その2
正午を過ぎたあたり。夏空の下、土手に腰掛け、鯛釣友哉は氷菓子を口に含んだ。ソーダの爽快感と突き刺すような氷菓子特有の冷たさが、猛暑で疲れた体を癒してくれた気がした。流れる汗を制服の袖で拭いながら、友哉は隣に座る青年に向かって口を開く。
「とき、ちゃんと高校行っとる?」
友哉が通う高校は単位制で、卒業に必要な単位が不足していなければ高校三年生は午前中で授業を終わらせ、下校している。友哉のようにたむろする者もいれば、大学受験に向けて勉強をする者も様々だ。
よれたパーカーを羽織った山蛍時仁は、友哉を一瞥する。端整な顔立ちには青痣が目立ち、その顔に似合わない底のない濁った目は、何を考えているかを悟らせない。
時仁も氷菓子を口に含んでいた。友哉が奢ったものだ。時仁は、買って無理やり押し付けでもしない限り食べ物を口にしようとしない。それでも、大方残すのだが。
「……行ってない」
時仁は首を横に振った。やっぱり、と友哉は残り少ない氷菓子を噛み砕く。
「ちゃんと行かんと、俺らもう高三だよ? 二学期も、もうぼちぼちいいところまで来とるし……早よ進路決めな」
周りは、友哉の話し方を変だと言う。標準語を話しているのに、時々出てくる関西弁が面白いらしく、子供の頃からかわれることが多かった。けれど、時仁はそれを笑わなかった。幼い頃から共にいたというのもあるだろうが、理由はきっとそれだけではない。
「……別に、俺大学行かないし。高校も、別に退学になってもいい」
「ダメだって! これからのことは、ちゃんと決めな!」
時仁は氷菓子から口を離した。あまり食べ進んでいないそれは溶けかかっている。
「……俺は、ともがそばにいてくれれば、それでいい」
時仁にとって、友哉は大きな存在だ。だから、友哉のことを笑わないし、友哉以外を嫌う。
「……またそういうこと言う」
もし女の子だったら、今ので絶対惚れてるだろうな。顔は無駄に良いんだから、友哉ははずれと書かれている棒を噛みながらそう思った。