その1
とりあえず投稿、こっちはかなりの不定期更新です。(2020/6/11、不定期更新からかなりの不定期更新に変更)
ある程度土を掘ったところで、友哉は手を止めた。汗と顔に付いた泥を袖で雑に拭うと、荒く息を吐く。風が吹き、汗で濡れた友哉の体を冷やした。後半に差し掛かったとはいえ、まだ夏は過ぎていない。しかし、夜で尚且つ山の中にいるせいか、普段よりも涼しく感じる。他の場所もこうならいいのに、友哉は心の隅でそう思った。
「とも」
友哉のことをこう呼ぶのは、一人しかいない。
友哉は顔を上げた。名前を読んだ青年も、友哉と同じく息が上がっている。小さな懐中電灯を持つ手は、微かに震えている。
「あと、俺がやるから、休んでて」
「……うん」
友哉は穴から上がると、青年から懐中電灯を受け取った。それで青年の手元を照らす。青年は力なく横たわった男の足を掴むと、穴の方へと引き摺っていった。男は小さく呻きながら友哉の方へと手を伸ばす。その目は、友哉に助けを求めていた。この男は、あともう少しで自分の命が終わることを理解している。死にたくない、そう思っているのだろう。
男の手が友哉の足に触れそうになった瞬間、頭に何かが叩きつけられた。それが石だと友哉が理解したのは、男が情けない声を上げ事切れたあとだった。
男はすでに息絶えている。しかし、青年は手を止めない。男の頭と顔は変形していった。友哉がここへ来た時には既に変形していたが、それ以上にひどくなっている。どんな施術を施しても、きっと頭の形を元に戻すことは不可能だろう。
青年は手を止めない。何かに取り憑かれたかのように、必死に手を動かしていた。友哉は懐中電灯とシャベルを握りしめる。それが、恐怖からだ来るものだということは理解いていた。
「……なあ……なあ、とき!」
やっとの思いで、友哉は口を開く。ときと呼ばれた青年は、友哉の声を聞いてようやく手を止めた。手は血で濡れていて、服や顔にも血が飛び散っている。
「もうやめて……早よ警察に行こう。な? 言ったら、きっとわかってくれるって……!」
声が震えていた。きっと、情けなく見えるだろう。だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
早くこの場から逃げたかった。だが、自分だけ逃げようとは思わなかった。この青年を、一人でこの場に置いていくことがどうしてもできなかったからだ。
「……あいつらは、俺のこと一回も助けてくれなかった。あの時だって、いつだって」
青年は俯きながら静かにそう言った。石を放り出すと、友哉の頬に手を置く。
血の感触が気色悪くてたまらなかった。はたき落したいと思ったのに、それができない。身の危険を感じたわけではない。はたき落とせば、青年を拒絶することになってしまう。
「……俺のこと、理解してくれるのはいつも、ともだけだった。守ってくれるのも、そばにいてくれるのも」
青年の、底のない濁った目が、友哉を離さない。
青年の端整な顔が悲痛に歪む。
「……お願い、俺のこと見捨てないで」
ああ、どうしてこんなことになってしまったんだ。
友哉は目の前にいる青年を見つめる。
青年の顔は、親を探している迷子の子供そのものだった。