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藁の上のクズ

 目を開くと、石造りの天井が見えた。


 毛布を振り払いながら身体を起こす。狭い室内に埃が充満して、軽く咳き込んだ。


 ⋯⋯参った。此処が何処か分からない。


 目の前には、やたらと年季の入った机や椅子が置かれている。見るからにお一人様用の部屋だ。この空間には人を歓迎する要素が全く見当たらない。


 加えてこの部屋、防犯対策もバッチリなようで、頑丈な鉄格子が壁一面に張り巡らされてある。


 ——鉄格子? 


 ⋯⋯嫌な予感の所為で、なんだか背中が熱くなってきちゃった。とりあえず、混乱ばかりしている頭を整理しよう。

 

 何故ここにいるのか、順を追って……頑張って思い出してみよう。



 ——楽して生活出来そうな国を探し、故郷を離れ一人旅をしていた僕は、まあまあ裕福そうでいい感じの国、フロスタ国にたどり着いた。

 

 そう、ここまでは順調な旅路。それで……


 入国審査を受けている途中、いかにも魔女っぽい女が入国用ゲートに放火して、それが崩れた。


 僕は崩落に巻き込まれて、そこで記憶は途切れている。


 ——はい、順調な旅は終わり。



 だいたいこんな流れだった。

 強く頭を打ったからか、記憶が少し朧げになってしまっている。


 ⋯⋯色々思う所はあるけど、欲を言うならもうちょっとマシな場所で起きたかった。


「——起きたか。調子はどうだ?」

「へ?」


 突然声をかけられて驚いた。

 振り向いたその先、鉄格子の向こう側の廊下に立っていたのは、軍服を着た女だった。


「おはようございます。調子は⋯⋯良いですね」

「おはよう。そりゃ良かった」


 調子は別に良くないけど口が滑った。正直結構動揺している。挨拶ついでに、一つはっきりさせておきたい事を聞いておこう。


「ここって、牢屋ですか?」

「そうだな」

「そうなんですか」


 そうか、牢屋か。そっか。

 少しの間を空けて、女はワイルドな笑みを浮かべながら口を開いた。


「心配しなくても大丈夫だ。アンタが犯罪の現場で倒れてたらしくてね。一時的にここにぶち込まれただけだ」

「はぁ。それは災難ですね」

「まだ寝ぼけてるのかい?」


 もしかしたら、犯罪集団の一味だと思われているのかも。そう考えたら返事に困って、気の抜けた返事をしてしまった。

 

 ところで、目の前の彼女は看守なのかな?

 なんだか疲れた顔をしている。早く帰って酒飲んで寝たい、そんなことを考えてそうな。


 彼女は折りたたんだ紙をポケットから取り出して広げた。目を忙しなく動かして、何かをチェックしているみたい。


「⋯⋯色々聞きたいことがあるんだけどいいか?」

「どうぞ、なんでも聞いてください」

「良し。じゃあこっちに両手出して」


 言われるままに、鉄格子から廊下へと両手を突き出した。彼女は慣れた手つきで、手錠の様な装置を僕の手に嵌めた。


 ——不用心すぎたね。


 鉄格子の外で固定された僕の両腕。もちろん身動きは取れなくなった。

 この状況からか、見た目よりも手錠がずっしりと重く感じる。


「おねーさん、これは怖いですよ。怖い、怖い」

「ああ、これ? 審判魔法の装置だけど、知ってる?」


 審判魔法は知ってるけれど、手錠型のそれは心臓に悪い。


「⋯⋯はい、入国審査の時に見ました。あの時は手錠の形じゃ無かったんですけど」

「ああ、ここじゃこれしかなくてね」

「そうですか」

「じゃあ今から質問するから。⋯⋯入国の時に質問した記録が残ってるから、あまり聞く事もなくパパッと終わるよ。」

「分かりました」


 審判魔法か。入国審査の時にもあったけど、嘘が分かる魔法だそうだ。

 こんな便利な装置があることには驚いた。


 ⋯⋯そうだ。審査の際に明らかに分かる嘘をついて、この装置の鳴らす音で遊んでいたら入国が遅れたんだった。

 だんだん、ここにぶち込まれるまでの事も思い出してきた。


 女は上着のポケットから紙とペンを取り出した。ペンは魔道具の高級品だ。羽振りの良い商人が持つような物。


「倒れてたときのこと覚えてる?」

「はい。門が崩れて、跳ねてきた石かなんかで頭を打ったところまでは」

「そりゃ大変だったね。一応聞くけど、門を崩した本人か⋯⋯協力者ではないよな?」

「違いますね」

「はいオッケー。偽りなし、っと」

 

 どうやら穏便に済みそう。審判魔法とやらは、自分に罪が無いがない時は便利だね。


「疑って悪かったね。すぐ解放するよ。最後の質問なんだけど、犯人の見た目とか、なんでも良いから特徴とか、なかったかい?」

「えーっと……魔女っぽい女性が門に火を放つところを見ました」


 あの女は一体なんだったのだろう。

 強力な魔法をゲラゲラ笑いながらぶちかます光景は、ホラーとしか言い様がなかった。


「おう。魔女か⋯⋯それって火の魔法を使った女がいたって事か? 顔は覚えてるか?」

「そうです。顔は、猫目の美人でしたね。赤い髪と赤い目をしている女でした。⋯⋯八重歯がやけに尖って見えたんですけれど、それは気のせいかも知れません」

「はいはい、良いぞ良いぞ。顔以外はどうだ?」

「ええと⋯⋯黒いローブを着て、赤くて尖った宝石が先端についた杖を持っていましたね」

「分かった。他には何かあるか?」

「いえ、特には」

  

 女は鍵を取り出し、装置を外しにかかった。


「今外すからな......よし。これで質問終わり。牢屋に寝かせといて悪かったね。外へ案内するよ」


 案外あっさりと話が終わってほっとした。やたらと重い装置も取り外され、晴れて自由の身だ。

 

 ところで、僕の荷物はどこに行ったんだろう。貴重品も幾つかあったはずだ。

 部屋をざっと見ても見当たらない。何かをしまったり隠すスペースもない為、早々に自力で探す事を諦めた。


「助かります。ところで、僕の荷物知りませんか?」

「あんたが見つかった時には持ち物も無かったって聞いてるけど。まあ、入国料はもうもらってるみたいだし、審査も終わってるから入国自体は大丈夫」


 そうは言われても困った。だけど無いものは仕方がない。後で考えよう。


「とりあえず、出なよ。ここ寒いしさ」

「そうしましょう」

「⋯⋯身体が無事なだけめっけもんさ」

「そう思う事にします」


 鉄格子付きの宿から一歩出たところで、良いことを思いついた。


 ——コイツに土下座して金を恵んで貰うというのはどうだろう。


 もしかしたら上手くいくかもしれない。

 この国でも土下座文化はあるんだろうか。そこだけが心配だ。


 今日は何もやる事ないだろうし、ここで時間を潰そうかな。そう考えて僕が姿勢を低くしたその時、女がこちらに振り向いた。


「なあ、私この後ギルド行くんだけど一緒に来る? 飯でも奢ってやるよ。」

「本当ですか? ありがとうございます! よく見たら貴女、チャーミングですね」

「調子のいい奴だな。とりあえず着いてきな」


 色々問題はあるけど、とりあえず食べてから考えよう。

 僕より一回り高いその背中を負いながら、上機嫌でスキップした。

今日も一日お疲れ様です!

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