その3
満潮時に怒涛のように現れるオオモノシャケ嫌い
時仁のことを知らない女の子(またはおこぼれに預かろうとする男の子)は、顔につられて寄って来ては、最初こそ時仁と親密な関係になろうとする。けれど、時仁のことを知ると、すぐに離れていき、掌を返すかのように罵詈雑言を吐く。友哉も言われたことがあった。
なんでこいつと関わっているんだ、あんなやつほっとけばいいだろ。確かにそうかも知れない。だが、友哉はそうできなかった。
友哉は日の光を反射している河川を見つめる。
「……とも」
「ん、何?」
「……夏休み、どこ行ってたの?」
疑いながら、どこか縋るように時仁が問う。
「……ばあちゃんと、じいちゃんの家に行ってた」
友哉は言葉をつまらせながら、そう答えた。やましいことなんて何もないのに、それなのに、なぜ思うように言葉が出てこないのだろう。
「……ほんと?」
「ほんとだって! 逆に聞くけど、何しに行ったと思ったん?」
時仁は河川に視線を移す。
「……俺、ともが、どっか行っちゃうんじゃないかって」
何ばかなこと考えてるの、行くわけないでしょ。泣きそうな声と顔の時仁に、そう言ってやれたらどれほど良かっただろう。
友哉は棒を噛むのをやめて、時仁を呼んだ。
「……何?」
食べ進められていなかった時仁のアイスは溶けて、雑草だらけの土手の上に落ちる。
「その……俺らさ」
友哉は重い口を開く。
「俺らって友達、だよな?」
こんなことを言いたかったわけじゃないのに。ちゃんと言わないといけないことがあるのに。いざ言おうとしたら、どうして言えなくなってしまうのだろか。
友哉の心中を知らず、時仁はなぜか安堵したような顔を見せる。
「……うん。俺らは友達だよ」
時仁は少しだけ笑った。