表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

うっかりさん

「——こちらの空欄にお名前を」

「は〜い。ここ??」

「違います。そこは私の手です。」


 こんばんは。

 ちょっと、いや、かなり飲み過ぎた。視界も手元もブレる。

 リッちゃんが潰れて暇になった僕は、ノリで冒険者ギルドのメンバーになるべく手続きしている。


 受付嬢の説明によれば、僕がすぐ出来るような仕事は大体冒険者ギルドの管轄だった。

 やや興味の惹かれた商業ギルドは試験が沢山あって、その試験も半年後らしい。そんな事はやってられない。早々に諦めた。


「すみません、視界が歪んで……」

「大丈夫ですか? 休みますか?」

「頑張る」


 現在、書類記入中。酔っ払っている奴が手続きしても良いとは。このギルドは寛容なのか、ヤバいのか。


「ありがとうございます。では、審査を始めます」

「おん」

「性別と名前、年齢を教えて下さい」

「男です。名前はスミレ。年齢は二十歳は⋯⋯たぶん過ぎてると思います。細かくは分かりません」

「すみません、正直に答えて頂かないと登録できませんので」

「本当のことなんです!」


 すったもんだの後、受付嬢が審判魔法を使って質問する事になり、僕の言っていることが正しいと判明した。

 受付嬢ともなると、装置いらずで発動できるのか。凄い。

 それともこの人が珍しいのかな?


「決めつけてしまってすみませんでした」

「よくあるんで、大丈夫」

「ありがとうございます。では、続きよろしいでしょうか?」

「良いよ」


 早く終わらないかな。時間を確認しようとするも、壁にかけてある時計が少し遠くてよく見えない。

 肩を叩かれることで、目の前の彼女に意識が戻った。


「——大丈夫ですか? 固有魔法を教えてください」

「日替わり魔法です」

「えっと?」

「日替わりで使える魔法が変わります」

「⋯⋯はい、本当のようですね。とても珍しいです。こちらの固有魔法は、行使する際にご自身で内容を把握出来ますか?」

「はい。日が変わる時刻か、日を跨いで寝て起きた時に⋯⋯えーと、魔法名とぉ、簡単な能力の説明が頭に浮かびます」

「それは良かったです」


 何かが良かったらしい。確かに、内容も分からない魔法となったら怖くて使えないだろうけどさ。

 彼女は書類に何事か書き込むと、顔を上げた。質問責めはまだまだ続く雰囲気だ。

 

 これじゃあ、いけないね。審査落ちちゃうよ。

 頭を振って、少しでも酔いを醒まそうとする。気持ちマシになった頭が回転を始めた。


「主に使用する武器や、得意な戦闘スタイル等はありますか? パーティ募集の際に、相性の良い方を紹介できますので」

「武器は片手で扱える剣と弓矢を主に使ってますね。戦闘スタイル? はそれも日替わりですね⋯⋯何がその日に当たるか分からないので」


 ——日替わりで魔法が変わる!


 これは我ながら非常識な事だと言える。


 この世界は、生まれつきで使える魔法の属性が決まる。その中で⋯⋯僕は全属性、全形態の魔法が使えるのだ。


 そう、スペシャルなの! アティシ——特別!


 でもね! 日替わりなの! 意味分かんない! ダメね! お終い!


「そうですよね——ええと、どうしたら良いかしら。当たる能力の確率に偏りはありますか?」

「特には。料理が上手くなる魔法が当たる日も有れば、爆発魔法が当たる日もありますので、本当バラバラですね」

「承知しました。⋯⋯こちらでも相性の良さそうな方を見つけたら声をかけてみますね」

「ありがとうございます。助かります」


 手続きもそろそろ終わりといったところで、欠伸の音が聞こえた。

 音を追うように首を向けると、他の席の受付嬢が暇そうにしていた。偶々目があった彼女がフランクに手を振ってきたので、振り返しておいた。


「——すみません。彼女には注意しておきますので」

「え? いえ。それより、もうギルドは閉店というか⋯⋯閉まります?」

「ギルドは基本的には時間を問わず営業しておりますので。まあ、今は混雑しない時間帯ではありますが」

「そうなんですか」


 へぇ。リッちゃんも寝てるし、暇だから時間潰そうかな。コイツが付き合ってくれたらだけど。多分無理だろうな。

 後ろを振り向いても列には誰もいない。目に映るのはうだつの上がらない飲んだくれ達。


「昨日この国に来たばかりで、聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

「審査の途中なのですが⋯⋯まあ、良いでしょう」

「正直暇なんで、助かります」

「ふふっ、分かりました。少しだけですよ?」


 なにかがツボに入ったのか分からないけど、彼女はふんわりと微笑んだ。心が広い人ってぇのは、どこの国にもいるもんだね。

 

 ⋯⋯っと、そうじゃあない。聞きたい事、聞きたい事。何かあったんだけど、うーん。やばい、忘れた。


「——貴女の氏名、年齢、年収を教えて下さい」

「へ? ⋯⋯クローディア=ベネットと申します。年齢は27歳。年収は、平均700万フロスタ程です」


 スラスラと質問に答えられて驚いた。強者の受け答えだ。流石受付嬢といったところか。僕の完敗だよ。


「ありがとうございます。次に、固有魔法と主に使用する武器と戦闘スタイルを教えて下さい」

「はい、固有魔法は審判魔法。武器はバスタードソードです。戦闘スタイルはアタッカー。ですが、耐久力には自信がありますので、壁役としての役割を担う場合もあります」

「頼り甲斐がありますね!」

「恐縮です」


 思いの外、上機嫌に語る彼女。何か良いことでもあったのだろうか。流石にこうもスラスラと会話が進むと怖いものがある。

 ここらでくだらない事でも聞いて、お開きにしよう。


「では、最後に。何か日常でついついやってしまう事、癖みたいなものってありますか?」

「そうですねぇ。可愛い子を見たら、つい頭の中で——」

「え?」

「ヒュッ⋯⋯」


 ——彼女は口を閉した。


 彼女⋯⋯変態受付嬢の瞳には、口を小さく開けた僕の姿が映し出されている。親に見捨てられた子どもの様な表情をしているね。


 辺りは相変わらず騒がしい。この空間だけ、切り取られたかの様に動きが無い。


「あの」

「——宜しければ」

「はい」

「内密に」

「はい」

「本当に」

「もう。言わないし、言っても誰も信じないから」

 

 ぽっと出の異国人の言う事を、誰が信じるんだ。

 今日はアンタちゃんと寝なさいよ、ホント。


「でも、もしかしたら」

「——あなたのお名前は?」

「へ? クローディアです」

「はじめまして! 僕はスミレ! 冒険者になりたいんです! 審査をお願いします!」

「⋯⋯フフ、承知しました。お時間がかかりますが、宜しいでしょうか?」

「かかってこいよぉ!!」


 この後滅茶苦茶審査通った。

お疲れ様です!

またお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ