も実にクールで、下手くそなウインクを僕に飛ばしてくれた。

 

 明日は仕事で朝早くに起きないとならないし、とっとと寝たい気分だ。


 少しばかり緊張しながら、宿に入る。

 落ち着いた雰囲気の紳士が僕に頭を下げた。


「——いらっしゃいませ。本日は、お一人様のご利用でしょうか?」


 イケてるオヤジ、イケオジが僕にイケてる声で尋ねた。


「はい、一人です。部屋は空いてますか?」

「はい。一泊3000フロスタとなります」

「食事はつきますか?」

「朝食は無料で提供しております」

「ありがたい。泊まらせてください」

「ありがとうございます」


 随分と質の良い宿だ。正直リッちゃんが宿を間違えたのかと疑っている。

 天井が高く、壁紙も新しい。調度品も綺麗に磨かれていて、シャンデリアの光に当たって煌めいている。

 僕は貰った金が多かったのか、この宿が特別安いのか分からなくなった。混乱しながら料金を支払う。


「ではお客様、こちらにご案内致します。」

「お願いします。」


 宿の3階、角部屋の前まで案内してもらって、鍵を受け取った。部屋の位置が当たりだ。地味に嬉しい。


「では、ごゆっくり」

「ありらとう、ござます」


 宿で寝られるという安心感からか、思いっきり噛んでしまった。

 すぐに扉を開け、部屋の様子を見る。久しぶりのまともな宿だ! これだけで充分はしゃげる。


 僕はさっそく荷物を置こうとするが、当然そんなものがないことは気づいている。

 とりあえずなんとなくクローゼットを開けて、直ぐに閉めた。そして、



 ——ふぅ。所持品ゼロはやばい。



 急に冷静になってしまった。


 明日は狼退治だというのに、よく考えたら武器も防具もない。

 日替わり魔法によっては大分やばい展開になりそうだ。


 ただ、焦っても仕方ないし金もないし、どうにもならない。リッちゃんも僕が所持品ゼロのクズだって事は分かってるはずだし。

 まあ、明日になって見なきゃ分からないか。って——


 「えあ!?!?」

 

 窓の外に、ホウキに乗った女が浮いていた。しかもソイツと目が完全に合ってしまった。猫目の美人だ。

 

 ⋯⋯ここは3階のはず。よく考えると浮いてる時点で何階でも同じだけど、だからなんだというのか。少し混乱した。

 

「——私が見えているのね。窓を開けなさい」


 窓を素直に開けた。このプカプカ浮いている猫目の美人さんは、とんでもないことをしそうな雰囲気がするので怖い。

 もし窓が割られたりでもしたら、僕は悲しい。こんな高そうな宿の窓なんて、弁償できないからね。


「お邪魔するわよ」

「いらっしゃいませ」


 女は部屋に音もなく入ってきた。魔女っぽい格好の猫目の美人で、赤い宝石のついた杖を持っている。


「ねぇ⋯⋯何故私が見えているの?姿隠しの魔術を使っているのだけれど。」

「今日は目がよく見える日なんだ。見えすぎて今とっても困ってる。」


 今日は超視力の魔法、魔法で阻害してるものやトラップを見破る魔法だった事を忘れてた。

 勝手に発動するのは便利なんだけど⋯⋯


「ふぅ〜ん、ちょっと様子見に来ただけだけど、元気そうね」

「まあまあ元気かな。あ、聞いてよ。昨日さぁ、魔女が暴れてて大変でさぁ」


 とりあえずなんか話しとけ。不審者に必死に話題を降ったが、感触が悪い。

 女はじっとこちらを見つめ⋯⋯そのあと、気まずそうに視線を逸らした。


「ちょっと、なによ。お詫びしろっての?」

「お詫び? よく分からないけど、もらえるものはもらうよ。金くれない? 金」

「お金? ⋯⋯いいけどちょっとよ。私も余裕ないから」


 え? くれるの? この国、心配になるくらい良い人多いな。黒いローブの中をゴソゴソしている女を尻目に、僕はとある事を思い出す。


「——あ、オメー門焼いた魔女じゃん」

「え? 気づいてなかったの?」

「いや? 気づいてたけど? ん?」

「そ、そうなの。凄いわね」


 自尊心を守りきった僕は、このクソ強い&怖い女に早く退場して頂きたい気持ちでいっぱいだったけど、さっき金をくれるとコイツは言った。だから——引けない。


「なあ、君、僕の荷物知らない?」

「ごめんなさい。知らないわ」

「そっか⋯⋯明日の朝、警官系のお仕事の人と会うんだけど、一緒に来る?」

「ごめんなさい、行かないわ」

「そっか。名前は何ていうの? 年収は?」

「名前は言えない。年収は分からないわ」


 そう言った後、彼女は僕にお金の入った袋を渡そうとして⋯⋯止まった。


「あの⋯⋯私がこの街にいる事、黙っててくれない?」

「いくら入ってるの? その袋」

「5万フロスタだけど」

「あと3000フロスタ入れてくれない?」

「私もう手持ちがないの⋯⋯」

「ふーん、そうなんだ。じゃあいいや」

「あ、明日までに、その、必ず持ってくるから!」

「うん。とりあえず魔女さんのことを一切誰にも言わなければいいの?」

「そ、そうよ!お願いね。頼んだわよ」


 お安い御用だね。


「良かったわ。良心のカケラもない子で。⋯⋯貴女みたいな子を消すのは心苦しいから」


 お安い命だね。コイツやっぱヤベーやつだわ。

 魔女は僕に金の入った袋を渡した。それを震える手で受け取る。


「じゃあ、また明日同じ時間に来るわ」

「うん。気をつけて帰りなよ」

「ええ、それじゃあね」


 魔女は窓から静かに去って行った。

 なんだかよく分からないけど、お金のおかげで心が温まった。今日は疲れたしとっとと寝よ。


 窓をピシャリと閉めて、ベッドにダイブした。

お疲れ様です!

ありがとうございます。

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